試作品の試作はこんな感じ
「照準はどうだ?」
「んー、んー……。何となくズレますね」
「ふむ、やっぱ直結しないとラグが出るか」
「この子の腕もつい動かしちゃいますねー」
「まあ、思考連動のマイナス面だな。仕方ない、携行式は辞めて内蔵式にしよう」
「はーい。では下ろしまぁす」
エンマリオより東に移動した長閑な丘陵地帯。大昔には新宿御苑と呼ばれた辺りの僅かに面影残る低レベル対象地域にて、俺達は試作した魔攻重機のテストを行っていた。
カルエ用の人型魔攻重機は【magi mortar】と仮称した。意味は『迫撃魔砲』って感じだな。
カルエの魔術属性を全属性に振ったので、どの属性のでも攻撃魔術を使えるようになったのは俺の希望どおりだ。しかしウッカリしてたというか、その攻撃魔術を命中させようってスキルの追加を忘れてたのな。
まあ、後で覚えさせれるから致命的な問題じゃあ無いんだが、即戦力と考えたらノーコン射撃で使えないって結果になったわけだ。
かと言って、じゃあスキルを得るためにカルエを生身でレベリングするのもある意味怖いわけで、出した妥協案が無差別な範囲攻撃役というものだった。
魔術スキルは命中対象を敵対する存在に固定する方法が一般的だ。
これにより、ダメージは命中対象のみに限定できるから、例え他の味方が接敵してても魔術の二次被害にはならない利点となるのである。
ただしこの方法には欠点もある。攻撃魔術の命中固定には当然、その対象からの抵抗判定が生まれるからだ。もし抵抗が強ければ、命中固定の段階で魔術は無効化される。つまりは不発だ。しかし魔力は消費されるから、それだけの損となる。また照準をズラされる場合もあって、その場合は隣接する誰かへの誤爆という結果になる場合もある。いわゆる、フレンドリーファイアだ。
これは敵味方を分けるマーカーで不発扱いに変換もできるが、その処理が間に合わなければ結果的に味方を撃つ事となる。
対して迫撃型の魔術は、攻撃対象を個人ではなく地点に置く。対象は照準される事も無いので抵抗行為を行わず、それは魔術に対する防御をしないのと同じとなる。不意打ち扱いなので、命中すればかなりのダメージが期待できるというわけだ。
ただし、この判定は味方にも有効だ。加えて必ず敵がそこにいる保証も無い。
効果は高いが、やはりそれなりのリスクはある攻撃方法なのである。
しかし、今のカルエじゃどのみち無照準で撃つのと変わらないんで、俺は迫撃砲スタイルを選択した。
今はそのスタイルで、魔砲を携帯式か内蔵式かのテストをしていたってわけだ。
「よいしょっ」
ズシンと、音ではなく振動によってその重量を示した魔砲は地面に敷いた土汚れ防止用のシートへと沈む。
外付けの魔砲とは、要はロボットサイズの銃である。ザクマシンガン、ビームライフル、そんな感じの全長が人間サイズを越える巨大な銃だ。
現代兵器でいう銃は中々に精密機器と化している。そのくせ万人が組み立てても同じ性能を発揮できるよう、簡易的な機構をもってもいる。
さすがに重機関銃やバルカン機構を内包すればその括りからは外れるが、強いて言えば、必要な機能を最低限組み込んだ結果として、あのような形状になっていると言える。
それに比べれば魔砲の構造は至極単純だ。
砲弾を構成する魔力タンク。砲弾の属性と発射機構を司る魔法陣。そして魔術として顕現化させる発動体。これらがあれば、いいのだから。
「あんまり乱暴に置くなよ。仮組で歪みやすいんだから」
「あ、スミマセンです。ご主人様」
カルエ用に適当に組み立てた魔砲は、似ている物に例えるならライフル型水鉄砲だな。本体の大半はタンクであり、後は銃身っぽい筒と持ち手のみという単純さなのだから。
魔力タンクは【PoF♂】において規格品の物を使ってる。10リットルのポリタンクに似ているが中身は魔力を内包する樹脂が結晶化した物だ。サイズの割には軽く、約五キロ程度となる。
それが三つ、接続端子に結合してあり、魔砲の弾丸の供給源となっている。
端子が繋がるのは六種類のCDサイズの金属円盤、魔法陣だ。円盤一枚がそれぞれが一属性を担当していて、魔法陣内に記載される魔術回路に魔力が流れれば、対応する魔術を顕現化させる仕組みとなる。
最後に発動体だ。これは筒の部品で、カルエ用の場合は顕現させる場所を示す測量計に近い。現在地点からどの位置に魔術を行使するかの座標認識機器となるわけだ。
「うーん、ゲームでいうとこの命中率とか、こんな風な発射時の機体への負荷とかで表してんだなあ。意外な部分だわ」
「はあ?」
俺の感慨が通じるわけは無いんだが、一応は頷いてくるカルエだった。
でと、実銃の場合、その構造上は無反動と謳っても僅かな反動は生じる。
魔砲、しかも射撃タイプではない着弾地点発生型の迫撃型でも、どうやら魔力の流れで微妙な振動が出るらしい。
パーツとしての機能上、その振動を発動体が拾って、最終的な位置のズレへと変化するようだった。
「ま、腕があるから携帯武装ってイメージになったが、別に胴体部に格納できないわけでなし、安定性のある方を選ぼうかね」
脳内に図面を展開して魔砲をパーツ単位に解体。コクピット回りに破綻無いよう配置してみる。むしろ腕部と持ち手で行う端子同士の接触ラグも減りそうなので、結果的にはいい選択と思えた。
「で、これで無手の身軽さになるが、機体とのリンクに問題は無いか?」
「そーですねえ、たぶん意識どおりに動いてるんだとおもいあますけどー、ちょっと引っ張られるくらいの感じしかないので自覚が無いというか?」
今のコクピットはカルエ用に載せた間に合わせの金属籠となる。ボーナスアイテムとはいえ、元はマギボーグのオッサンが使ってたという設定の魔攻重機だ。搭乗形態をそのまま流用できるもんじゃ無かった。
ま、だからこそ余剰空間がタップリとれるわけでもあるが。
金属籠は動物用のケージを流用したもので、胴体のフレームに緩衝パーツで連結。徐々に振動や慣性を消す魔法陣を追加して、現状はカルエにダメージとなる揺れが伝わらないようにしている。
カルエの言う『引っ張られる』は、まだちょいと慣性を消しきれていない影響なんだろう。
「んじゃテストな。『腕振って身体を捻ります、いっちにーさんっし』」
「うわっ!?」
俺の唐突な音声入力に魔攻重機が反応する。
両腕を肩と水平に伸ばし、上半身のみを右へ左へと交互に捻る。
いわゆるラジオ体操第一の一部の動きだ。
この状況だと、コクピットを内包する上半身内では約180度の左右半回転を何度も繰り返す事となる。当然、中の搭乗者は同じ回転と遠心力に晒されるわけで、普通ならあっという間に目を回すような感覚に襲われるだろう。
「どうだ、揺れるか?」
「景色がブンブン回りまーす」
どうやら体感できる回転は無いっぽい。
「血が偏るとかの感覚が無ければ問題無い範疇だな」
「ちょっとおっぱいが引っ張られるような感じは……あるような?」
「ふむ、遠心力が多少残ってると。これは微調整で済みそうか。……そう言えば、この手の運動するとバストアップするなんて話を前に女子がしてたなあ。何が根拠かは良く知らないけど」
ふとそんな記憶が出たんで呟いたら、背後で凄まじい風圧が生まれた。
今日は大人しく待機していたメアが唐突にラジオ体操を始めた音だった。
「ご主人様ご主人様、私、このくらいの負荷は必要だと思います!」
カルエはカルエで何故か必死な口調で調整を拒否してくる。
……いや、『何故か』などと惚けるのも愚問か。どうやら現実やゲームの区別なく、その手の切望はあるらしい。
「だが断る」
「えええー!」
命と乳、どっちが大事だと問われれば命を選ぶ。
特にカルエはメアほど壊滅的じゃないし。
おっと、何故か背後の気温が急激に低下したような?
なるほど、度を越した殺意とはこういう風に感知できるのだな、と身を持って知った俺だった。
挿絵用の模型制作併せな感じで保留しておいた部分を投稿。
模型制作の時間が壊滅的に延期となったため、な感じです。
まだ保留してる分はあるのですが、推敲してる余裕が無いので、以降は完全に投稿未定としときます。
とほほぅ。




