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模型術士の鬼盛りサクセス  作者: 雲渚湖良清
二話 【仲間創り】
24/39

スタート前から脱線もよう

 鉱山都市、チェリーフォルン。

 ファンタジーで言う鉱山ってえと、山の中や地面の下を穴だらけにした場所に掘っ建て小屋が乱立してるとかなイメージがある。

 そんなイメージがメジャーかマイノリティかは知らないが、とにかく俺の中ではそうなってる。

 しかしチェリーフォルンは、そんなイメージとは隔絶したような造りの町だった。

 まず視界を埋めるのは、キレイな正三角形を成す円錐形の山が、ほぼ縦に半分に割られているという絵面だ。チェリーフォルンという町は、その割られた壁面に貼り付くように、またはその下の綺麗に整地された場所に居住区画を作っていた。同時に町全体が巨大な工場のような一体感を有しており、それは近代日本史の授業で習ったような、大昔の川崎工場地帯のようでもあった。

 もっとも、ここは場所としてならば全然川崎とは関係無いんだが。

 

 ゲーム時代の設定で言うなら、過去、元々は世田谷区と渋谷区という関東平野の一部であったこの地域が異世界化した事で大規模な地殻変動を起こす。その結果は急激な造山活動という形となり、なだらかな地形は見事針山のような山脈地帯へと変わった。

 しばらくはそんな環境のまま、千年くらいが過ぎたらしい。

 だが何かがきっかけで、その山々の大半が良質の鉱物に満ちていると解った。

 後はまあ、延々と続く採掘作業だ。

 山脈となった地形も徐々に崩され、ゲームの舞台となる時代には現代を彷彿とさせる地形へと戻っている。

 今は山脈だった頃の面影として採掘途中の山が幾つか残され、町の中心は半分まで削られた山がランドマークとなっている。というわけだ。

 

 地道に削られたと思えない、スッパリの割れた山の断面にはまるで高層ビルのレリーフでも掘ったような感じになっている。

 そこがチェリーフォルンという都市に生きる者の居住区画であり、同時に仕事場となっている。

 ゲーム時代は何年も変わらない風景なんだが、多分、現実じゃあそのうち無くなる風景なんだろうな。掘り崩され尽くしてな。

 

 「さて、そんな衣食住の混ざりきった環境の何処にダンジョンが湧いたやら。実は結構傍迷惑な状況なんかな?」

 「窓から外を覗いたら魔物とコンニチワ。ワイルドであるな、主様」

 「それ町がダンジョン化したのと同じですよ、メア姉様」

 

 俺達は白狐便の一行と別れ、そのままチェリーフォルンへと足を延ばした。

 野盗に化けてた冒険者等は気絶から覚めねーので、拘束したまま現場に放置。一応は白狐便の方からエンマリオへと連絡させて処理する流れとなっている。

 

 ワンダリングクエストの流れが何処まで一般の空間に作用するかは知らないが、まあ、例え放置で連中がどうなろうと知った事ではない。倒した時点で経験値は得てるし、当然ドロップ品もアイテムストレージに収まってる。

 いわば存在が出涸らしのようなもんだ。ひと欠片の興味すらもてないゴミである。街道上なんで野良の魔物も出ないだろうし、エンマリオからの回収が済むまでの絶食くらい、犯罪者なら受けて当たり前の扱いだろうし。

 

 「で、主様。この手がかりとやらの流れで動くのか?」

 「いやガン無視する。内容的に得るもの無さげだからなあ。俺達は俺達でダンジョンアタックの方がマシだろ」

 

 新宿都心部から渋谷区の都心部へ。車両使ってで現代ならば、渋滞込みでも数十分の距離となる。大自然と化した現在も、魔攻重機での移動ならばそう変わりない。一時間とかからずチェリーフォルンへと到着した俺達は、まだ日も高い事からシティクエスト的な逗留より先に、ダンジョンアタックな探索を優先する事とした。

 

 ちなみに手がかりとは。野盗モドキの冒険者達からドロップした作戦指示書的なアイテムだ。

 内容は、『本隊がダンジョンで荒稼ぎする間、情報を秘匿できるように女を襲え』といったもの。時間稼ぎしろと書かれてるだけなので全く参考にならない。単に俺達へと、クエストはこんな感じで進行してますよ、的な公開情報でしかないわけだ。

 

 「なんかこう、シナリオ組んだヤツの素人っぷりがプンプンしやがるよなあ。ミニクエストの担当が二時間で作りました、な感じの」

 「ふむ、後に某サイトで晒されまくって担当が公開環境(SNS)でキレる、とかいう要素であるな。クリア後の炎上までが祭りです。楽しみであるな」

 「いやその楽しみ方は、共感できねーなあ」

 

 物語の裏側にまで楽しみを求めるのには納得なんだが、メアの発想はどこか違う気がする。俺、慎重派だけど可能な限りネタばらしな事前情報は見ない派なんだよなあ。

 まあ、時と場合で主義はコロコロ変えるが。

 

 「祭りの醍醐味は前夜祭と後夜祭であろう。特に当事者ならばな。当日を楽しむのはお客様だけで充分だ、後夜祭の夜、この時こそ我と主様が猛る絶好の時間である!」

 「さらっと変態に巻き込むな。まあ確かに同意の部分もあるが……、あれ、暗いとこの人口密度が洒落になんねーんだようなあ。とても『二人っきり』とか言えねー感じ」

 

 つい過去の文化祭とかの経験を述べたらメアが白目剥いて驚愕していた。いわゆる『恐ろしい子』というポージングだ。右手の甲を左の頬に当て、指は軽く揃えるくせに小指だけは離しておくという小技付きである。

 なんとも、完璧に義手を使いこなしているのには感心するが、その使いようには呆れる。

 というか何故そこまで驚くのやら?

 

 「……主様の事だから現実では童貞と決め付けていたのだが、実はリア充派閥の勇であったとか……。ううう、女子の場合、してればビッチ、してなければ残念女と尽く貶められるからタイミングが難しいというのに……。というか主様にはもう女がいたとか。有り得ないアリエナイA-RI-E-NA-I……」

 

 どうやら、メアの中での現実の俺は、相当に下層カースト民だったようだ。

 

 アイテムストレージにメアの防御抜ける武装があったろうか?

 ああ、マップ兵器扱いのクラスターミサイルなら通じるか。爆心から半径三百メートルが焦土と化すが、コイツなら頭がアフロになるくらいで済むだろう。

 

 というか、あくまで一例として言っただけで実体験とは言ってない。

 確かに場の雰囲気で、正直、フルネームも知らないクラスの女子と移動までは本当だが、校舎裏の暗闇に蠢く御同輩共を確認した途端に覚めた。

 女子とも気まずくなって、結局スゴスゴと明かりの元へ帰ったさ。


 ……ああ、現実じゃあ、あれが俺にとっての唯一のモテ期だったんだなあ。


 「なにやらご主人様とメア姉様に闇精霊が集積してますですねえ……」

 

 他人には見えない友達(せいれい)が見えるカルエに、何故かドン引かれた。

 いやまあ、俺とメア、それぞれが唐突に明後日の方向いてブツブツと呟きだしたら引くのは解るが。

 

 「と、いかん。うっかり鬱モードに入ってる場合ではないな。今は我も主様とラブラブ生産民の社会貢献組。何かに後ろめたくたる要素など微塵も無い。非生産な割合が多いかもしれんが、タップリネップリと経験しべっ!」

 「復活はいいが膿んだ宣言はいらん!」

 

 ったく。ろくにダークサイドにも堕ちれない。

 結局、いつものハンドガン三点バーストで突っ込み入れて黙らせる。

 ゼロ距離接射だったんでそれなりに効いたらしい。後頭部から煙りをたてつつも通常モードに戻ったメアだ。

 

 「やはり我の耐久値スキルの成長は、その大半がフレンドリーファイヤであるな」

 「そりゃ良かった。仲間の成長はすべからく望ましいからな」

 「わ、わたしもソレに耐えれれば、いつかは三連続エッチに耐えれるようになるんでしょうか……」

 「カルエ、直球の質問はヤメレ」

 「カルエ、我のスキルは永い研鑽によるものだ。今はダメでもやがてはカルエのものになる、主様に仕えるかぎりな。故に今は全裸を極めよ。主様を常に激らせるよう努めるのだ」

 「はい師婦!」

 「……ホドホドニ、シテクレ……」

 

 残念。やっぱり物理的に穴が開かなきゃ膿は抜けないらしい。

 というか、コレは危険な流れだ。たぶん放っとけば俺達の目的地はダンジョンから宿屋三泊あたりに変更させられる。

 前は俺とメアでの対等な立場だが、今はカルエもいる。発言者が多い方が大勢を占めるのは当然の流れなのだから。

 数の暴力反対。

 しかしそんな声は無力なのが現実だ。

 

 ならば、その流れに乗る前に状況を変えるのが最善だろう。

 

 「さて、馬鹿話してないでダンジョンに行くぞ」

 

 一応、主目的のはずなんだがなあ、何故、気分的には取ってつけたような感じなんだろう。

 

 「うむ了解だ、主様。人数が多いなら場所は広い方が好ましいからな!」

 「ええ、暗いからいい雰囲気だけど、ちょっと誰かに観られそうとか、スッゴくいいですものね!」

 

 なんだろう、この無性に感じる己の無力感。

 しかも未知のダンジョン探索とか、この上ない興奮を誘う状況を上回る圧力で。

 

 結局、いつの間にかすり替わったピンク脳な目的で、俺より軽い足取りの女二人に先導される形で移動は再開するのであった。

 

今年最後の投稿となりますが、いいんだろうか? こんな雰囲気で年越して……。

まあ、越すしかないのですがw


ということで、皆様には良いお年を。


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