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模型術士の鬼盛りサクセス  作者: 雲渚湖良清
二話 【仲間創り】
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探索開始

案外、時間的な余裕ができたので。


 さて、ダンジョンの入り口は坑道の一部だったのだが、それは半分に割れた山の中というわけではなかった。

 本来はもう枯れた場所扱いの、平地と貸した部分の地下にあたる箇所だったのな。

 

 大まかな概要があったので記すと。

 『現在の主鉱床である山の中腹では、断面となる部分から採掘した土砂を落とす事で地上へ出していた。その落下地点となる部分が土砂の衝撃と圧力で陥没。大規模な縦穴と化し、その縦穴の一部がダンジョンの入り口として発見される』

 といった内容だ。

 

 チェリーフォルンという町は本気で坑道まみれな土地にある。

 陥没した部分もかつては採掘場の一部だったわけで、平らに均させた地面の下は平気で縦横無尽に坑道の通る、いつ崩落してもおかしくない危険地帯だったというわけだ。

 ダンジョンが見つかった事で縦穴は拡張され、行き来しやすい擂り鉢状へと削られた、まるで露天鉱床のようになっている。

 現状、ただ掘ってまた崩落するのも困るんで、いろいろアチコチを補強中だそうだ。

 正直、気軽に歩いて行くのすら、この手の常識に疎い俺など恐ろしい。

 いつ足下が崩れるか解らんとか、どう平気でいろって話だ。

 

 「主様、とりあえず我の歩く後を続けば平気だ。ちゃんと穴の無いとこを行くからな」

 「さすがです。師婦!」

 「つか、解るんか」

 

 元がプレイヤーでもドワーフ系の亜人という能力は発揮するらしい。歩けば地面の下の様子がなんとなく解るのだとか。

 少なくとも、メアの足の下はミッチリと土が詰まっているそうだ。

 

 そうして入ったダンジョン内。

 中は元が坑道とは思えない、見事な巨石が組み合わされた、遺跡型といえるタイプのダンジョンだった。

 高さは約二十メートル。幅は約十五メートル。まあ、典型的なダンジョン通路で、人でも魔攻重機でも充分に行動できるサイズだ。

 壁には天井から続く幅十センチ程度の縦の溝が一定間隔で刻まれて、その溝には絶えず水が流れ落ちている。落ちた水は壁と床の境にある縦溝と同じような幅の横溝を流れ、ダンジョンの入り口の方向へと消えて行く。

 この水は落ちてくる状態ならば飲み水。床の脇を流れる状態ならば下水と思っていい。これはダンジョンを探索する者の命を繋ぐ重要な要素、水を供給するためのシステムなのである。この水がある限り、探索する者の喉は渇かない。そして例え迷っても、流れる先へと向かえば出口に辿り着ける。

 ちなみに、これは人が用意したものではなく、ダンジョンが用意したものだ。ゲーム時代でいうプレイヤーへの救済システムというやつで、長期間、ダンジョンに潜っても可能なようにと用意されていたわけだ。

 

 「確か、人間が簡単に逃げ切れないよう、奥へと向かわせる罠とか設定されてたなあ。とことん後付け感の強い設定だったけど」

 

 VR環境なので、ゲームとはいえ仮想の空腹感は生まれる。しかしアイテムストレージがあっても、許容量の個人差からそう食事アイテムに枠を割くプレイヤーもいなかったんだよな。で、最低限、水さえ確保できればその分余裕ができるだろうと、こんな設備がダンジョンに常設されたったわけだ。

 勿論、大体のダンジョンにはあるが全てのダンジョンというわけじゃない。砂漠の演出を必要とする所とか、溶岩窟とかで瑞々しい雰囲気を出すとか興醒め感満載だしな。

 

 「しかしだ。現実となった今はゲーム時代より遥かに助かる機能だな、これ」

 「ゲーム時代、開発連中のモラルを芯から疑ったが、正直今は非常に助かる。ありがとう、開発。そしてこの倒錯的なシチュに大いにノって良いのだぞ、主様」

 「よしこっち向けメア。今日は眼球に三点バーストしてやろう」

 

 ダンジョン内の上下水道システム。現実となってその必要度が跳ね上がったのは確かだが、よりリアルさを追求した開発連中は、ゲーム時代でも妙な施設を付加していた。

 下水に関したある物。『マンホール』である。

 

 マンホールといっても日本で定番の金属円盤ではない。円盤ではあるが格子状で構成された、粗めの金網に近い代物である。

 床脇を流れる下水の一部はこのマンホールに繋がっていて、何処とも知れない地下深くへと水が渦巻き落ちていくだ。

 開発はこのマンホールの用途を当然のように説明した。

 

 『これは君らの清潔さを守るトイレとしても使える』と。

 

 ま、大ヒンシュクだったな。

 

 マンホールは、ほぼ通路の真ん中にある。そして囲いとなる物は無い。

 どんな露出プレイなんだと誰もが突っ込んだ。

 例え誘い受け感満載でも、皆が敢えて突っ込んだ。

 

 そりゃあ、人前での排便行為が恥ずかしいという概念が、世界的に定着したのが二十世紀の後半も後半でもだ。二十一世紀の現在じゃほぼ生活常識の一つなんだからな。

 いくらゲームでもヒンシュクものだったさ。特にVR系ゲームが普及してる地域じゃ当然のようにな。

 

 さすが【Paradise of Fauve ♂】。基本的な部分が発狂している。

 

 てわけで、極一部の趣味のプレイヤー以外は、そのマンホールをトイレとして使う事は無かったんだが、やはり現実となった現在としては、こういうトイレの設備は非常に助かるとしか言いようがないのだった。

 石組みの通路という環境で、糞とは非常に危険なのだから。臭いとか汚いとかはまあ当然として。野生動物にはその臭いが撒き餌に近い機能となる場合もある。魔物だって同じだ。トイレにもよおして我慢できずにしてみれば、それを合図に魔物に襲われるとかシャレにならんし。俺やメアならメニュー選択で装備を一瞬で着替えるのも可能だが、普通のやつには無理。つまりは下半身が残念な状態での戦闘となる。というか下手すれば戦闘行動すらとれない状態となる。

 それで死んだら哀れだよな。

 でも今なら有り得ないとかも無いんだ。

 

 一応水洗扱いのマンホールなら、まあ、臭いはそう長く続かないだろう。床が汚れないから歩く時の障害にもならないだろうし。

 

 そして人間がそう行動するのに落ち着けばだ。

 

 「臭いがする方には魔物が居るって合図になる、と」

 「入った早々に魔物とは」

 「え? どうしましょう、ご主人様。まだ私用意できてないです!」

 

 徒歩でダンジョンに入った俺達は、まだ魔攻重機をアイテムストレージから出してない。

 俺の主武装は車両に据え付けてあるし、カルエは乗らないとそもそも魔法が使えない。

 この時点で戦力となるのは、まあ、メア一人となるわけだ。だから。

 

 「ほい、今から出すから慌てず乗れよ、カルエ」

 「うわスッゴい。ご主人様、スッゴい平常心です!」

 「だってなあ……」

 

 虚空に浮かぶメニュー画面から魔攻重機を顕現化させる傍ら、空いた方の指先で通路の先を指し示す。カルエがその方向を向けば、実に分かりきった結果となっていた。

 

 メアの無双である。

 

 魔物の臭い。それはVR環境でもあった要素だ。五感で感じれる要素はトコトン再現する。それが【PoF♂】の売りだったし、だからこそそのリアルさが非人道的な部分を演出する部分でもあったのだ。

 腐肉の臭いの不快感とか、実際に嗅いだら生半可な演出じゃ興醒めだし。

 なので、幸か不幸かプレイヤーの大半は臭いでその状況が解ってしまうんだな。

 今回の臭いから予想できた魔物は【ジェリーブロブ】。スライム系の魔物なのだが体内のガスの浮力で風船のように膨らみ浮いてるのが特徴となる。

 その体表は胃壁が裏返ったもんで、直に触れたら爛れるか溶かされる。ただし溶かす対象は生物で金属には余り影響が無い。だから遠くから槍とかで突いて割ってやれば問題無く倒せる雑魚だ。

 注意するとすれば、割った時の飛沫が素肌に触れないよう、壊されてもいいクズ装備をまとっておく事だろう。

 

 つまり、金属の義腕と不壊の全裸というメアには無力な生け贄でしかないわけだ。

 メアが戦闘可能な時点で、焦る要因など欠片も無いんだよな。

 

 「うふふふ。ほら主様。我ったら全身汚い粘液でドロドロであるぞ。このシチュ、存分に燃えちゃって好いのだぞ」

 

 まあ、余計な精神の汚染状態はおいといて。だが。

 

 まだ外装無しでスケルトン状態に等しいカルエの魔攻重機には、コクピット回りを間に合わせの布でカバーして、中のカルエにダメージが行かないように調整する。ダメージは無さそうだが、粘液浴びたメアは全身から嫌な臭い付きで白煙上げてるからな。あれがカルエにかかったら大変だ。

 その後は俺の車両を出して武装の点検。特に残弾の怪しいのも無いので、魔導炉に火を入れて徐行で進む。

 機体の移動操作にはもう慣れたカルエも、歩調を合わせて俺に続く。

 

 しばらく背後から変な悶えが届いて来るが、まあ、そのうち治まるから放っておこう。

 

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