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模型術士の鬼盛りサクセス  作者: 雲渚湖良清
二話 【仲間創り】
32/39

邂逅、すれ違いまくり過ぎ

 『それ』には名という認識が無かった。

 『それ』には、己という認識が無かった。

 最初に明確に存在したのは『形を作り、広げる事』という使命感のみ。しかしその使命感も、時には達成欲であり時には焦燥でありと、その内情はあやふやなもので、存在するという自覚すら不確定な状態であった。

 故に、『それ』は他者には認識すら不可能であり、仮に認識できる他者が居たと仮定すれば、およそ五千年の間、そんな状態で世界を揺蕩(たゆた)っていたのである。

 

 だが、それは終わった。

 ある日を境に、『それ』はあやふやな使命感を確固たる使命として認識し、同時にその使命を為す物として、己の名を自覚する。

 

 その名こそが『DM』。ダンジョンマスター、空間を形作る意思の具現者が冠する尊称であった。

 

 DMの基本的な思考は、『スタートからゴールまでの回廊を創る』というものだ。ただし、DMにはその思考を具現化させる情報が著しく欠けていて、最低限、石組みの通路を成せるだけのものでしか無かった。

 ただ一直線の回廊。遥か数百キロ先を見通せる者ならば、スタートからゴールが見える単純な通路。その結果に矛盾は無いが、DMは己の中にそれを納得しない意思があるのを自覚する。しかしどうすれば己が納得するのか? それすら手探りで得なければならないDMの思考は少ない情報から試行錯誤する無為さを早々に止め、自分以外の者から追加しようという、酷く安直で合理的な結論を出した。

 そうして認識を己の外側へと伸ばした結果、【Paradise of Fauve ♂】を元とした異世界の一角に、新たなダンジョンとして存在する事となったのである。

 

 拡張した認識から、DMには回廊内に魔物を配せることを自覚する。その方法と手段も知っていた。自動化された己の機能により、図らずも取り込んだ魔物自体が最初の情報源となる。

 有益だったのは人型をとる魔物。いわゆる魔人にカテゴライズされる物で、集団を組み、小さいながらも社会を構築する思考と生活文化から回廊の拡張性の方向を得られた。

 それが防衛性。魔物が敵対する対象、人間種に対する陣地の有り様である。

 以降、DMの関心は人間種そのものへと移る。人間種を認識したと同時に、人間種はダンジョンを攻略する対象だという記録を知覚したためだ。己を攻め犯す脅威という意識が芽生えた以上、DMに人間種を無視するという選択肢は存在しなかったのである。

 

 だが、DMが人間種を脅威認定した後も、実際には人間種からの侵略を受けることが無かった。

 ダンジョンとして存在してから、多少はダンジョンより外の空間を知覚することも可能となっている。だから自身であるダンジョンが、外の世界に認識されていることも、DMは知覚していた。

 結論を言えば、自分は無視されているという状況なのだ。その事実は『人間種はダンジョンを見つければ攻略する』という知識しかないDMを困惑させた。何故、人間種は侵入してこないのだろう? と。

 DMはこの状況の原因を推測してみるが、その結果は『解らない』である。ダンジョン外の空間を認識はできるようにはなった。しかしその距離や範囲はほんの僅かに離れたほどで、余りまとまった情報とは言えなかった。

 ダンジョンは魔力の増加によって拡張していく。五千年の待機期間を経ていたが、それは種のような状態で、外部から魔力を得始めたのはDMが自身を認識してからだった。それ故に、ダンジョンはまだまだ狭い。

 このまま外部、つまり自身以外の空間から漏れてくる魔力を吸収してというペースならば一階層と同等の物をもう一つ創るのに一年は使う。その階層に付加価値を付けようとすれば、軽く三倍から四倍の日数が増えるだろう。

 そのペースで自分を攻略しに来る人間種に対応できるのか? そう自問するDMは、根拠は無いがかなり厳しいという思いに支配される。記憶は無いし確証も無い。しかし、人間種という存在の脅威は、今自身として存在するダンジョンの規模では、到底安心できる物では無いのだという焦りが治まらないのである。

 

 そんな中、とうとうダンジョンに人間種が侵入して来た。

 

 DMは、その最初の人間種に最優先の興味を示し、そしてやや絶望気味な心境となる。

 確認した六体の人間種。どれもこれも、今まで配した魔物の半分以下のサイズで貧弱。存在価値の基準となる魔力の保有量では魔物達の三割未満。己の中にある脅威を裏づける存在には到底見えなかったのだ。

 それでも試しにと、最弱の魔物をエンカウントさせようとしたら、遥か遠くからそれを感知したようで接触する前に撤退された。

 察知能力だけは予想より遥かに高く、何度か意図的なエンカウントを起こそうとしたが、悉く避けられる。『人間種は用心深い』という情報を得られたが、それだけだ。

 DMの中では『人間種は脅威だ』という基本のものと『人間種は脅威足り得ない』という二つの情報がせめぎ合い、どちらがより真実に近いのか、という新たな疑問すら生まれていた。

 その疑問を解消するために、今、情報源となる人間種との接触を急ぎたいのだが、なかなかそれも叶わない。

 そんなときに現れたのが、新たな人間種。新たな侵入者であった。

 

 対象数は三体。先の六体とは違い、それぞれが強化武装に溢れていた。とにかく戦闘状況を作り、人間種の戦闘能力を知りたい欲求のせいで侵入直後からのエンカウントを設定する。

 幸い、この三体とは戦闘状態が成立した。だがそれは、『人間種は脅威だ』という情報を数十段階引き上げる予想外すぎた結果を出した。

 

 『現在のダンジョンでは対処できない』

 

 それがDMの、偽らざる結論であった。

 

 違い未来、自身が攻略されるのを悟ったDMは、それでも本能として残る部分を活性化させた。

 『この人間種の情報を集め、次回への糧とする』

 そう、自身の終焉を自覚したからか、DMは己には次の機会があるのだという情報を自身の記憶から再確認できたのである。

 

 DMの関心は三体の人間種に固定し、先の六体にはダンジョン自体の機能対処のみで放置することとした。残る魔力はこの三体の為に使いきる。先ずは設置式の施設型トラップに入ったのを手始めとして、とことん、情報を集めようと計画した。

 が、予想外の対応でその計画はスタート前から頓挫した。

 

 閉鎖空間内での限定戦闘を起こし、人間種三体の戦闘限界を知る。そのつもりでダンジョン内の魔物のほとんどを移動させた。しかし、それは回避された。こちらの関与不可能な独自の空間を展開され、そこに待避されてしまったのだ。最低限、漏れ出る魔力からその空間内の状況を知ることはできたが、こちらから何かアプローチをかけることはできない。結局、魔物が基本設定の配置場所に戻らざるをえなくなるまで人間種は待避し続け、DMの目論見は頓挫した。

 だがまるで成果が無かったかというと、実はそうでも無かったのだ。

 

 『この人間種の異常な強さの断片情報を得たかもしれない』

 

 閉鎖空間に待避した人間種だが、ただ隠れていたのでは無かった。中で互いに、模擬戦のようなことを繰り返していたのである。

 最終的に三体の中の一体が勝利し、模擬戦は終わる。勝者はDM自身の記憶によれば、【リモッドキスト】という支援職能に秀でた個体だ。

 単体での戦闘能力は低いが付属して使用する武装によってそれを補い、更に仲間の強化もこなす。ある意味個体差が有りすぎて一概な推測ができない超変数的な存在である。

 この人間種三体の戦闘能力の異常さの原因であるのが、容易に推測できる存在であった。

 

 異常な戦闘能力を発揮したのは他の二体、ドワーフとエルフの系統の亜人種だが、観察する内に新たな疑問を得た。もしかしたら、この模擬戦と判断した状況が、この二体の戦闘能力の付加要素なのでは? と。このリモッドキストの能力は基本情報から逸脱したものが多い。DMの記憶していない何らかの付加能力が、二体を異常強化しているのではと、推測したのである。

 そうなったら、後はとにかく観察である。主に寝技の応酬による模擬戦は敗れた二体が回復すれば再開される。【ペネトレイト】等の貫通系攻撃スキルや【グラウンドバイヴ】等の振動系攻撃スキルといった、一撃一撃が必殺レベルの高等スキルが互いに発動し、本来なら瞬殺される状況をそれに優る回避スキルで去なしていく。それを接敵状態、ゼロ距離で行う模擬戦は凶悪の一言だった。亜人種の二体は時に単独で、また時に連携してリモッドキストに挑むのだが、その悉くを高等スキルの連発であしらうのだから、とても支援職種とは思えない。一戦終了毎に魔力の移動もあることから、やはり、DMの推測通りに何かの支援付加をしているらしいという推測の根拠が強くなる。

 しかし、それでもその正体は解らなかった。

 

 ここでDMは一つの決断をする。

 

 『なるべく、この模擬戦に近い状況を作り、そしてより詳しい情報を得よう』と。

 

 まず魔物の中から、亜人種に近い物を選ぶ。幸いか、女性個体で階層ボスレベルの魔物が一体、存在した。階層ボスの対象ならば、予め行動予定を組みダンジョン内を徘徊させる制限を外しても問題が無い。亜人種の内の一体、ドワーフ型が特定の場所に興味を示している心象は感知していたので、その場所に配置して迎え撃つ算段とする。

 後は待てばいいのだ。いかにも模擬戦に近い状況で待機させるのだから、それに近い対応で戦闘がスタートするのは確実。相手が魔物であるから支援付加は望めないまでも、何らかの魔力の変化は確認できるだろう。それが解れば、後は自前で再現していけばいいのだ。

 そうすれば、今よりは効率のいい魔力吸収のシステムが得られるかもしるない。

 そうすれば、この三体によるダンジョン攻略を少しは停滞させれるかもしれない。

 そうすれば、次の機会により強靭なダンジョンを創る可能性が高まるのだから。

 

 しかし、結果は失敗だった。

 何が原因だったのだろう。魔物は目論見通りの戦闘になる前に対処されてしまった。しかも、欺瞞情報を織り交ぜつつも、ほぼこちらの内情を漏らされることとなってしまった。

 魔物の制御が時折効かないのだ。妙にあのリモッドキストへと友好的となり、必要以上の情報漏洩へと繋がる。

 何とか修正しつつ対処したが、ここまで内情を知られてしまったら全てバレたのと変わらない。せめて、ダンジョンの中心である自分、DMの位置情報が漏れなかっただけでも僥倖である。そして魔物の独自の機転の成果だろうか、友好的な対応がプラスに働き、人間種三体の敵愾心と警戒心を僅かに削ぐ結果となった。

 こうなったらもう、自身の終末に向けてどれだけ有益な情報収集ができるか、だけが建設的な判断だろう。

 対象の特殊性は解明できなかったが、なかば協力体制でダンジョン作成へのテスト役を認めさせたのだ。こちらの対応に返される三体の感想や雑談さえも、自身の新たな可能性のための情報と割り切って、DMは残る魔力でダンジョンを新構築していく。

 

 そして最後に、そうして得た情報の成果として、一つの、新たな目論見を形にしようと決断したのである。

 

 

 

 「……という夢を観ました。ご主人様、何なんでしょうね、この夢?」

 「いや、俺に聞かれてもなあ」 

 

 一階層と二階層の狭間、砦エリアから出た俺たちは、ラミアンの宣言どおりに様々に形態のダンジョンへと挑むこととなった。

 二階層はオーソドックスな平面形迷路。左手の法則とメアの魔物ホイホイで無事対応できたんで問題無く通過した。

 三階層は同じような平面形迷路ながらトラップ付き。こちらの感知スキルや特性を鈍らせる要素もあったが、そもそも魔攻重機をどうこうできるトラップとなると対人レベルじゃ即死級だ。DMとやらにそこまで凶悪な物を置く意思は無かったようで、解除しきれず引っかかったのはパワーによるブレイクでまかり通った。

 いやほら、まず引っかかるのってメアだしな。なら常人には即死級でも問題無いから気にするのもバカらしい結果だ。

 

 そうして次々に階層を進め、八階層目。

 

 「どうもー、おひさしー。今度は真っ正面からガチでいきまっせー!」

 

 いわゆるモンスターハウス。魔物の物量による大殲滅戦の舞台にてラミアンと再会。背後に控える大量の魔物と共に今度は真っ向勝負となって、やはりメアの無双が爆裂しての終了となった。

 

 で、その後。

 さすがに一休みと、コテージでセーフエリアを作成した。

 カルエの妙な報告は、その一休み後に言われたもんである。

 主役はDMらしい、やけに長いモノローグ物だったが、それをカルエが夢に観るという関連性が意味不明過ぎて、まともに対応できない俺だった。

 

 「いわゆる、状況の終わり直前に意味不明要素を駆け足で取り除く暴露展開というやつでは無いのか? 主様」

 「や、そんなメタ展開すら対応するんだったら、このダンジョンのDMとやらのスペック高過ぎだぞ。とてもダンジョン生成のためにあるだけのAI機能とかじゃ割り切れん」

 「そこはほら、やはりゲームが現実になった影響なのでないか?」

 「魂ある相手に対処しようと、自分も魂を得てしまった。んな古臭いSF物なんかねえ」

 「まあ、我と主様の愛のある生活を的外れな解釈で済ませた時点で、魂とは言えんのであるがな」

 「メア姉様。あの凶悪スキルの応酬はどうやっても戦闘と思われるレベルだと思いますよ」

 「ふむ、世間とやらは何とも温い愛情表現に留まっているのだなあ。嘆かわしい」

 「俺はお前が嘆かわしい。まあ、無理やりこじつけるならだ。カルエもこのダンジョンと同じワンダリングクエスト関係からスタートさしてるからな、クエストは妖精界って扱いからして、なんか共鳴でもしたんじゃねえか、なんて推測してみる」

 「「共鳴……」」

 「ま、単にカルエの妄想かもってオチもあるんだがな」

 

 コテージを解除して次の階層へと移動する。

 二度目の戦闘途中でラミアンが再び情報をくれたのだが、どうやらこのモンスターハウスがダンジョンの総力戦らしく、もう先にあるのはゴールとなる空間だけなのだそうだ。

 ただし、いわゆるダンジョンの中心。ダンジョンを作るためのコアのある場所というわけでは無いらしい。あくまでダンジョン踏破オメデトウという意味でのゴールなのだそうだ。

 なので、俺のゲーム知識から来る『ダンジョンコア=ダンジョンマスター』という想像を確かめる機会は無いっぽい。いやこのままDMの居場所を突き止めるのもできないんでは無いが、特に攻略しなきゃならない理由も無くなったんで、そっち方向の気力が湧かないんだよなあ。

 

 当初、未知の素材とかの煽り文句付きだったクエスト内容なんだが、その素材感の大半は魔物からのドロップ品限定だった。ナマモノ系の魔物からは生鮮食品が得られたわけだが、当然、非ナマモノ系の魔物からはソレに準じたドロップ品が出た。各種鉱石や貴金属。魔法金属や魔法装備など確かに未知のアイテムなんだろう。……この世界的には。

 

 いやまあ、この異世界ファーヴ。確かに【Paradise of Fauve ♂】が原点の世界なんだろうが、やっぱりゲーム時代から考えるとトンデモナク退化してんだよな。

 だからか、未知だ希少だと言われる物も、俺の感覚じゃアリキタリのゴミ素材感がハンパないんだよ。

 だからまあ、ゴール寸前まででの成果から評価するに、『もう来る必要ねーなあ』で済むハズレダンジョンだったわけである。

 

 「ま、さっさとゴール潜ってエンマリオ帰るべ」

 

 そして、ゴールの部屋。

 そこには踏破者の証への報酬か、結構デカい宝箱が置いてあった。

 

 「……主様。これをメタと言わずに何を言う?」

 「まあ、(もと)がゲームだ。割りきった方が勝ちなんだろうなあ。精神的に」

 

 これはクリア報酬。もうそんな気分に完全に染まった俺たちだった。だからもう、何も考えずに宝箱に手をかけ、パカリと蓋を開いた。

 開きはじめの蓋のエッジに、ビッシリと生物感のある乱杭歯のごとき牙が並んでたのを確認しても何もできなかったのは、正に油断の一言だろう。

 どうやっても四肢の一部が失われる。こんな状況ではほぼ確実な部位破壊を得意とする魔物だった。

 【ミミック】。宝箱に扮して近づく者を襲う、ファンタジー物じゃ定番の、魔物とトラップの要素を融合した存在。【PoF♂】においてはトラップ風味が強く、プレイヤーに初撃で致命的なダメージを与えはするが、その後の戦闘では容易く倒せるのでそう危険視される魔物でもない。

 が、それもゲーム時代の話だ。その致命的な初撃ってのが良くて腕捥ぎ食われるとかの部位破壊確実なもんなんで、それが現実でとなると食われたやつは確実に戦闘不能の状態にされる。運が無ければそのまま失血によるショック死になるだろうし、腕が首だったらそもそも即死だろう。

 ゲーム同様、数値化された体力値を素早く回復できればその最悪は回避できるだろうが、正直、死亡後の蘇生関係までゲームと同じ解釈で可能かが解らない今、それを体験したい気分には絶対ならない。

 そんな相手筆頭のミミックに、宝箱というヒントがありながら気付かず引っかかった自分が実に情けなかった。


 「みくん!」

 

 腕一本は諦める。そんな必死の覚悟で即死だけは避けようと回避スキル全開で遠退きかけたところで、そんな緊張を根刮ぎ掻き消す可愛い声が鳴った。

 

 「「「はっ?」」」

 

 牙付きの宝箱の蓋、ミミックの大顎が開ききってみれば。

 それは普通の宝箱のようにアッサリと開ききり、中からは幼女らしき子供が両手をバンザイの恰好にして立ち上がっていた。

 

 「みくん!」

 

 綺麗なY字倒立を披露する子供が再び鳴く。意味は解らん。が、ちっちゃい子が理解不能の謎言語を操るのは極普通だ。特に気にする部分じゃない。

 気にするべきところは、その子供があまりにも異様な外見をしてるところだろう。

 南国風の褐色の肌。しかし髪は黒とは真逆の、金属光沢すら発する銀髪だ。しなやかさもあるのか脚部まで届くロングストレートは僅かな動きにも反応してユラユラと波打っている。

 瞳の色は、基本は髪色と同じなんだろうが涙腺の影響で虹色に揺らめいている。

 ハッキリ言えば、とても人間とは思えない異形。亜人化した女というカテゴリーからも外れる異質さだ。まあ、例えるならばラミアンに近い雰囲気で、ということは魔物に近いとも言える容貌だろう。

 

 だが魔物っぽい印象を感じないのが、本心からの感想だ。

 

 二度目の『みくん!』という鳴き声は、唖然とした俺たちに対する『リアクションしろやぁ!』というイントネーションを含む感じで、とてもこれから戦闘開始だというものじゃない。

 なんというか、まあ不機嫌だという自己主張なんだろうが、見た目が子供なんで逆に愛らしいっていうか……、なんだかなあ。

 

 「主様、どことなく格闘系ゲームなんかで、我の2Pキャラとして使われるような小娘であるな」

 「みくん!」

 「確かに言われてみれば。だがメアよ、それは自分が小娘だということになるのを、告白すんのと同じだぞ」

 「みくん!?」

 

 妙な状況につい自分の外見(アバター)を客観視した言葉を吐いたんだろう。俺のツッコミに精神的なダメージを受けて言葉も無く仰け反るメアだった。そして何故かメアとシンクロするようにショックを受けたというリアクションをする子供。うぅむ、なんか本当に2Pキャラみてーな印象だなあ。

 

 「……あっ、なんか唐突に夢の続きを思い出しましたよ、ご主人様」

 「は?」

 

 

 

 リモッドキストへのアプローチ失敗の原因は何だったのだろう。DMの中で答えの出ない疑問であった。模擬戦の相手に雌形態の個体を好むのは確実だろう。雄形態なのは当のリモッドキストのみであり、相手が雌形態のみという状況ではあるが、観測できるリモッドキストの感情状態から雌形態を望んでいるのは間違い無いと確信できるものたった。故に最初の魔物に、亜人種に近い雌形態の物を使ったのだから。

 ならばそれが失敗した原因とは、もしかしたら外見の形状だったのかもしれない。

 使った魔物は雌形態の中でもかなり成熟していた。その差異がリモッドキストの感情に合致しなかったのてないか? とDMは疑問への解答を上げ、残る魔力と時間から、その解答を形にすることを、このダンジョンでの最後の創造へと決めたのであった。

 

 

 

 「……つまり、なんだ。このダンジョンのDMは、俺が幼女趣向の変態だと認識したってことなんか?」

 「まあ、我に萌える主様であるからな。さもありなん、としか言いようがあるまい」

 「業腹ですけど私もそっち系の体型ですしね」

 「みくん!」

 

 やっと理解したかという雰囲気で、俺に対して諸手をあげて『ウェルカム』というジェスチャーの子供だった。

 

 「なあメア。いっそこれもラミアンみたいに──」

 「勿論せぬぞ。これは立派な戦利品だ」

 「さすがにこんな子供は、ダメでしょう。ご主人様」

 「あるじ? ごしゅじんさま? みくん」

 「うーーー……むう」

 

 ダンジョンの判断には大いに反論したい俺である。

 ラミアンの件は女体の趣向云々以前の問題で、むしろ俺としてはラミアン系の増量を望むのだから。

 健全な青少年なんだから当然だ。まだまだ、年上のお姉さんとかに萌える年代なんだよ、俺様は!

 だからってこの子供を要らないと放置できるかというと、そんな冷酷っぽい決断ができるわけでもなく……。

 

 えーと。

 うーむ。

 

 ……何でこうなるのかなあ。と心で泣くしかない俺だった。

 

 

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