またこの展開ですか
「さて、じゃコイツ等どうしようかね?」
「生かした以上、警察っぽいところに渡して報酬を得るのでは?」
「いや俺も、最初はそう考えてたんだがなあ」
ほぼ不意打ちで終わった俺達の行動は、とりあえずは無駄な殺生無しな形で終わっている。
推定、野盗共は揃ってメアの過剰な打撃で一撃死……もとい、昏倒している。
俺の探査系スキルにはピヨってる状態異常を表すマークが点灯しており、そのマークに付随してるカウントから半日は起きないのも確認済みだ。
具体的な数値で当たりがつけられるのは助かるが、正直、このゲーム仕様が生きてるとこには違和感全開である。
ていうか、野盗共っぽいヤツらが無力化したことで確認できたデータがあるんだが、それを確認した事で非常に面倒な状況だと解って困ってる。
「コイツ等、見た目は完全に野盗なんだがなあ、実は違うらしい。だから統治機関に渡しても良いかが判断できねーんだよなあ」
「ほう?」
俺の視界には野盗(仮名)共のステータスが表示されている。
NPC扱いなのは確かなのだが、同時に冒険者としての性能までが記されていて、しかも所属するパルティ名までが出ていた。
「【穴熊探索隊】。所属ギルドのホームは【チェリーフォルン】。確かエンマリオよりは南の自治都市だったような」
チェリーフォルンは鉱山資源かなんかで自活している町だったような記憶がある。町の近くにはドワーフの里とかもあり、いろんな鍛冶の生産仕事とか受けた時に何度か行ったこともある。
ただ、クエストの対象エリアとか施設に直行してたんで町の様子には疎い。
いわば用事の無いときには足の向かない、イベント専用の町という感じだ。
「鉱山はあるけど、プレイヤーが籠もれるほど産出量が良いとか無かったからなあ、どうにも印象が薄いや。ダンジョンでもあれば、まだ違ったかもなんだが」
「おや察しがいいっスね。実は最近、近くにダンジョンが誕生したんすよ」
「は!?」
町の記憶や印象を思い出そうと、つい口ずさんでたら予想外の情報が来た。
「今回のウチら、その情報の周知のために動いてるんです。お兄さんのホームはよう知らんけんど、人の住む町には余さず連絡するよう依頼されてんスよ」
「へー。まあ、ダンジョンが出来たからには多くの冒険者に潜ってくれた方がいいからなあ。納得だ」
となるとだ。この野盗に見せかけた冒険者達にも予想が立てれた。
「じゃ、コイツ等。そのダンジョンの先行独占とか狙った口か」
「そこまで知っててかは知らんけんど、まあ、そうやと思いますわぁ」
俺と白狐達に見下ろされる偽装野盗。その実は冒険者。
マギボーグなんで、規格品の顔の作りは皆似てるが、単純でアホっぽい印象は溢れんばかりに醸している。
偽装の時点である程度の情報は知ってると思うんだが、こればかりは気絶してる連中自身から聞かないことには確信は無い。
で、その予想の一つである『ダンジョンの独占疑惑』だが、実はこれ、ゲーム時代の【PoF♂】でも度々あった事だ。
プレイヤーにとってのダンジョンとは、強くなるための経験値稼ぎの場であり、ゲーム内通貨を稼ぐための売り物を得る場でもある。
新規のダンジョンとなると未知のアイテムを得れる可能性もあり、ダンジョンの発見者などはその旨味を独占しようと秘匿するのも普通なわけだ。
過去の例だと、小規模なパルティが発見した後に秘匿。しかし市場に出た新素材からあっと言う間にダンジョン自体の存在はバレた。しかし入場には特殊な条件が必要って事で独占を可能としてしまい。結局、小規模パルティじゃ討伐しきれずにのダンジョンの氾濫を経て、自由入場化となるまでは他人には使えなかった。
ダンジョンの氾濫とは、ダンジョン内に湧く魔物が許容量を超えてしまい、フィールドへと溢れることを言う。『ダンジョン』が存在するゲームじゃ定番の要素で、物によってはそんな状況となればゲームオーバーな扱いもある。
【PoF♂】でもそんな要素は取り入れられている。魔物がフィールドへと溢れた時点で近隣の町は壊滅扱いとなり、リアル一ヶ月は復興期間として出入り不可能となっていた。
先の例にもそれは適用されてて、そこそこ栄えてるホーム都市が閉鎖されて大顰蹙をかった。SNSとかでそのパルティは散々晒され、結局はゲームから消滅したとか何とか。
「……てな役立たずの豆知識は置いといて。この世界でそんな事したらもっと酷くなるんだろうなあ。その近場の町、チェリーフォルンとか壊滅だろうよ」
「ですから、そのレベル算定のために一度大規模に冒険者の投入しますんよ。その討伐具合の確認をして、危険度と価値を決めますんス」
「しかし、それより私欲を満たすのを優先しようという輩が出たと。しかもギルドの関係者に? そんな感じであるか、主様」
「ま、多分そうだろうなあ」
俺は知らんかったけど、白狐達の特性はこの世界に生きる連中には知られてることだろう。情報の陰徳ならば、白狐達を襲えば目的達成だ。記憶の飛んだ白狐達なら、あわよくば犯行自体すら有耶無耶にもできるし。男達も満足できて良いことずくめとか、まあ、考えてもおかしくないな。
「ちなみにそのダンジョンの周知とやらは、どのくらい連絡済ませてるんだ?」
「まだ全然です。ここらで大きい町はエンマリオやよって、そこで仲間に情報共有して周辺へと散開する手筈でしたから」
「それは何とも、私たち、いいタイミングで来たようですね、ご主人様」
「確かにな。聞いた感じ、連中の出鼻を挫くタイミングだったようだ」
「……なあ主様。逆に我は少々、この流れに不審な部分があるのだが?」
「ん?」
単なる集団レイプの現場かと思えば、実は利権巡る陰謀現場だった。なんて状況に不審意外の何がある? ってな感じなのだが、どうやらメアには他に思うところがあるらしい。
「如何にもこれから陰謀が動くというタイミングで、我等との邂逅。我等の行動いかんでどうにでも変化する未来の状況。さて、こう言うと主様の方が心当たりが出そうなのだがな」
「……いやちょっと待て」
確信は無い。単にメアの言い方なのよるだけの不安だ。
だが最近、実にそんなもんに似た出来事があるだけに、俺の不安は心の何処かで確信してる部分があった。
「確か、“前”は事後確認だったからなあ、これでチェックできるか解らんけど……」
虚空に浮かべるステータスウィンドウ。
自分の能力やらの表示が基本だが、ゲーム内の部分的な状況を示す表示も多少はある。ヘルプ機能なんかもその内の一つだし。
他にはだ、受けたクエストの進行状況なんかも表示、確認できたりする。
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【受注進行中クエスト】
『未知のダンジョンを攻略せよ』
・種別:ワンダリングクエスト
・参加制限:無し
・進行状況:2%
・未知のダンジョンの情報を入手した。まだ誰も攻略してないまっさらなダンジョンだ、高額の掘り出し物が出てくるかもしれない。危険度も当然未知とはなるが、冒険者ならばこのチャンスを逃す選択など無いだろう。
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「……あー、メアの勘が当たってたか。コイツ等、全部クエストの流れの存在だ」
「ふむ、やはりな」
「くえすと、ですか?」
ふと脳裏には、前の時の対話ヘルプの言葉が浮かんだ。
『ワンダリングクエストはクエスト成功を見込まれる思考体に向けて移動する』
ゲームを元にしたこの世界には、当然のようにクエストという要素がある。
冒険者がギルドを介して受ける物もクエストではあるが、ここで言うクエストとは、ある意味、理不尽な神のイタズラなのが実態だな。
ゲームのような空間の中を漂うクエストだけのための小空間。この世界を創造した神とは接点の無い、別の神が管理する妖精界と呼ばれる亜空間。
それらの空間は、時に内包するクエストをクリアできそうなヤツのところまで移動してくるのだとか。
好都合で楽だ、と考えるか。迷惑極まりない、と考えるか。
どっちでも正解なんだろうが、正直、俺の気分的には迷惑の方だった。
「まだカルエの件も片付いてねーのに、また別口のクエストかよ」
「で、あろうな。主様」
「は! 私ですか? 私の件って何ですか?」
つい口の出た怨み節にカルエが慌ててるが、まあ、勘弁してもらおう。
ていうか、折角リモッドキスト的な『面白い物創ろう』な気分の腰を折られたのには向かっ腹が立つ。
自分の決めた予定が強制的に変更させられるとか、現代人には度し難い蛮行なんだよな。そこら辺は俺、実に平均的な現代人ですから。
ならば、このクエスト。適当に放置しておくか?
いやそれも無い。何故ならば、その答えはクエストの説明にある。
『未知のダンジョン』、『高額の掘り出し物』。
生産職がそんな餌ぶら下げられて見過ごせるか?
できるわけが無い。
てなわけで、カルエの機体のテストとかポーンと保留と決まり、俺達の目的はダンジョン攻略へとシフトしたのである。
今年はマジにクルシミマス……だったよ。
 




