俺の理想じゃなかった。のカルエ
「はじめましてキザオミお兄ちゃん、じゃなくて、ご主人様。カルエと言います。これから朝な夕な、ご主人様の望むまま存分に弄び倒していただいてくだちゃりまへうっ!」
設定を終えて初期起動……もとい、目覚めたカルエの第一声は、実に存念なものだった。
「このメア、迂闊だったな。主様が妹属性とは気づかなかった。いやもう我の貧相ボディに欲情できるのだから、すっかりロリなのかと……」
「ええっ、私より幼くてもいける口ですか!? ならスッゴく期待できますね! この千年、エルフ人口の減りっぷりハンパなくて里の長、半狂乱なんですよう」
「む、街には結構なエラフが居るようだが、実家の方は過疎化という事か」
「そーなんです。人間男性が好むグラマー系まで育つのに二百年はかかるってのに、いざ街に降りたらもうほとんど戻ってこなくって。なんかもう都会暮らし知ったら里には戻れないーとか何とか。で、とうとう子種のストックも底つきかけて、まだ完熟前の私とかが出稼ぎ出る事になっちゃってー」
加えて現実化した【PoF♂】でのエルフのイメージが完膚無きまでに崩れた気がする。
「ところで貴女も、その姿からしてご主人様の?」
「うむ。我はメアという。カルエ同様、主様の奴隷だ。主様と巡り会えたカルエは幸運だぞ。なにせ主様は炊事洗濯食事に情事、なんでもござれの超人嫁だ。我など三食昼寝付きで夜の体力気力が爆発するよう、すっかり調教さぶれっ!」
「初っ端から腐った話に持ってくな」
いつもの三点バーストを脳天に食らわせてメアは黙らせる。
予習じゃないが、予め情報として現状のエルフ事情を知ってる俺としては、カルエにそっち方面で期待させたくも無いからだ。
いやまあ、亜人集落の大半がアマゾネス状態ってのは説明されてたが、こうも男漁りに活発だとは思わなかった。
ていうかそんな設定が出来てから五千年か。なら状況が極端化してるのもある意味あり、なんかね。
「メア先輩に劣らぬよう、しっかりお勤めします。だからタップリください、ご主人様」
「うん。俺、お前の人格設定失敗したと思うわ」
床を這うように足下へとすり寄り、三つ指ついたお辞儀状態のカルエを見て確信する。
おかしい、選んだ選択肢は無難なもんだったはずなんだが?
いつまでも昏睡状態にはしとけないと、初期起動を行ったのが一時間前だ。
最初に出た選択肢は役割系統で、【前衛】【中衛】【後衛】と、戦闘での基本行動を示すものだった。
俺が選んだのは後衛。もともとエラフとは攻撃魔術を得意とする存在だからな。メアが前衛、俺が中衛として遊撃していたのもあって、それをサポートさせる位置に当てるのは当然と言えた。
次に出た選択肢は魔力適性。これはどの系統の魔術を扱うかって内容だ。
予め設定されてる総魔力の割合を【火】や【水】の属性で分割していく事となる。満遍なく各属性に振れば全属性対応となるが威力のある魔術は得られない。また、どれか一属性へと極振りすれば強力な魔術を得るかもしれないが、その属性が通じない状況なら役立たずとなる。
どちらを選択しても正解じゃないしハズレでもないんだが、まあ役立たずな状況に得は無いし、現状俺達の戦闘能力はチートじみてるので将来性に期待しての全属性にした。
これで能力的な部分は完了。後は容姿と人格、良くも悪くも俺の趣向が形を成す部分だったのだが……、どうやら【PoF♂】の現実化の影響が出ていたようだ。
カルエの外観を変えれる部分は、全て変更不可能な扱いになっていた。
ま、俺の選択でパッパッと見た目が変わるのは違和感あり過ぎだからな。特にカルエの見た目で困るところも無いし、このまま流すことにする。
で、人格設定だ。
これは複数のキーワードタグを選んで、その内容を含む形に自動生成する形だった。
サンプルとして書かれていたのをそのまま言うと、【楽天家】【ドジっ子】【暗殺者】のキーワードタグから生成されるのは『災い転じて福となす強運持ちのアホの子』となる。
正直、このサンプルが例題として役立つ意味が分からないが、まあ、人格設定で得られるのは性格だけじゃなく、周囲の環境変化の影響つきって部分もあるのだろうと思えるわけだ。
つまり、それはカルエを通して何かしらのイベント発生があるかもしれないって意味でもある。下手すれば、とんでもないトラブルイベントがあるわけだ。
なので悩んだ。
「……【魔力高適性】は我にも想像できる内容なのだが、【超敏感肌】に【妹】、【従順】、【犬】となると、実は主様、近親相姦に夢を求める類であるか? うーむ、現代男子の心情は複雑なのだな」
「戻ったかと思えば直ぐそれか。確かにその字面だとヤバいが意味あるんだよ」
【魔力高適性】と【超敏感肌】はキーワードタグ検索で『索敵拡張』を選んだら上位に出てきたものだ。
同じように『偵察役』で検索したら出たのが【妹】。理解はできんけど結果は結果なんで候補に上げ、メアのように俺の指示を斜め上に解釈しない役立つ兵隊を希望ってとこで【従順】と【犬】を入れた。
総合的に言えばだ、外見的にはエラフの奴隷少女だが、中身は命令に忠実な立派な兵隊ってのをイメージしている。
「それならばエラフではなく獣人系の亜人にすれば良かろうに?」
「うん、それは思ったが外見の変更は利かなかったからな」
「……まあ、あのクエストはエラフ関係の流れであるものな」
「言われてみりゃ、そうだったなあ」
そうして比喩的な意味無しで『いい兵隊』とするべく、メアと共にキーワードタグを選んでいき、いざ起動させてみたら、まあ、こんな如何にも残念なエラフになってしまったわけだ。
どうしてこうなった? 結構真面目に頑張ったんだが。
「ところでカルエ。主様に仕える奴隷として我等はするべき姿がある」
「はい、メア姉様」
「それは全裸である。何時如何なる時も、主様の求める猛りを受け止める至高の姿。また、主様が所有する美器であると周囲に知らしめる究極のディスプレイ。少しの気の緩みが肉の弛みに繋がるからこその、常在戦地を表す健全なる行為と心得なさい」
「はいっ、メア老子!」
「いい返事です。さすがは“良い奴隷となるべく生まれた”だけありますね。我も貴女に劣らぬ奴隷として、より切磋琢磨しなければ」
「……なに?」
「あ……」
俺が悩んでるそばで壊れた会話を続けていたメアとカルエだったが、その中にちょっと聞き流せない部分があった。
改めてチェックしてみよう。幸い、カルエのステータスは所有者である俺なら観放題だ。選んだ人格キーワードタグの一覧も、メニューから掘り下げればちゃんと出てくる。
そしてだ。
「メアさあ、俺の知らん間に幾つか書き換わってるようなんだがな?」
「ほ、ほう?」
「【犬】が【愛玩犬】とかさ、これお前から突っ込まれた部分だから良く覚えてるぞ」
「はて、そんな会話したであろうか、主様」
「うむ、したした。他には【夜獣性】か。俺、夜目が効いてほしいから【夜行性】を選んだはずなんだがなあ」
「……それは主様の勘違いであろう。ほれ単に一字違いであるし」
「まったく選んだ記憶のないのが【カインの血統】とかな。意味不明なんでヘルプ引いたら、『あらゆる罪が許される者の証』だそうだ。なあメア、お前カルエにどんなことさせようとか考えてたんだかなあ?」
「え……えーと、『少女カリギュラマッスィーン』とか」
「お前の色魔脳。どこでそんだけの知識を得たのか一晩問いただしたいんどが」
まったく、人を倒錯者扱いしやがるが、メア自身の方がぶっ壊れてるのが良く分かる。しかもまあ、変態仲間まで増やそうとは、俺も迂闊だったとしか言えない。
「ううう、それは我一人じゃ夜の主様に対応しきれない故の補給要員であるわ。もう、自分の事ばかり棚に上げてっ」
「えーと、とりあえずカルエ頑張ります!」
仕置きのフルオートで沈むメアがダイイングメッセージの如く呟いたが、空耳だ。
カルエにはこれからチームメイトとして頑張ってもらう。あくまでチームメイトとしてだ。
だからまあ、そのメアのような目つきでの『頑張ります』は、少々抑えてほしい。
次回は11月7日(月曜日)、午後8時の予定ですが、現在インフルエンザで思考ボロボロなので未定率高めです。
更新されなかったらごめんなさい。




