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模型術士の鬼盛りサクセス  作者: 雲渚湖良清
一話 【異世界の中で】
12/39

リアルでは初クエスト?

 【受注クエスト・定期間伐、魔香木収集】

 ・規定数の素材収集、戦闘あり。

 ・推奨レベル、平均80(1パルティ)

 ・達成期間、受注日より三日間内。

 ・本街道沿いで定期的に行われる間伐作業の下請け。

 この一帯には間伐対象に香木類が含まれており、中でも魔力を過剰保有する魔香木は利用価値が高い。

 間伐に加え、それらの採集品を納品すれば報酬にボーナスを加えるものとする。

 ・注意項目として。時たま、間伐対象を住処とする樹上生の魔物と遭遇する事がある。これらの魔物は全て討伐対象なので、速やかに処分されたし。

 ただし、当依頼による報酬対象とはならない。

 

 

 ────────────────────────────────

 


 内容を要約すると、人間の流通を支える街道は放っとけば密林に呑まれる。なので定期的に伐採しましょう。って事だ。

 ゲーム時代はそういう設定ってだけで、実際に街道が分断されるような事にはならなかった。けどこの現実ではどうなのか? そのあたりの確認がしたかったなんて気持ちも微妙にある。

 

 魔香木とは加工する事で魔物除けのアイテムを作れる素材だ。

 取れる品質が良いほど、レベルの高い魔物へ効果が出る。

 ただしこれを納品して得られるボーナスは微々たるもんなので、取れたら全部自分で回収ってのが生産プレイヤーの王道だったりする。

 

 後、間伐する木材もだな。

 製造品目は現代地球に準じるんで、木工品は人間にとっての主役素材となる。需要は無限なので、有って損する素材じゃあないわけだ。

 価格はピンキリだけどな。

 

 そして最後に、魔物との戦闘だ。

 クエストの説明じゃランダムな扱いっぽいが、実は必須項目だったりする。

 間伐ノルマをこなすと同時に出現するし、倒さないでクエストを終わらす判定も出ない。逆に負けたらクエスト自体が失敗扱いとなるんだからな。

 

 ま、どんな結果になっても、得られた素材がロストしないのが唯一の救いかな。

 

 「主様、個人的にはフィールド型のクエストなのも良いかと思う。いざという時は全力で逃げられる」

 「街道だからなあ、ダンジョンよりは他の魔物がリンクする確率は低いな」

 

 街道沿いは元々魔物のポップ率が低い。移動の安全性が高いから街道として機能するって演出のためだ。特に街道の上となると魔物が出現しても避ける場合もある。

 その位安全度があるわけで、運も作用すれば街道の爆走で魔物から逃げ切れる可能性もあるわけだ。

 

 「だがそのリンクも心配……いるのだろうか?」

 「まあ、俺。基本はソロってたクエストだしなあ」

 

 まだ間伐ノルマはこなしていない。なのでクエスト用の戦闘はまだなんだが……、ゲーム時代には無かった絡まれ戦闘が頻繁にあった。

 街道沿いの魔物は少ないって認識がまず壊れた。ほぼ侵入不可なはずの街道上にも来る始末で、伐採途中でも平気で襲って来た。

 

 まあレベルが一桁ばかりなので、戦闘と言うのも怪しい対応で済んだんだが。確かリンク対象はこれらの魔物のはずなので、もし逃亡状況となっても心配はいらなそうだ。

 

 「主様、普通に走るだけの蹴りで済むのは戦闘じゃない」

 「まさに『一蹴』ってか。うわ忘れろ! そんな目で見るな!」

 

 人を主とか言うくせに、よくそんな冷徹になれるな。

 

 「キュアーーー! ぐきゃっ!」

 

 と、また魔物が湧いてた。

 

 ゲームしたての初心者が相手する定番のやつだ。名は【スラビット】。全高約一メートルのウサギ型。鋭い前歯の刺突や斬撃は、まだ防御スキルが充実しない初心者プレイヤーには充分過ぎる凶器となる。

 それでなくとも子供サイズの大きさのマジな突進とか、現代人には立派な脅威だろう。

 

 が、俺達には雑魚以下だ。

 

 ついうっかり、衝突コースで飛び出して来たのを蹴ったり踏んだりで始末しちまうのを何度も繰り返してるくらいに。

 

 「主様、我は採集系のスキルが皆無だ。もう少し早めに伐採対象を教えてほしい」

 「つってもなあ。口で説明するのも面倒というか。何でもパルティ組んだのに視界表示の共有機能が死んでんだか」

 

 パルティ関係となるプレイヤー同士は、ある程度互いのステータスを確認できている。内容は現状の体力や状態異常の確認くらいの簡易表示だ。

 ここまではゲーム時代と変わらない。

 でもそれ以外がな。

 

 例えば、複数の魔物をターゲットした時のマーク表示とか。

 パルティ内の誰がどの魔物を狙ってるのか、それをマーク表示で全員が確認できるようになってたんだが……。

 どうやらその機能は無くなっているらしい。

 現状、『見敵必殺さーちあんどですとろい』どころか『殺後敵確(ヤったらテキだった)』ってな感じなんで、断定できないのが辛いとこだけど。

 まあ、マーク表示が起きる素振りすら無いから、多分間違ってはいないと思う。

 

 後、同じ理屈なのかターゲットとなる素材のマーク表示もできない。

 これもゲーム時代なら、対応スキルの所持者が素材をターゲットする事で、パルティメンバー全員が対象を認識できる仕様だったんだ。

 だから複数員が手分けして素材回収、今回の場合は伐採処理が並行処理できる予定だったんだが、その機能が無いのでいちいち口での説明をせんとならんわけだな。

 実に面倒くさい。

 

 「主様、いっそ、範囲攻撃で纏めて切り倒しても好いと思うのだ」

 「同意したいがな、下手に空き地を作るとそのサイズに見合った魔物が湧くんだよ。だから却下だ」

 「ぶー」

 

 『間伐』と『伐採』。なんとなく同じような意味で覚えてたが、このゲームしてから認識が変わった。

 伐採とは単に木を切るくらいの意味だ。だから一本をカンコンと切っても範囲攻撃で百本纏めて切り倒しても同じ言葉で済ませれる。

 しかし間伐は、ある程度の間隔で木を残しての伐採を言う。大体の感覚で言うと、人二人が並んで歩けるくらいの隙間で木が残ってるくらいか。

 このくらいの空間があると木の隙間を風が通りやすくて空気が澱まない。そして木一本一本が充分に枝葉を伸ばせるから強く品質の良い木材となる。

 

 そして何より、空いた空間に見合うサイズの魔物が居着き、余り巨大な魔物は居なくなるって事だ。

 

 設定上の仕様なのかは知らないが、良くて人間サイズの魔物の住みやすい環境とする事で、街道付近の安全性を高めているって事らしい。

 

 で、このクエストはその環境の調整って背景があるわけなんだが、ターゲットとなる魔香木の植生の都合で、ラスト付近は小さくない広場を作るように伐採する事となる。

 結果、その広場に見合うサイズの魔物が突然湧いて、プレイヤーとの戦闘となるわけだ。

 

 「して主様。ラスボスとはどんな魔物なのだ?」

 「巨大な蜘蛛だ。毒やら絡め技とかは無い単なる殴りモンスターで、戦闘自体はどの職能でも対応可能で楽だろうな。ただ問題は、サイズが直径十メートルくらいのデカさで、弱点部位への攻撃に手間取るとこ」

 

 蜘蛛型の魔物なんだが、その形状は熱気球っぽい印象だ。

 地面スレスレに頭部。その上に円周状に並ぶ長い節足が八本あって、風船のように膨らんだ腹が一番上に浮かぶように伸びている。

 頭部や節足は堅い殻と棘と化した体毛を覆われ、防御力も高い。反対に風船状態の腹は柔らかい皮膜のみで、斬撃やら打撃やら魔法やらと、総受けオーケーな弱点となる。

 

 パルティ環境で理想とするなら、盾役が節足の攻撃を抑えてる間に魔法職が腹へと遠隔攻撃。この二役さえ居るなら後の職能はお好みでって感じだろう。

 【PoF♂】には銃器も多いから、魔法職でなくとも遠隔攻撃の手段もあるしな。

 

 「なるほど、ならば相手が十メートルサイズなのも巨大と言うよりは的が大きいと言ったところか」

 「だな。ああ、広場に湧くとは言ったが、別にその広場が限定空間な戦闘エリアってわけじゃない。だから木々を盾にするなら最悪盾役が居なくても何とかなる。運的にダメなら逃げれるし」

 「それであの街道を逃走と。なあ主様、いったいどうやったら返り討ちになる可能性があるのだ?」

 「言うな。ダメな奴はどんなに用意周到に努力してもダメなんだ。行動が必ず悪い方へ悪い方へと流れていく。もう哀れ過ぎて何も言えねえよ」

 

 戦闘プレイ以外には無頓着なメアだ。とにかく当たって砕けろな行動で何とかしてきたんで、逆にそれ以外を説明しようとしても接点が無さ過ぎる。

 ただ、そんな風にしたのもある意味俺なんで、そのあたりは反省点かもなあ。

 いや縁の下のナントヤラとかで、ド素人時代のメアにはいろいろサポートもしたんだよなあ。一応リアルな女子キャラだし。下心もあったし。残念ぶりがダダ漏れしてるが可愛い時は可愛いし。

 

 「……まあ何だ。今の行程は六割くらいな。多分あと十分もすれば戦闘になる。メアは伐採無視してていいから、この辺りの魔物の分布とか再確認しといてくれ」

 「んー、了解だ、主様」

 

 そうして街道を進み、見た目、やや街道を塞ぎがちの木を処分していく。採集対象の魔香木も大量ってくらい得られた。

 強化しまくったアイテムストレージが無ければ到底持ちきれない重量だろう。

 

 「ふむ、感触としてはゲーム時代よりドロップ品が多い。そしてだ、何か初見のイベントとか発生したっぽいぞ」

 「ほう?」

 

 そろそろボス戦という頃合いの地点。後は魔香木の広場を空けるという状況で、街道に変な追加物体が転がっていた。

 

 「馬車……ではなく【魔攻重機車】か。主様、我はこの状況は結構危険度が高いと推測するのだが、どうなんだろう?」

 「ん、俺も同意だな。ギリ戦闘用っぽいし、それが大破してるのはこの辺りの魔物的に有りえん。確実に他の要素が絡んでるだろ」

 

 街道脇に踞るように転がってるのは町でもよく見た人型の魔攻重機だ。

 ろくな装甲も無い骨格剥き出しな仕様だが、魔力を弾丸として発射する軽機関銃モドキな武装は施されている。

 一応、ゲーム時代の設定ならこの辺りの魔物には対応可能な代物だ。

 

 それがまあ、何と片足が股間の基部から引き千切られてた。

 

 馬代わりに使ってたようだが、性能ならば馬なんて足下にも及ばない頑丈さなんだがな。魔攻重機をあんな風に破壊できる魔物となると、最低でも全高八メートルサイズ。中型から大型で、今回予定のボスな魔物の五倍は上のレベルがいる。

 

 これはちょっと、場所的に不自然だよなあ。

 

 「さて、主様?」

 「うむ。安全マージンとかクエスト放棄とか、マイナス要素は満載だが首を突っ込まない選択は無いな」

 

 俺達の視線の先は、壊された魔攻重機が運ぶ荷車だ。

 素材は木材だが金属板で補強された頑丈な作り。ただし壁に当たる部分は全てが鉄格子。横倒しになっててもほとんど歪んでないからその作りの強さが解る。

 それはいわゆる、奴隷を運搬する用の荷車だ。

 この世界の奴隷とはほぼ亜人。つまりは女。体格は華奢でも大半は魔力に長けた危険物。あの荷車の頑丈さは中身から外を守るための、本当の意味での猛獣の檻ってわけだ。

 

 その檻の扉は破られていた。

 

 中身は……無い。

 

 何人が押し込められてたかは知らないが、この現場を作った奴が攫って行ったのは確実だろう。

 

 「くくくっ、上手く行けば、タダで美少女奴隷をゲットウハウハだな。主様」

 「人聞きの悪い事を言うな。ここはゲームじゃないんだからな」

 

 【PoF♂】のゲーム内ルールだから奴隷ってものにも忌避感は無かったが、それが現実となるとまた別だ。

 女の裸体を喜んじまうのも男の本能なので、道徳心とはまた別の感覚だ。

 

 で、俺の道徳心とは一応現代人の代物なんだから、つい、こんな時には綺麗事な正義感も出るってわけで。

 俺達はその惨状から追える先へと、予定を変えて移動したのである。

 

 

次回の更新は、10月31日(月曜日)の午後8時となります。

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