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模型術士の鬼盛りサクセス  作者: 雲渚湖良清
ダンジョンはこんな感じ。な閑章
16/39

ダンジョンでボス戦 ②

 扉を開ければ、見渡せる中は円形の部屋だ。

 広さは、大体直径五~六十メートルか。魔攻重機で動くとすれば、やや狭い。

 何より部屋を狭くしてるのはボスの魔物自体だが。

 

 P/Chat【キザオミ】「カメ……か」

 P/Chat【メア】「トータス系だな」

 P/Chat【カルエ】「おっきいです」ふ

 P/Chat【カゴメ】「はごたえ、ある? みくん」

 

 トータス。つまり陸亀。全体的な印象は象陸亀だな。視認した事で機能した俺の探査スキルによると。

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

 【ドレッド・アバランチ】

 亀型の魔物。

 全高十四メートル。氷属性。

 等級、A

 攻撃手段の違う五つの頭部を持つ。その内一つが頭部として機能すると、残りの四つは四肢として機能し、身体を支える。

 頭部の攻撃方法は噛みつき、衝突、氷系ブレス、氷弾、毒粘液。

 ダメージを蓄積すると甲羅が剥離し、鋭利な刃として全周囲へ落ちるので注意。

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

 と出た。

 大雑把な概要だが【PoF♂】じゃこんなもんだ。

 レベルやHPバーなどの数値情報は無い。あくまで、見た目の印象から相手の状態を推測しろというスタイルってわけだ。

 

 ゲーム時代は不親切なシステムだなあと思ってたが、この世界が現実となった今じゃそれも当然と思えるようになった。

 むしろ味方限定でもステータス数値が確認できるのは非常に助かる。

 特に今回みたいに、毒攻撃がある相手だと状態異常のチェックは大事だしな。

 

 で、さてと。

 この戦闘の第一印象は、魔物を相手というより巨大建築物を解体するような感じだな。ぶっちゃけ相手がデカ過ぎる。

 魔攻重機使ってなきゃとても相手する気にならない。

 

 P/Chat【キザオミ】「カゴメ、魔物の正面に立て。カルエは『土』で魔砲、座標は正面の頭部頭頂。メアは様子見だ。甲羅の無い部分に軽く攻撃入れてろ。俺はヤツの視覚を潰す」

 

 俺が得た情報はパルティ全体で共有している。だから【ドレッド・アバランチ】の頭部の数や特徴も解ってるだろう。

 問題はどの頭部がどの攻撃を受け持つか解らないとこだが、その確認を含めての最初の攻撃だ。

 

 P/Chat【カゴメ】「あい!」

 

 カゴメの【ブラボー】がドガンドガンと重量級の機体を走らせ【ドレッド・アバランチ】の正面に陣取る。既に付属武装の浮遊盾、『リアクション・ガードビット』も展開済みだ。

 性能は『ビット』って名から察してくれ。

 展開前は背部にマウントしてあるが、起動すれば浮遊してガード対象、つまり俺とカルエに張り付いて攻撃を受け止める。

 意思はないが危険を判断する思考はできる。反応速度はカゴメに準じ、突発的な判断は俺が下して行動する。

 やや変則的なシステムだが、まだ危険の概念が怪しいカゴメに任せるよりは安心できる状態なんだな。

 

 P/Chat【カルエ】「座標ロックしました。撃ちますよー、ファイッア!」

 

 【チャーリー】胸部に設置してある魔砲に魔力が流れ、ほぼ同時に【ドレッド・アバランチ】の頭上へ魔法陣が展開する。

 

 『ギュオオオオオッ!?』

 

 状況説明し忘れてたが、ゲームならば戦闘開始はプレイヤー優先という待遇もある。が、現実の【PoF♂】では必ずあるとは言えない要素だ。

 だから俺は、部隊リーダーと【リモッドキスト】の特性をフルに使い、探索中は絶えず気配を消すような効果を維持している。この効果は部隊全員に付加されるもんで、だからこそ戦闘の最中でも平気でバカ話ができるわけだ。

 

 ボス部屋に入ってからの段取り話もそれで、【ドレッド・アバランチ】は部屋に侵入者が来たくらいは感知したろうが、その対象がどこにいるまでかは解らなかったのだと思う。

 そして俺が付加した効果は戦闘状態となると自動的に解除となる。今回はカルエの魔術だ。明確な敵対行為が戦闘開始となり、ようやく俺達と魔物が対峙した状況へと変化したわけだ。

 

 『グワッギャウ!?』

 

 一応は不意打ちの効果となったのだろう。【ドレッド・アバランチ】の頭上に現れた戸建て住宅サイズの大岩が五つ、わずかな時間差をもって次々と落下し、ドッガンゴッガンと正面の頭部へとぶち当たる。

 一発二発には耐えたようだが、三発目からは首をおり床に崩れたところへ四発五発と追い討ちをかけた。

 最後の五発目で漸く耐久値を抜いたらしい。向かって頭部の左半分が見事に潰れ、視界を半分奪う事に成功した。

 

 「よくやったカルエ。やつがかなり硬いのが解った」

 「やった! 褒められましたー」

 

 既に走りだしてるメアは進路を変え、やつの死角から近づくっぽい。

 その判断は誉めるが、さて結果に結びつくかはまだ解らんな。

 

 “ッターーーン!”

 

 カルエの次は俺のターンだ。

 得物は【アルファ】砲塔部の最上部に懸架してある副武装。【 NTW-20】をベースにしたアンチマテリアル系ライフルである。

 使用弾丸は 20×82mmモデルの魔石属性弾。今回の種別は【火】と【氷】の二種。極寒の環境で亀となると、一応確認しないと安心できねーからな。

 このサイズの弾丸は本来、対空機関砲弾として使われるのが普通だ。ドッグファイターの機銃として、秒間三桁の量をバラまくのも普通な代物である。

 かと言って、じゃあ貧弱な物なのかという違う。むしろ魔物相手に特化してるから弾丸は全て『徹甲榴弾』。命中しようがしまいが、どこかに当たるそばから弾自体が爆発する極悪仕様。規定通りに使うならこんな戦闘行為自体が必要無くなる。

 ただし、あまりにコスパ悪いんでしないけど。

 

 で、費用対効果で悩んだ結果がこの狙撃だ。開けた郊外なら敵の視認できない距離から狙い、狭い場所なら混乱状態を作って隙だらけのところを殺る。

 カルエがダメージを出した直後に、最小のコストで最大のサポートとして追い討ちをかけるってパターンなのよね。

 

 NTR-20は形や機構を重機関銃のまま狙撃用に改修したような代物で、連射の効かないボルトアクションへと仕様を変えた代わりに、狙撃の名に相応しい威力を発揮する。

 更に自前の腕で保持もせず、停車状態で安定性のあるアルファに懸架した状態だ。これ以上無い命中補正が乗った弾丸は、顔面の半分を無くした【ドレッド・アバランチ】の無事な方の目も穿ち奪った。

 

 加えて懸念が的中だ。

 最初に放った火属性の弾丸は眼球に当たったくせに効果が無かった。視界に記録した拡大映像をゆっくりと再現すれば、命中して火に炙られた瞬間、眼球が溶けるように変化しただけでの即再生。

 その次、氷属性が当たったら衝撃が走り、ヒビが入っての眼球破壊だ。

 どうやら火と水や土と風のような対抗属性が弱点処理じゃなく、耐性処理として扱われるらしい。

 全部の魔物の共通性質じゃないのは過去の戦闘で確認している。が、ボス系の魔物だとそんな基礎部分からデザインが違うのだろう。

 

 だがまあ、これで取りあえずは、頭の一つは潰せたと。

 そして全盲化させたんで、死角から近寄ったメアの行動は無駄足である。やりっ☆

 

 「ふん!」

 

 しかし盲目状態の頭部に更に追い討ちだ。

 痛みか驚きかは知らんが、視界を奪われたからか一度は地面に突っ伏した頭部が天に吠えるように首を上げる。その余りに無防備な動きはメアにとっての獲物でしかない。

 どうにも少女っぽくない気合い一線。さっきも使った単分子ソー内蔵の義腕が上段から振り下ろされて、その頭部は見事胴から分断された。

 

 「まずは一刈り!」

 「いやそれ、使い方違うだろうが」

 

 毎年毎年、微妙な変化付けたリサイクルを新作とほざく狩り系ゲームっぽいイントネーションの決めセリフだった。

 

 『ゴゴゴヴーーーン!』

 

 さて、さすがはそこそこ深層のボスなのか、頭一つを失ってもダメージを思わせる雰囲気が無い。むしろ猛らせた感があるか。残り四つ、今は四肢の役目をしていた頭部それぞれの瞳が真っ赤になった。

 いわゆる、攻撃色というやつだな。

 

 次の頭部を担当するのは左前脚のやつらしい。凪払いのように振り上げられたまま鎌首を上げて俺達を凝視してきた。

 そして先程の雄叫びと同時に、自らの周囲へ氷塊を発生させやがった。

 なるほど、コイツが【氷弾】担当の頭ってわけだな。

 

 「カゴメ、動くなよ。【ウォールディフェンス】」

 「あい。かごめドッシン」

 

 【ドレッド・アバランチ】の正面に陣取ったままの【ブラボー】。

 ガード専用魔攻重機の本領発揮だ。

 位置どりはカゴメに任せてるが、守りの対応のほとんどは俺が管轄している。魔攻重機にはプレイヤーのようにスキルを設定する事ができる。アクティブ系のスキルの場合、搭乗者が自由に発動できるのが基本なんだが、【ブラボー】の場合は俺から管理している仕様なわけだ。

 

 【ウォールディフェンス】は正に『範囲的に守る』って意味で、【ブラボー】の防御能力を内包した力場を貼る効果があるスキルとなる。

 

 カルエが出した岩塊には及ばないが、長さは二メートル、太さは三十センチになろうかって氷の槍が何本も襲来する。人間など一本でも掠ればそれたけで身体を削られる凶悪な代物だ。

 頑丈で巨大な魔攻重機といえど、素で食らえばフレームが歪みかねない威力があるだろう。

 

 そんな氷の槍を波打つ空間のような幕が遮り、ガリガリと激しく砕く音と共に破壊する。どうやらスキルの強度は【ドレッド・アバランチ】の攻撃を凌げるっぽいな。

 

 「ぜんぜん、きかないの。みくん!」

 

 ガードは自分の仕事ってのはカゴメも自覚してるようで、それなりにやる気のある態度だ。

 

 「ぶーん! みくん!」

 「おわわわわっ、カゴメ、我ごと撃つな! 痛いイタイイタイ!」

 「あう? メア姉、ごめん」

 

 やる気は有るんだが、まあ空回りが基本だな。

 ガード専用な【ブラボー】だが、一応は武装を載せている。ただしあくまで雑魚用なんで、ゲーム時代の【PoF♂】に記録されてた有り物のM197ベースのバルカンだ。

 弾丸規格は面倒なんで共通。ただし無駄撃ちしても被害の少ない風属性のみとしている。

 ワントリガーで五十発を撃ちきる仕様は、カゴメの『ぶーん』の一声に連動している。

 狙いもカゴメの視覚に連動してるんで、実は結構命中率が高いんだが……。

 半分以上は【ドレッド・アバランチ】と接敵状態のメアに当たったらしい。

 まあ、メアにダメージが行くことは無いんで問題無いが。

 

 「主様、前から思ってたが、我のダメージの大半は味方からではないか?」

 「うーん。否定できんなあ。お前基本、敵の攻撃だけは避けきっちゃうもんなあ」

 「背中を預けられん味方ばかりとは如何に……。むむむ」

 

 俺もたまに当てるからなあ。地味に精神的なダメージは入ったらしい。

 

 【PoF♂】の魔物はとにかくデカい。最弱のやつでも中型犬はあるし、ファンタジー定番のゴブリンとかも大人サイズだ。

 特に説明は無いが、これは魔物の脅威を分かりやすく演出した結果らしい。またゲームで普通に使う魔攻重機とサイズを合わせたなんて噂もある。

 レベルアップのある環境だと実質的な強さが大きさに比例しないのは明らかなんだが、見た目のサイズが行動に繋がる要素はある。

 今メアがやってるように、【ドレッド・アバランチ】にとっちゃ豆粒以下の小娘が纏わりつくのが良い例だろう。

 

 巨大過ぎる体躯の割には素速いし、複数の頭部も残ってるから死角も少ない。それでも同等以上の速さを持つメアには追い付けず、甲殻の隙間に食らうダメージで体力を減らしていってる。

 

 ぶっちゃけると今回もメアの無双が止まらない。

 

 うーん。確か階層的にはゲーム時代でもキツ目な筈なんだがなあ。

 そんなに劇的なレベルアップも無いし、何が要因でこの状況なんかはまだ確信持てないなあ。

 

 『ゴッ、グォオオオン……』

 

 おっと。二射目をしようとした時の僅かな硬直を狙い、メアが集中攻撃で首を落とした。皮一枚で繋がってるが、骨は断ったのでもう魔法は使えないだろう。

 

 「みなさーん、残りの首に弱体化、行きまーす。ファイッア!」

 

 どうやら【ドレッド・アバランチ】の首は複数同時には展開しないようだ。二つ目の首が落ちた事で別の首が起きようとしたんだが、そこへカルエのサポートで邪魔を入れれた。

 

 魔法陣がそれぞれの首の床に浮かび、次の瞬間、泥沼化する。

 辛うじて沈没しなかったのは起きかけた首一つのみ。後はもがきつつも巨体が祟って床へと沈んだ。戦闘での熱気はあるが周囲は冷蔵庫みたいなもんだ。泥沼の床はあっと言う間に凍りついて固まった。

 これでもう移動すらできなくなったと思っていいだろう。

 

 『ギギギッ、ギュアーーー!』

 

 と、唯一残った頭が吠えた。

 何か特殊攻撃の兆しか? 未確認のやつは四つ。発動させる前に首三つ潰したからなあ、何が来るかも解らん。

 ……と、首にだけ注目したのが失敗だった。

 

 「は?」

 

 ゲーム時代から便利に使ってる、視界に重なる探索マップ。普段は視界の端に置いて近辺地図として活用し、戦闘時には敵味方のマークから戦況確認用の俯瞰マップとして使っている。

 今はマップの中心に【ドレッド・アバランチ】のマークを据えて、周囲に散る俺達のマークご囲む感じになっている。

 魔物を示すマークは一つだ。脚兼用で五つの頭を持っていたが、それでも一応、単体の魔物として配されてたわけだ。

 それがいきなり、膨大な数に増えた。

 

 改めて魔物に注目すればだ、なんと、甲羅が破裂しようとしている!?

 

 「ちっ、【オーバーアナライザー】」

 

 【オーバーアナライザー】。端的に言うなら『未来予測』。限定された状況のこれからを総合的に計算して結果を出すスキルだ。

 ゲーム時代なら、絶えずデータとして記されるVR環境の一部をプレイヤーが閲覧できるようなもんだと思ってた。

 じゃ、この世界じゃどういう理屈のものになるのか? そのあたり全く想像できない謎仕様のスキルとなった。だから怪し過ぎて極力使わないようにしてたんだが、俺の直感は今ここで使うべきと警鐘鳴らしまくりだ。

 そして得られた結果は。

 

 『エリア全域対象の無差別攻撃』

 

 どうやら避けるのが不可能な、逃げ道無しの攻撃らしい。

 亀の甲羅は元々は肋骨だ。加えて首から尻尾へのラインは背骨とも言える。背骨には生態環境を司る『髄』、血骨肉の素体が詰まっていて、正にその生命の根幹とも言える。

 それが弾けるような変化をなしてだ、しかも個体数が爆発的に増えてもいる。

 そんなシステムを内包する攻撃なんぞ、どう計算すりゃ答えが出るんだ?

 

 実際の結果を迎える前に予測を出すスキルの影響か、効果時間内の俺は止まった時間の中で思考するような錯覚を感じる。実態は時間がゆっくりと進むように見えてるだけなんだが、だからこそ、破裂途中の甲羅の変化をマジマジと観察できた。

 

 単に甲羅の節目で分割してるわけじゃない。分割された一つのパーツが、更に多角形へと割れ始めていた。

 魔物を示すマーカーは、甲羅の欠片が増えるのに比例している。つまりは、あの欠片全部が【ドレッド・アバランチ】から発生した新たな魔物となるわけだ。

 

 ちっ、スキル使っても解らんとか。こんな無駄撃ちゲーム時代じゃ無かったのになっ!

 だが、なら対応できないのかと言えば、それは違う。

 望む結果にはならないが、望まない未来になるよりは遥かにマシだ。

 

 P/Chat【キザオミ】「カゴメ、『俺達以外、全部喰っちまえ』」

 P/Chat【カゴメ】「あい!」

 

 パルティチャットはテレパシー的な扱いだ。こんな一秒でも惜しいタイミングには便利な機能である。

 

 ほぼノータイミングで【ブラボー】のコクピットハッチが開く。全開されたコクピットは菓子とクッションが散乱するコタツ付きの汚部屋状態。そのコタツの上には、仁王立ちのカゴメ。

 む、テーブルの上に立つとは、はしたない。後で叱ろう。

 が、今はカゴメの本気任せだ。

 

 もう【ドレッド・アバランチ】の甲羅は形をなしてない。

 溢れる魔力を爆炎代わりに大爆発しかけた炎の玉だ。

 俺のスキルの効果が消えれば、あの光景は無数の散弾となって俺達に降り注ぐんだろう。

 

 「ぱくん」

 

 だがその玉が、カゴメの一言と共に半分を消した。

 まるでリンゴに歯形をつけて削りとったように。いや、そのものの意味で、【ドレッド・アバランチ】の半分以上が喰われたわけだ。

 カゴメの本気喰いの餌食として。

 

 「ぱくん」

 

 そしてカゴメの二言め。これで残りの部分も消えた。

 

 「ぱくん」

 

 三言め。甲羅を失い、床に沈んで動けなかった僅かな部分も、その床ごと喰われた。これで【ドレッド・アバランチ】であった存在は、残さずカゴメの腹に消えたって事になる。

 やらしてみたら、実に呆気ない終わり方だった。

 

 「ん。そこそこ、びみ。みくん」

 「……主様、何故にカゴメの『ミミック』を使ったのだ?」

 

 歯形のクレーターとなった床にはメアがいた。

 まあ接敵状態でいたからな。魔物が消えれば残るのはメアだけだ。

 

 「解析不能でヤバ目な攻撃の兆候があった。この部屋全体をカバーする範囲攻撃なんぞ受ける必要も無いからな。だから不発のまま終わらせた」

 「あー、何か魔力の溢れ方が物凄かったですねえ。でもカゴメちゃんのお腹の中で爆発とか、ありません?」

 「ん、へいきへいき。みくん」

 「なら良いのだが。ちょっと不完全燃焼だぞ。主様」

 「ま、仕方無い。あきらめろ。それより転移ゲート開放して、とっとと地上へ戻るぞ」

 

 ボスが消えた事で、この部屋は地上への転移ゲートの部屋に様変わりする。

 その段取りが手動なんで、まだ手間があるっちゃあ有るが。

 ただ、魔物のドロップ作業が無くなったんで多少は楽とも言えるだろうな。

 

 「むう、せめて斬り落とした首くらい残してあれば、多少はドロップも期待できたのに……」

 

 ま、戦闘に実入りを望むのは当然だな。

 特にプレイヤー出だと、努力に見合う成果を得るのは自然の摂理と思ってしまう。俺もそうだから良く解る。

 が、現実ともなれば苦労だけして利益無しってのも普通にある。

 納得できない部分は山ほどあるが、そのあたり、俺はメアよりも悟れてるかもしれないな。

 

 そしてメアの嘆きのとおり、カゴメは俺の命令を守って無力となった首すらも喰らい尽くした。ある意味この世界から消し去ったからな、討伐対象にはなったようだが、同時に消滅扱いなので残念ながらドロップの要素も消え去った。

 この点はカゴメのカゴメたる存在原理なんで、当人にもどうにもならんらしい。

 

 さて、ここまで言えば大概、カゴメの正体は解るだろう。

 カゴメは人の形はしているものの、亜人ではない。魔物だ。それもダンジョンへと栄養を供給する役目を持つ魔物、【ミミック】と呼ばれる魔成器なのである。

 紆余曲折あって現在は俺の付属物と化しているが、元々は人間の敵として在る代物というわけだ。

 

 「カゴメ、一応聞くが。喰ったのはそのうち外に出せそうか?」

 「ん……。んー、みてい。むり? いまね、『おどりぐい』なかんじ。びくんびくん、な。みくん」

 「そうかー、『踊り食い』かー。そりゃ元気よさげだなあ、おい」

 

 どうやら大量の【ドレッド・アバランチ】は、いまだカゴメの中で生きてるらしい。そんじゃドロップとか以前の話だわ。

 

 カゴメが俺と魔力的に連結してから知ったが、ミミックとはダンジョンが成長、または拡張するための魔力を集めるための器官なのだそうだ。

 カゴメに喰われた物はその存在に関わらず、やがては魔力に還元される。その魔力がダンジョンの活動エネルギーとなって、別の魔物を作る原料となるのだそうだ。

 そのシステムが今は俺と繋がっていて、今喰った【ドレッド・アバランチ】もやがては俺の魔力となる。だがそれは、俺がその魔力を必要とした時だ。

 小世界であるダンジョンと単なる一リモッドキストじゃ消費する魔力にも雲泥の差が有るわけで、それまで未消化なもんはキープ扱いで放置なんだとか。

 

 まあつまり、カゴメの腹の中はダンジョンとは別な亜空間らしいのな。

 ドロップ品はその亜空間内で消化の時に発生するシステムで、そうなって始めて、俺とカゴメで共用しているアイテムストレージへ格納される。

 さて、【ドレッド・アバランチ】のドロップ品が出るのは何年後なのやらってのが、喰ったカゴメの大体な感覚だったわけだ。

 

 因みに、喰う寸前に発動しかけた【ドレッド・アバランチ】の特殊攻撃は、今になって俺の解析スキルが答えを出した。

 スキル名は【大拡散】。探知マークの反応のとおり、あの時点で魔物の数は数千まで増えていた。そして同時にそれらの魔物全てが即死効果を持つ生きた砲弾でもあった。

 大半は床や壁に激突して死亡するんだが、人間に当たった奴のみ、その人間への致命傷となって人間を餌に変えて寄生する。即死した人間はゾンビ扱いで操られつつ、寄生したのが成体となるまでの餌場となるわけだ。

 

 もしこの攻撃が発動すれば、良くて人間は仲間同士の殺し合い。悪ければ揃ってゾンビ兵としてこの部屋の番人への強制就労だ。

 なかなかに悪辣な趣向だよ。

 ったく、やっぱりS級は油断ならない。

 最初の探知で情報が出なかったのは、ある程度首が減って初めて発現するスキルだったっぽいな。

 

 「さて、ヤバかったけどまあ、終わったので良いとすっか。んじゃ地上に帰るぞー」

 「「「はーい」」」

 

 俺とカゴメの掛け合いの間にカルエがしっかり仕事はしてた。

 部屋の中央に転移用の魔法陣も展開している。

 

 「あ、帰りにお風呂用の石鹸買わないと。好きな香りのやつ、在庫切れてたんてすよね」

 「石鹸か。そういえば、我好みのアロマオイルも切れてたような」

 「なんで突然風呂話になるんだ?」

 「「そりゃ寒かったから」」

 

 平気だとか言いつつ、裸族なメアにも寒暖の神経は残ってたらしい。つーか、なら着ればいいんだがなあ。

 

 「おふろ? せっけん? ちゃんかちゃんか、あわおどり。みくん」

 「「あ……」」

 

 どうやら、姉役二匹は末の妹にまた危険なワードを詰め込んでたらしい。

 

 「お前ら、帰ったらデッキブラシで存分に洗ってやろう。な」

 「「ひいいいいっ」」

 「みくん?」

 

 

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