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模型術士の鬼盛りサクセス  作者: 雲渚湖良清
一話 【異世界の中で】
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VR-MO-FPS【Paradise of Fauve ♂】とは

 二十一世紀後半、仮想環境体験型のゲームの一つとして、【Paradise of Fauve ♂】は発売された。

 

 【Paradise of Fauve ♂】、意訳含みで和名化するなら【ゲス野郎共の楽園】。

 大まかな内容を言うと、正体不明の巨大天体が地球に襲来、そして衝突。恐竜時代の終焉の再来かと思われるも、地球という天体が崩壊する事は無く、人類は無事生き残れた。

 

 ただし、それまでの文明は完膚無きまでに破壊した形で。

 

 一連の流れが原因かは一切説明が無い。

 プレイヤーに分かるのは、新たな技術として発生した魔法技術を駆使して、崩壊した世界の驚異に対抗する事だけ。

 

 舞台となる大地は衝突したはずの謎の天体衝突の影響で変化した。

 その有り様が徐々に異界化してきたのだ。

 環境への対抗策も虚しく、ものの数十年で地表の大半は未知の植相に覆われた密林と化し、その緑の迷宮には人間よりも適した生命が満ち溢れ始める。

 気づけば、人類は新たな地球の異邦人と化して、過酷な新世界で生きるしかなくなっていたのである。

 

 故に、生き残った人類は新たな世界へ対抗すべき変化を必須とし、自らを人類以上の存在へ変える事を強制した。

 男は科学と魔法を融合させた新技術、『魔巧学』にて己を作り替え。

 女は、世界を変えた未知の変化を再現し、『異形』へと。

 

 そうして、最大の驚異である、魔物に対して強くなって往くわけだ。

 

 次は【Paradise of Fauve ♂】のゲームシステム。

 プレイヤーは三種類の基本スタイルから一つを選択してのスタートだ。

 【マギボーグ】【リモッドキスト】【亜人】。どれも素の人間を元にした改造体で、一度選択したら変更は利かない。

 扱いは種族名であると同時に職能として機能し、経験値というポイントを得て、消費する事で対応するスキルを得る。

 スキルとはその種族や職能を彩る分かりやすい技能だ。得る事で新しい行動が取れるようになるし、より単純に言えば強くなれる。

 

 【マギボーグ】は日本的解釈のサイボーグっぽいやつだ。生身の一部、もしくは全部を機械へと換装し、人間以上の身体能力を得る。機械と言っても、ナノマシンを併用する形になるんで生体的な人間性は残せる仕様だ。

 旧時代の科学系武装を内臓するのが基本だが、魔巧学の産物を追加するのも可能。個人火力では三種の中で最強となれるが、どの武装も有限回数しか使えないという欠点を持つ。

 

 【リモッドキスト】は生身よりのマギボーグ未満な位置の存在だ。

 体内には身体能力を最低限強化するナノマシンのみを注入し、武装のほとんどは携帯武器、鎧、特殊車両などの外部兵装として使用する。

 基本が生身である以上、人外の能力を発揮するにも限界があって、単体での能力は三種の中で最低となる。

 その代わりか、魔巧学を利用した外部兵装はどれも強力だ。作成にも使用にも対応する必須スキルが大量に必要となるが、それさえクリアすれば他の二種を凌駕する存在にもなれる。

 言うなれば究極の大器晩成型な職能というわけだ。

 

 そして最後に【亜人】。

 この職能はやや特殊だ。職能というよりは種族に傾倒するものだし、なにより、男性プレイヤーは選択できない制限がある。

 そう、亜人は女性プレイヤーしか選択できないし、逆を言えば女性プレイヤーは亜人しか選択できない。

 

 亜人とは人間に他の動植物の特性を追加したもので、亜人内の種別だけでもかなりの数を選べる。

 しかし基本は【エラフ】か【ドラフ】の二種類だ。有名どころに獣人系があるが、それはプレイヤー自身の適性がないと選択肢にすら出ないそうだし。

 だから今は割愛として、まずは先の二種類の説明を。

 

 【エラフ】は亜人二強の一つ、エルフの亜種として存在する。

 エルフは変化した地球の環境に一番適応した形で、自然系統の魔法の使用を得意としている設定だ。

 そしてエラフとは、そんなエルフの特徴を人為的に再調整して、攻撃魔術へと特化させた存在というわけだ。

 マジックユーザーの立場を、【Paradise of Fauve ♂】なりの解釈で形にした存在とも言える。

 

 【ドラフ】はドワーフの亜種という扱いで、意味合いはエラフと同じとなる。

 ドワーフなら鍛冶師という解釈は【Paradise of Fauve ♂】でも踏襲している。つまりは生産職よりな扱いで、ゲーム内でもそういう立場だ。

 ただし、ドラフはエラフ同様に戦闘よりの調整をされたわけで、内容は生身のまま、マギボーグとタメを張れるほどの肉弾戦闘ができるという形となる。

 見た目は身体に見合わない巨大で凶悪な武器を振り回せるイメージとなる。

 まあ、何を参考にデザインしたとは断言しないが、ある意味今のゲームには定番の存在とも言えるだろう。

 

 これらの基本スタイルからプレイヤーは自分なりの選択をしていき、やがては個性際立つオンリーワン的な姿となって行くらしいが、詳細は明かされて無いので闇の中だ。

 余談だがついでに言えば、一体どんなデザインが為されていたかも、もう絶対解らないだろう。

 

 話を戻して。

 

 プレイヤーは異形の身体をアバターとして使い、仮想環境で生きるのがプレイとしての最低限の行為となる。

 極論、一切経験値を得ないプレイも『有り』というわけだ。

 ただ定番の流れとしては、プレイヤー同士で戦闘用の個人部隊を作成してクエストを遊ぶのがメインの流れとなる。

 

 まあ背景の設定が世紀末というか異世界というか、やや区分わけが厄介な内容なのだが、とどのつまり野蛮風味過多のファンタジーな世界を仮想体験するゲームと解釈すれば良いわけだ。

 

 魔法という概念を堪能するも良し、旧技術として山ほどある科学の産物を活用するも良し。

 定番のファイヤーボールで『汚物は焼却だあ』と叫べるし、装甲で強化した自動車で魔物に体当たりアンド轢き潰すとか。銃の乱射でヒャッハーとかもできるわけだ。

 やってみれば分かるが、結構フリーダムな爽快感が味わえる。

 

 ただまあ、一言いうなら、それでも今の時代じゃあプレイする要素が目新しいって感じのゲームじゃないとも言える。

 

 では何故、【Paradise of Fauve ♂】などと、余り格好良くない、むしろ斜めに構えた痛いタイトルなんかになったのか?

 

 それはまあ、簡単に言えばゲームシステム以外の部分。世界観を表現するフレーバーな部分が、非常に世間的な良識へと真っ向喧嘩を売るような、倫理的アウトな内容が満載でのフリーダムさを加味していたからだ。

 

 しかもそれがプレイヤーオンリーで展開する環境ってのが、売りだった。

 

 PvPは極普通。PK程度も生温いというか、プレイヤー間の人間狩りオーケー。人間牧場オーケー。人肉屍食オーケー。どれもこれも、可能な限り現実味ある再現機能つきで、である。

 人体を壊す事と壊される感触。喰う感触も喰われる感触もほぼ完全再現。

 まあ、耐性の無い人にはこれ以上無いって感じで狂った世界だろう。

 

 実際、【Paradise of Fauve ♂】は過去何度か別環境でリリースされているゲームでもあり、業界ではそこそこの知名度を既に有している。

 なので世間で猟奇的な事件が起きれば、必ず真っ先に槍玉に上げられては更に認知度上げていた。

 

 突き詰めれば、それをプレイする者同士が合意の上でやってんだから遊びで終わる範疇なんだが、それを許せない規制主義の人ってのも多いわけで。

 

 結果、【Paradise of Fauve ♂】はプレイするなら人格破綻者という極端なレッテルすら貼られる、なかなかに反社会的なゲームという扱いの代物だったりもするわけだ。

 ただし、『反社会的』なんて敬称は一部の連中には尊称でもある。

 特に、現実をまだろくに知らない、学生とかにはもう、な。

 

 そして俺。ススキ・キザオミもそんな荒んだゲームを愛する、少し病んだ感じのプレイヤーだった。

 

 『だった』。そう過去形。

 

 何が原因かが解らない。

 ある日、普通にゲームへとログインし、遊びに遊んだ後、不意に気づいたんだ。『俺、何普通に流血してんだ?』とな。

 

 何時も通り資金稼ぎにクエスト受けて、対象のエネミー狩ってってなプレイが終わった直後だ。多少のダメージは受けたんで、自分が怪我をしてるのは解る。だがゲーム内の流血表現はダメージ直後に派手な放血エフェクトがあるだけだ。いつまでもダラダラと血を流し続ける事なんて無い。

 

 『マイナーアプデか?』とも思った。

 ゲーム自体、プレイヤーへの事前報告の無いアップデートなんかはしょっちゅうなんで、治療処置をしないと継続ダメージ発生とかに変更されたのかとか、その時は思ったんだ。

 

 だが徐々に気づいた。俺を含む周囲の惨状。

 俺が倒した魔物の死骸。ポリゴンの欠片とならずに何時までもそこに血溜まりを広げる死骸。

 そして激しい戦闘で破壊された周りの有り様。延々、それこそ現実のように何時までも存在する破壊の名残は、それがデータ処理されたものじゃあ無いんじゃないかと。

 

 そして仮想環境での分かりやすいゲーム要素、ステータスウィンドウを呼び出してみて、デスゲーム定番な『ログアウト不可能』という状況に愕然とした。

 

 それを自覚した途端、それまで遊びの延長で楽しんでた殺し合いが、急に恐怖の対象となった。

 

 で、パニックにでもなったんだろうな。

 何をどうしてとか細かい記憶がアヤフヤになって、正気に帰ってみればゲーム内の個人用ホームにしていたとこに引きこもってた。

 

 そうして暫くの間、半分は夢を観てるような時間を過ごし、他人とのしがらみや仲間ができて、ようやく今の状況が俺にとっての現実と認識もできて、そろそろ一年が過ぎようとしている。

 

 今の俺はプレイヤーとしてのキザオミじゃあ無くて、一人の人間としてのキザオミとして、【Paradise of Fauve ♂】モドキの世界で結構強かに生きている。

 

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