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模型術士の鬼盛りサクセス  作者: 雲渚湖良清
二話 【仲間創り】
27/39

第一階層

 ダンジョン一階層。

 例の水回りの配置からして、このダンジョンの作りは初心者用の規格品といった感じだ。

 上に昇るか下に下がるかは解らんが、進んで階層を重ねる事でゴールに至り、同時に攻略難易度も上がって行くってタイプだ。

 だからか、一階層には入った者を迷わせるような通路構成や罠の類もない、単なる回廊のような作りとなっている。登場したジェリーブロブも、遠距離武装の多い【PoF♂】じゃ、そう凶悪な魔物ともいえないし。

 つまりは、あまり緊張感のあるダンジョンでない、という感想のもんなわけだ。

 

 「未知のダンジョンって、なんか名前だけは大層なんだがなあ」

 「主様が言ったではないか。素人シナリオっぽいクエストだと。ならばそう期待できるダンジョンとは思わん」

 

 “パパパーン”と前方で破裂音が鳴る。音の正体はもう見慣れた魔物、ジェリーブロブであり、音を鳴らしたのは魔砲を放ったカルエである。

 魔攻重機の魔砲にセットしてある風系の範囲魔術【バブルサークル】。索敵範囲前方に魔物の反応が出たら取りあえずその位置で魔砲を使い、体よく先制ダメージを与えるようにしているのである。

 この魔術は着弾地点から半径五メートル程の球形を効果範囲とし、その中にテニスボール大の泡を無数に発生させる。この泡は石鹸皮膜とかで出来る物ではなく、気圧差で泡に見えるという代物で、泡の実態は平均五十気圧の圧縮空気だったりする。集める空気は当然周囲からであり、泡以外の範囲空間は真空近くまで変化する。

 で、こんな状態の中にいる対象は真空と高圧に同時に曝されるわけで、耐圧能力が低ければその気圧差に準じたダメージを受けるというわけだ。

 さっきからパンパン鳴るのは、その局所変化する気圧に耐えられないジェリーブロブが破裂する音で、そんな瞬殺連鎖のおかげでカルエには景気良く経験値が集まっていた。

 

 「やっと【魔力操作】のスキルが取れたな。これで照準の能力値も上がるし対象選択もできる。喜べカルエ、これで味方にダメージ無しで魔術が撃ち放題だ」

 「はい! ありがとうございます。ご主人様」

 「主様も是非取ってほしいスキルであるな」

 「お前に突っ込む手段が攻撃以外にあるなら取るぞ」

 

 魔力操作のスキルは過剰に親切設計でなあ、ダメージを算出する系の魔術全般が味方対象に取れなくなるんだよな。範囲系魔術なら多少はそれから外れるんだが、俺の攻撃でそれするとカルエも対象になる。

 カルエはメアほど頑丈でないので、そんなのは論外な行為でしかないわけだ。

 

 ちなみに、俺の武装は基本的に銃器類だが何らかの魔術付加要素があるので魔術攻撃に区別される。特に弾丸なんか大半が加工した魔石だからな。

 メタル、ソフト、ホローなど旧来の弾頭の物は存在するが、正直、それらは魔物はおろか新種族化した人間にすらダメージが通せるかも怪しくなっている。

 マギボーグを例にするなら、五歳児くらいにはもう豆鉄砲な感じだろう。というか通じないと解ってても子供に撃つとか、ちょっと想像したくない。

 

 ちなみに、よくメアに撃ち込むのは土属性の魔石弾丸だ。物理衝撃が実際の八割り増しで、本来ならば内部で粉々に炸裂してダメージ増量が見込めるという効果を持つ。

 メアに対しては、その表皮であえなく弾かれてるがな。

 垢擦りタオルの代わりにもならんとか、このドラフは果たしてドワーフの範疇に収まる生命体なんだろうかと疑問が浮かぶ。

 普通の動物型な魔物なら、一発で行動不能にできるんだがなあ。

 

 さて、身内に嘆くのはおいといて、意識をダンジョンに戻そう。

 

 「愛のこもった突っ込み攻撃ならば、もう何発も受け入れてるのだが」

 

 意識をダンジョンに、戻・そ・う!

 

 ここの一階層は、徒歩並みの徐行速度で道なりに進む以外にない。なんせ緩やかに右へとカーブする一本道だ。枝道一つ無いので、出会う魔物は片端から始末するしかない。

 同時にカーブはやや下り坂でもあって、まるで立体駐車場の中を下ってるような錯覚を覚える。体感だと現在地はカーブを描き始めて七割ほど。アナログ時計の零時から例えれば九時の辺りといった感じだ。

 この手のダンジョンならば、完全に円を描けば大体一階層を降りきったとなるはずなので、一階層はこのまま一本道で終わるのだと予想する。

 

 「練習台っていうかまあ、カルエの経験値稼ぎには丁度良いと割り切るか」

 「表なら結構遠くまで視えますけど、ダンジョンってちょっとキツいです」

 「ふむ、エラフの特性は郊外向きなのであるな」

 

 このクエストを掴むきっかけ、カルエの索敵能力距離の異常さを俺達は知ったわけだが、何キロも先を知覚できたのはフィールド限定の能力だと今知った。

 ダンジョン内みたいな閉鎖空間だと、その索敵範囲はガクンと落ちたのだ。

 

 「とはいえ、直視できないのに索敵範囲内なら知覚可能とか、俺の索敵スキルと大差ない特性だなあ」

 

 一応検証しつつの結果、カルエのダンジョン内での索敵距離は半径五百メートル。鍛えた俺のスキルの半分ほどだが、マップレーダーでの光点で敵味方判定程度の確認しかできない俺とは違い、カルエはその魔物の種類までを言い当てる。

 俺が光点の微妙な動きを過去に対した魔物に当てはめるプレイヤースキルな部分を、もう素の時点で備えてるっぽいんだな。

 

 最初にジェリーブロブと対してから増えた魔物の種類は二種類。野犬系のくせに壁面高所に貼りついて待ち伏せする【クライムドッグ】。見た目は白黒マダラ模様のピレネー犬。ただしサイズは虎並み。顔の造形は愛らしいがそれだけだ。というか、虎サイズの超大型犬が頭上から降ってくるとか、愛らしさなんか関係無い恐怖だろう。

 残る一種は【カーペットバイパー】。シート状に平べったい身体を持つ毒蛇で、これも壁に貼りついて待ち伏せするタイプの魔物だ。このシート状ってのが厄介で、壁を構成する石材一つとピッタリ同じ形なのな。体色も同じなんで潜伏中はマジに壁と見分けがつかない。気づかず通り過ぎようとすれば、蛇独特の素早い跳ね方で顔面横から襲われ無防備に首に噛みつかれるのが、大概この魔物に不慣れなやつのファーストコンタクトとなる。毒は出血系なんで麻痺って動けなくなる事は無いが、解毒処理しなければ出血多量か壊血症のバッドステータスで確実に倒れるから要注意だ。

 まあ、殺られた当人的には貧血症状による多幸感な気分で逝くんで、人によっちゃ、結構癖になる死に方らしいが。

 

 が、今回。その特性はどれも発揮する以前に倒される。

 初期から中盤レベル対応の魔物の索敵距離はせいぜい百メートルだ。クライムドッグもカーペットバイパーも待ち伏せ型なのが災いして、ピクリとも動かない状態で五倍近い距離からカルエに補足されるんだからな。照準がブレる心配など欠片もなく、余さず魔砲に呑まれる結果となるわけだ。

 まったく、実に哀れだよ。

 

 これがカルエ自身の魔術ってなら、まだ一撃死を逃れて反撃を、となるのだろうが、魔攻重機に載せた魔砲は必要魔力が大きいこともあって威力も高い。

 単に撃ち手がカルエなだけで、最前線クラスのダメージを出す魔砲の性能には全然抗えてないのが実態だった。

 

 「あ、ご主人様。なんとなくもっと遠くの魔物が視える感じになりました!」

 

 どうやらカルエはレベルが上がると感知系の能力が上がりやすいか。

 肉体系の能力値はレベル一つ上がっても微妙な上昇だが、知性やら感覚やらは元の数値の倍近く上がる。

 これがカルエ独自の才能なのか、もしくはエラフとしての種族特性なのか。特に亜人とのパルティ経験の無い俺には判断できない。

 メアは一応亜人だが……、プレイヤーだし変態だし。コイツを判断材料にすると取り返しのつかない結果になりそうなんで、除外だよな。

 その意味じゃ、俺にとっての亜人というか、この世界の常識でいう女ってのはカルエが初めてということになる。つまりはカルエが俺の中に亜人の基本を刻むわけで、結果、カルエには様々な試行錯誤の実験台になってもらうこととなるわけか。

 そう考えるとなあ、これからイロイロ無茶させることになるんだろうと、少々申し訳無い気分になる。

 

 ぱーーーん!

 

 より遠くの魔物。またジェリーブロブだろう。それが爆ぜる音が届く。

 まだキャラ作成のシステムから外れてないのか、カルエのステータスは俺が管理する流れなんでレベルアップ後の新スキル修得やそのセットと調整も俺がしている。

 カルエにはそれが体調変化として自覚できるようで、急に拡大する知覚範囲に喜んでリロード後即、魔砲を放つのに浮かれてる。

 

 メアは最初こそ無双で周囲を跳び回ってたが、今はカルエの横で待機している。この一階層、出る魔物が隠れ潜むタイプが多いからな。念のため、カルエに対するバックアタックに備えさせている。

 

 「はわぁ、水と土のトモダチしかいないと思ってたら風の子も少し出てきました!」

 「それは良かったな。友人が多いのは良い。ちょっと他の人に見えないところは……いや気にしないでいいだろう」

 「ありがとうです。メア姉様」

 

 レベルが上がって【魔力高適性】のスキルが上位互換化した。新たに【魔力超適性】と名称を変えたことで周囲の精霊への親和性が上昇。ゲーム的に言えば環境で制限される属性影響力が緩和され、扱える魔術が全体的に強化された、って感じなんだろう。

 まあ、メアの内心ではカルエが精神的に可哀想な子という扱いな気がするが。

 しかし、正直メアには我が身を振り返ってほしい。

 

 メアよ。いくらポカポカ南国肌色率の多いこの世界でもだ、路上で堂々と露出痴女パフォーマンスする残念なやつは敬遠されてんだぞ。

 これまでメアが発した路上での発狂主張は、通りすがりのトップレスの亜人奴隷にすら『近寄ったら危険』、『目を合わせたら危険』、な反応を返されてんのだ。隣を歩く俺には嫌でも認識させられる現実だった。気づいてないのは、力強く吠えて悦になる変態ドラフだけなのである。

 

 「……主様。先程から妙に我に優しげな視線を向けているが、今は探索中だ。仕事に集中してほしい。カルエも成長著しいが、やはりこのパルティの探索の瞳は主様なのだからな」

 「お、おう」

 

 いかん。ヌルい現状に気が反れて、ついついメアに憐れみの視線を出していたようだ。

 その当のメアに注意されるようじゃ、話にならん。

 気を引き締めて、薄闇に沈む回廊の先を探索レーダーに被せて魔物の探知逃れが無いよう注目していく。

 と、何だろう、今度はメアからのハンドサインが来た。

 

 『階層・移動・休憩』

 

 【PoF♂】にはパルティチャットという、仲間同士での思考同期に等しい機能がある。脳内に会話ログが浮かぶような感覚で、どんなに膨大な内容でも瞬間的に理解できる、対話という時間的な制限を無視したテレパシーのように使えるものだ。

 圧倒的に便利なのでゲーム時代はこれで長々と作戦を練り上げ、実際のプレイへと反映させた。

 まだ現実化したこの世界では試してないが、その内ちゃんと機能の確認をしといた方がいいだろう。

 

 が、そんな機能があるのを承知で、プレイヤー同士はサバゲーな感じでハンドサインを使う時もある。手の振りと指の形で仲間でしか通じないローカルな意味を決め、気分的な一体感が楽しめるのが大きな理由だ。

 俺とメアもコンビを組んでからは、二人でしか通じないハンドサインを幾つも決めた。これらとメジャーなサインで戦場エリアを走り抜け、敵プレイヤーを蹂躙した記憶がフッと脳裏に浮かんできた。

 

 さて今のサインからは、単純に『二階層へ降りる途中で休憩しよう』という意味となる。まだカルエも余裕で行動さしているが、一応、安全策で休み休み行こうというわけだ。

 魔物のレベルとカルエの行動で半分忘れかけてたが、このワンダリングクエストじゃ敵性の冒険者、対パルティ戦闘も考えとかなきゃならない。今までの展開から俺達が戦力的に劣る状況にはならないだろうが、それでも一般フィールドとは常識から違うらしいワンダリングクエストの空間は、油断しない方がいいのは当然だ。

 ならばメアの判断は正しいわけで、今ちょっとハイ気味のカルエをクールダウンさせる良いタイミングともいえた。

 

 そしてまた、メアから続きのサインが来る。

 

 『拠点・構築・篭城・そして……は?』

 

 まあ流れとしては、『簡易な休憩じゃなくしっかり体力の回復ができるものを』という解釈なんだろうが。

 最後のサインは作った記憶の無いアレだった。

 【フィグサイン】。①、開いた手のひらの状態から、親指の先端を人差し指と中指の間の位置に動かす。②、その状態のまま、人差し指から小指までの四本で拳を握るように指を折る。③、親指を隠すように握った拳になったら、人差し指と中指の隙間を割るように親指の先端を出す。そしてラストの④、親指の先端を出す、隠す、と交互に繰り返す。

 まあなんだ。いわゆる、男女の健全な営みを象徴させたハンドサインである。

 

 このサインの歴史は古いらしい。欧州では邪悪な悪魔に襲われた聖職者が魔除けとして使い、聖なる教義の版図を広げるための結界にしたとか。日本でも政敵を呪うための式神払いに活用され、容易に取り憑かれないよう陰陽道の技として活用されたとか。

 しかし全世界、多くの地域で共通の認識として通じるくらい、認知度が高いのは、エロい意味表すサインだ。

 まあ一部の地域でしか通じないローカルな意味も含むらしいが、世界共通認識ならば大概がまあ、エロい意味を表すサインだ。

 くどいようだが、だからこそメアが使ってる意味だって、まあ確実にエロい意味を表すサインだ。

 

 つまり今回のハンドサインの解釈はだ。『とりあえず次の階層行く前に御休憩しよう。ほらカルエもいい感じになってるし』となる。


 「あだだだだだっ、主様っ、何を御乱心めされたか!? 迷宮でござる! 私トモダチ、撃つのは敵、味方撃たない! ヘールプミー!!」

 

 さっきまで感じてた俺の感心さを返せ、である。

 魔攻重機に乗ってるのを幸い、普段は使わんから外してる米軍の名銃、【ブローニングM2重機関銃】を展開して即撃ちまくる。

 俺の車両型魔攻重機は偵察用装甲車、M20をベースにしてるから基本的な付属品なら即時顕現化も可能なのである。弾は再設定してないからNATO通常弾と貧弱極まりないが、まあそこは俺自身のスキルで嵩ましして高威力に盛って行く。

 メアの肉の盾を貫ける威力は無いが、要は狙いようだ。

 口中、耳の穴、鼻の穴。貫けなくても弾丸が侵入可能な部位は山ほどある。特に女はデフォルトで穴だらけだからな。全ての部分に基本弾数一千発をブチ込んでやるわ!

 

 「はやややぁ! なんかご主人様が御乱心です! ていうかメア姉様、何故避けません? なんで変な声あげてピチピチ跳ね転んでますぅ!? 何なんですか、この状況!???!」

 

 ガガガガガガと爆音が鳴り、聞きたくないがメアの歓喜の奇声が轟く。

 いささかダンジョンにはそぐわないかもしれないが、一応、阿鼻叫喚っぽいダンジョンらしさはあると思う。

 

 うむ、カルエ。悪かった。

 お前の初ダンジョン、あんまりいい思い出には、なりそうに無いよ。

 

 

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