ハーレムパルティ『デミウルゴス』
「マスター、進行方向に反応あり。距離、約一キロ。数は24。放散魔力のパターンから該当目標と推測します」
「ん……、こっちでも確認した。前情報とほぼ一致するな。んじゃ戦闘気分で行ってみようか」
「「「了解」」」
うちの部隊の索敵要員、カルエ・エラフが今回のクエストとなる対象の報告を上げてくる。
俺も二次確認し、特に異常も感じないんで返す言葉はいつも通りだ。
ただし戦闘も近いって事でカルエの他、部隊メンバー全員から返事が返ってきた。
俺は乗機にしてる戦闘車両、グレイハウンドっぽい装甲車をベースとした魔攻重機『アルファ』から上半身のみ乗り出して、車内からスキル【千里眼】で確認したものを自分の肉眼でも確認しようとする。
しかし青々と葉をつけた木々が生い茂る山道仕様な街道じゃあ、とてもカルエが見つけた目標なんか見えやしない。
「やっぱエラフの視力半端ねぇなあ」
「えへへ~♪」
カルエ・エラフのエラフとは、魔法に秀でた女系の亜人種族を差す名称だ。
より詳しく言うと、エラフは苗字じゃなくて品種名な意味で使う。
人によっちゃあ抱く印象が様変わりする存在。主に奴隷化した亜人を、一般の亜人と区別するための言い方なんだな。
イントネーションから解るだろうが、語源にあたる亜人はエルフとなる。
カルエの外見もまんまエルフだ。エメラルドブロンドの髪に耳長、髪同様、全体的に緑色っぽい体色さえ気にしなけりゃ、十三~四歳くらいの華奢な体躯の白人系少女にしか見えない。
実年齢は知らないが、まあ、行動パターンは見た目通りの小娘だ。
基本丁寧語で喋るが、態度は五月蝿くベタベタ懐く小犬っぽい。こまめに構ってやらないと直ぐ泣くのに要注意、である。
そんなカルエの乗機は、地球に存在した実機をモデルにしていない空想系の人型魔攻重機で、索敵兼長距離魔術砲撃を基礎仕様としている。カプセル型の防盾付きな対地対空迫撃砲に手足が生えてるといった見た目だ。長距離砲戦仕様だが一応人型なので格闘もこなせる。呼称は『チャーリー』。
胴体部には装甲があるが、人の鎖骨から上にあたる位置には頭部と言えるようなパーツは無い半オープントップ仕様。
ファンタジー風味に言うなら首無し騎士のデュラハンみたいな感じ。身も蓋もない言い方だとパカッと開く蓋付き炊飯釜で、そん中にカルエが女の子座りでスッポリと収まっている。
中はコクピットという雰囲気の無い単なる空き空間だ。魔攻重機は射撃管制から機体操作まで、ほぼ意識に連動して動くんで操縦機器がオミット可能なんだよな。
ま、派手に動けば即放り出されるんでシートベルトくらいはあるが。
今カルエは、コクピットのカバーを開放して立ち上がり、俺同様に生身の上半身を晒しての索敵をしていた。
そして人間より遥かに高性能の目と耳で、魔巧学で再現されたパッシブソナーや専門職能であるスキルを上回る結果を出したってわけだ。
褒めた俺を見て素直に照れる姿は非常に可愛いが、俺の視線がつい、その愛らしい顔より下に向くと恥ずかしがって身を縮めて隠れた。
「いや……恥ずかしがるなら何か着ろよ」
「嫌です!」
「主様に進言。これは部隊規律で統一規格で君とボクとのお約束。部隊運用上の規律遵守は絶対だ」
「きかく、ぜったい? みくん?」
一応、主張はしよう。
この戦術部隊、【パルティ・デミウルゴス】のリーダーは俺だ。
だが部隊運用の面のほとんどで、俺には発言権がいっさい存在しない。
情けないが、それが事実だ。
だからこの規律とやらの成立にも無関係なのだ。
俺の個人的な尊厳のために、そこだけはハッキリ主張する。
主張するったら主張する。
ちなみに【デミウルゴス】の構成員は、バッファー兼スナイパー兼部隊指揮者である俺、キザオミ。コールネームは【アルファ】。
ディフェンス兼アイテムポーターのカゴメ。コールネーム【ブラボー】。
索敵兼砲撃担当のカルエ。コールネーム【チャーリー】。
最後にアタッカー兼強行偵察兼オレTUEEE!担当のメア。コールネームは【デルタ】。
以上の四名となる。
男は俺だけで他は全員女。しかも見た目は年端もいかない少女、いや美少女ばかり。ついでに言えば、人間としての意味でも俺は一人であり、他は皆、亜人。しかも奴隷だ。
悪意と妬みのある連中からは、俺が鬼畜外道の欲望のままに作ったハーレム・パルティなんて蔑称で呼ばれている。
否定はしたい。いや事ある毎に否定はしている。
が、俺の冷静な部分は、その否定が虚しいだけだとも自覚している。
それはまあ、やっぱりこの見た目なんだろう。
うちの女衆、なぜか揃って裸族主義なんだよな。
そして錯覚でも自惚れでもなく、常時俺に対して女アピールを絶やさない。
これでハーレムじゃないなんて主張をしようとも、信用度がゼロなのは当然だ。
俺が逆の立場なら確実に信じない。そして『核爆発しやがれ!』と叫ぶ。
「規律って言うがなあ……」
その設定の大本を決めたのはメアだ。フルネームはメア・ドラフ。
ドラフの意味的語源はカルエと同じとなる。
違いは種族元がドワーフからってくらいだな。
この世界の設定じゃあドワーフは単に小柄で頑丈な意味合いが強い。なのでメアの容姿はカルエと似た雰囲気の白人系ながら、少女というより幼女気味に収まる。肌や髪など全体的に赤っぽい印象なのは、ドワーフの火属性体質な部分の影響だろう。
パルティ・デミウルゴスは全員、何らかの魔攻重機を使用させている。
俺は装甲車両。カルエとカエデはロボット。そんなんで全体的な印象はゴツい感じなんだが、メアだけは少々異質と写るだろう。
こいつだけは、ほぼ生身だからな。
メアはちょっとした理由で過去に両腕をロストしている。肩間接から綺麗さっぱり無い。切断面は丁寧に処置されて悲壮感は無い上に、代わりに移植した特殊機能付きの義腕の端子が金属製のアクセサリー的にも見えるから、見ようによっちゃ逆にメアの魅力を増加させる効果があるともとれる。
で、その特殊な義腕は立派な魔攻重機でもあり、メアを生身でメインアタッカーたらしめている重要な要素にもなっている。
義腕の見た目の印象は『巨大ロボットの手首』とでも言えば伝わるだろうか。
それが身長150に届かない小柄な少女の両脇に、フヨフヨと浮いてるんだよな。指までピンと伸ばせば、手首のみの義腕はメアをスッポリと隠してしまう。こうするとまるで盾を構える戦士のようだ。
義腕とメアは直接的に接続はしてないんで、握り拳にしてある程度の距離を打ち出せる。それは馬上槍のチャージに匹敵するようなもんだ。
ドワーフは見た目に反して強靭な筋力と頑丈さをもってんで、まるで転移のような瞬発力とスピードで行動するメアがそんな攻防能力を発揮すれば、まあ結果は容易に想像できるだろう。
これで羞恥心皆無な姿を晒す痴女でなきゃあ、誰にでも大いに自慢できるんだがなあ。
しかも女衆のリーダー格で、結果的に他の二人にまで裸族主義を強要している困った奴でもある。
「主様、これは効率的な仕様なのだ。我等にとっては、下手な防具など無駄に修繕費を発生させるだけのコスト源で不経済なのだぞ」
「確かに、大剣に真っ向から頭突きかまして砕くお前にゃ防具は要らんけどな」
ついでに言えば、過去にうっかりフレンドリーファイアでメアを撃った事がある。得物は確か対戦車ライフル枠の銃だったなあ。『カーーーン』とか派手な命中音がした。そんで『頭がクワンクワンするぞ、主様』とかボヤカレタ。
カルエに後頭部を撫でられてたんで、多分そこに当たったんだろうな。
物理学的常識すら超越する、ドワーフ脅威の頑丈さだった。
他の奴は人並みなんだから、普通に防具は要るんだぞ。
勿論、俺自身も含めて。
「魔攻重機の中に居るなら平気だ。主様」
「そこはまあ、異論は無いが」
「逆に中は蒸しますから。ムンムンで咽せますから」
「ぜんらたいき、きほん? みくん」
「全裸待機なんて言葉、誰がカゴメに教えたあ!」
「「ノーコメント」」
油断も隙もありゃしねえ。
確かに、俺達が活動する地域は暑いし蒸す。
ジャングルとは植相が違うが、密林に近い亜熱帯な雰囲気だ。
下手に着込めばそれだけで体調を崩す。例え薄衣一枚だとはいえ、湿度付きの蓄熱効果はちょっとしたミスでも大きなトラブルの元だからだ。
とは言え、コイツ等この環境で育ってきてんだから、よっぽどの事がなけりゃあそんなトラブルを起こすバカじゃない。
少なくとも、俺の仕事の環境で見知るコイツ等以外の女性陣には防具とも言えない薄着は多いが裸族は皆無だ。
むしろ着衣有りの手練手管っぷりには感心のしきり。ついつい凝視したくなる、微妙な着崩し方すらマスターしている者さえいる。
間違っても、こんな露出狂的突貫娘共には遭遇した記憶はない。
「主様、それは失礼だ。我等だって配慮はするぞ。ちゃんと外ではマント着用するし」
「迂闊に走っちゃあ、その白くて丸い尻を御披露してるがな。実に頻繁に」
「かんのんさま、ごかいちょー? みくん」
またも危険なワードを発するカゴメだ。
推定元凶の方面に視線をやると、今度はカルエが目を反らした。
ううむ、ブルータスおめーもかよ。
これは、カゴメは今度ちゃんと教育しないと、手遅れになるかもしれん。
部隊内では敵対対象からの攻撃を引き受けて、他の者にダメージを散らさないようにするのがディフェンス役の務めとなる。
カゴメにはそんな防御機能に特化させた魔攻重機を担当させてるんだが、実は部隊内じゃあ一番幼いモノホンの幼女様である。
種族は不明。見た目は十歳未満の南国無国籍風。まだ凹凸皆無の黒めの肌に金属光沢を放つ超ロングな銀髪。虹色に変化する瞳と併せて、まあ人間とは思えない特徴持ちだ。
ただいま世間様の常識を絶賛修得中の、無垢で無邪気っぷりを実践している。
どうしてそんな子をヤバい環境に置いてんだという指摘はスルーだ。
ただ、カゴメの瞬間的な反応速度は大人顔負けでな、それにリンクさせたディフェンス型魔攻重機は実に見事な壁役として機能している。
搭乗者が小柄な分、増量した機体の装甲厚は半端無い。
巨大な鉄塊に見えるのはある意味間違い無い事実で、一応、相応の被ダメテストもしてるんで、今日程度な仕事じゃあどうやってもカゴメが怪我する可能性自体が無い。
だからといって、恰好的にメア達に付き合っていい理由にはならんのだがな。
普段、俺の言いつけには素直な良い子なのに、何故かこの部隊規律って部分だけには意固地になる。
加えて最近、やたらと危険な言葉をインプットされてきてんで、カゴメの将来が心配でしょうがない。
「……いかん。なんかこう、俺は今、この部隊運用において致命的な問題にぶち当たったような気がする。ここは依頼を放棄しても帰還するしかないのだろうか……」
「みくん?」
まだ世の中全てが不思議でいっぱい。そんなお子様好奇心な仕草で溢れるカゴメ。
自分の発した言葉がどんな爆弾かも解らず、逆にこっちが何故狼狽えてるのかが不思議でならんのだろうな。戦闘前で開放してるコクピットの防御外殻越しに俺を見て、『なんで? どうして?』と視線で訴える首カックンな様子だ。
「あ、主様主様、正気に帰れ。最重要の優先目標は、下衆で下劣な豚野郎共の巣窟は目の前だ。ここで今更帰還は無い」
「マスター! キザオミ様ー! お仕事の優先度上げてくださーい! それからなら一晩でも二晩でも全員でご奉仕しますからー!」
「ぶぁっかやろう! 原因作ったお前らが言うな! つか、下半身激っちゃって帰りてーわけじゃねぇ!」
「みくん? ごしゅじん様、はつじょー?」
先程までのゲリラっぽい戦場って雰囲気は完全に霧散した。
女三人よれば姦しい、ってのは亜人だろうが奴隷だろうが変わらん。
常時そんな姦しさの渦中に置かれる俺も、いつの間にか強制的に参加させられるのを、今の所避けれた経験が無い。
もうぶっちゃけ、今回のクエストなんかどうでもいいやって感じだ。
いやいや、ちょっと冷静になろうか。
思い出せ。俺はどうして此処にいる?
俺は今回のクエスト内容を思い出す。
内心の葛藤に耐えて、じわりじわりと思い出す。
『依頼地より西の山中にオークが出たという目撃が報告された。依頼地は俺達が拠点にしている再開拓町、エンマリオに鍛冶用の魔鉱石を収める採掘場集落の一つで、開拓や日常の生活に必須の資源を排出する重要地点となる。オークは別名性欲魔人とも呼ばれる魔物であり、人間集落の女を狙った襲撃などは日常茶飯事のレベルで問題となっている。存在を確認したならば、早急な対応が必要だ』
と言うことで、俺達の今回の仕事は、そんな豚野郎共を発見し根刮ぎ始末するというものだ。
本来、A級指定の大型の魔物討伐とかダンジョンの深部侵攻なんかが俺達のメインの仕事なんだが、今回、やんごとなき理由で畑違いの俺達に仕事が回されて来ちまった。
オークってのは平均身長三メートルの二足歩行の豚だ。一応は魔人に分類されてるが扱いは魔物ていどの存在となる。雄ばかり二十から五十体の群れの集落を作る。基本、草食っ気の強い雑食性で人間と接触しなきゃあ結構長閑に暮らしてるらしい。
ただ、繁殖可能な雌を認識したら、そんな長閑さは完璧に消し飛ぶ。
こいつ等は人間や亜人の雌を使って自種族を維持するんでな。もう常時本能的に雌を求めてて、発見したら孕まし終わるまで狂乱状態となるんだ。
故に、人間勢力にゃ天敵認定されてる類の魔物だったりする。
しかし結構臆病な連中でもあり、下手に力ずくで殲滅しようとすると一部に遁走されては任務失敗っていう事がよくある。
単なる遭遇戦での結果なら別に構わんのだが、人里の近くでってなると、これが案外深刻な問題となったりするんだ。
オークにとって人間は、食欲的な獲物であると同時に、子孫繁栄のための性欲的な獲物だ。奴等、女への執着は絶対捨てないからな。しかも一体でもそんな状態となると、何故か近隣からワラワラと同類が集結する。
瞬く間に何処にそんなに隠れてたって言いたくなるほどの、女に飢えた狂乱集団が延々と湧く状況もありえるわけで、正に一体でも見つけたら即殺せってのが堅実なる正攻法となるわけだ。
なんで、オークにとっちゃ撒き餌扱いができる女だらけの俺達が来たわけだ。
うちの可愛い奴隷たちの魅力は、奴らの臆病さを完璧に上塗りした性欲で染める。そんな目算あっての指名依頼と言うわけだ。
実際は公言できない生臭い理由で、厳密には指名依頼じゃあ無いんだが、実態は指名と変わらない。
確かにメア達が言うように、ちょいと気分で止めました。とは言えない類の依頼なのは確かなのだ。
確かなのだが。
「んじゃもう密な作戦とか面倒だ、このまま突入。カルエが魔砲で数潰したら残りはメアの雌臭さぶっこんで、かき集めて根刮ぎに狩るぞ!」
「ラジャーです!」
「主様、少し言葉の言い回しに傷つくぞ」
「なので防御の面は考えんで良い。カゴメはこの場所で待機。好きなだけ菓子食っていいから大人しくしてろ」
「あい! カゴーまつよ!」
現金なもんで、普段は厳しく躾てる菓子っ食い制限を解除すれば、カゴメ内の俺の最上位者権限は不動となる。
ふははははっ、これが養い親の実力よ!
しかしこれで防御という堅実さは捨てたので、後はもう露出狂女の匂いをぶちまけて狂った豚共を殺すのみだ。
「カルエ、魔術砲撃、座標はもう取ってるよな?」
「あ、アイアイ。キザオミ様!」
「じゃ、撃て。選択は『火』で」
「アイアイ、ファイッア!」
エラフは生粋のエルフと違い、人間の奴隷になった時点で人間寄りな魔術を習得する。即ち、攻撃系魔術の色々だ。
こんな魔攻重機があるように、人間の魔法系統は科学技術の恩恵と縛りを受けている。正直、メリットとデメリットの実態を俺はよく解っていないが、魔法適性の高いエラフがこの人間寄りな魔術士となった場合、火力担当って役回りの威力はかつての地球にあった遠距離精密爆撃を軽く凌駕してんじゃねーかと思えるレベルとなる。
【チャーリー】タイプの魔攻重機に標準搭載している魔術砲は、精霊系四属性を撃ち分ける中距離型の転移着弾式迫撃砲だ。
着弾地点をカルエが認識できれば、例え視認できなかろうが射線に障害物があろうが関係無い。魔術を展開した時点で、着弾地点に地水火風の何れかの効果が顕現するのである。魔術式の都合で移動個体への照準を固定はできないが、無差別範囲爆撃の効果はそれを問題としない効果を発揮する。
ただし、俺が再調整した魔術砲は多少機能が変更してあり、射程の長距離化と着弾命中補正をデフォルトより上げている。結果、魔術としての効果範囲は従来の六割程度まで落ちた。しかし命中補正の強化は相手の魔術抵抗を貫通する効果も高めるので、最終的な一撃必殺の威力は上がった。
その成果だろう。【千里眼】でモニターしていたオークの反応は、命中範囲に限っては即死判定を出して綺麗に消え去った。
七匹討伐。まあ魔砲一発の成果なら、なかなかの結果だろう。
「メア、突入開始。残り全部、お前に欲情させる誘引系スキルも全開で行け!」
「むう、了解した。主様」
ドワーフは人間より遥かに強靱な肉体を持つ。しかしその本質は生産系の資質に恵まれてた存在だ。
だが奴隷化してドラフとなった時点で、人間に都合のいい戦闘系の能力を発揮するよう調整される。
ついでに言えば調整には感情の面も含まれていて、変化した精神は戦闘狂と言っても過言では無い脳筋っぷりを発揮する事も多いそうだ。
メアは正にそんな感じか。
「くくくくっ、こんな扁平ボディに欲情する下衆な豚共、余さず捻って捥いで踏み潰してやろうぞ! 我を存分に舐れるのは主様のみ! さぁっ、我の淫らな舞いっぷりで今宵の主様が萌えれるように、せいぜい豚共は鼻息荒く鳴くがいい!」
いや戦闘狂というよりは別の方面に狂ってるか。
いつも通りっちゃいつも通りだけど。
と言うか、『元プレイヤー』なんだからそんな精神調整されてねえんだけどなあ。
メアの身体には物理戦闘系冒険者には定番のスキル【戦身】と【闘身】が発動している。このスキルは前者が防御性の上昇。後者が攻撃性の上昇を意味し、両方の効果が乗ればまあ、人間であって人間でないような、明らかに人外の存在に変わっているのだという意味となる。
勿論個人差のある効果なんだが、メアの場合、動きからして一発発射しただけで何度でも爆発的な破壊力を発揮するスマートミサイル、ってな感じだろう。
秒速五百メートルって、具体的にどんくらい速いのかね。メアの頭部に装着させたライブカメラの映像が異常な風景を映しやがる。
まだカルエの放った魔砲の効果が残る、高熱の惨状の地をメアは素足で駆け抜けている。
一瞬、メアから魔力の放出が感知できたから、メアがオークの注目を集めれるようなスキルでも使ったんだろう。魔砲の爆心地からジタバタと遠ざかる感じのオークが、反転して爆心地に、そこに立つメアへと向けて集まる様子が、モニターの映像と、スキルによる光点の動きとなって確認できた。
後はまあ、俺の命じた通りの展開か。
今のメアなら生身の一撃でオークの防御力を抜けれる。おそらくは蹴りで一体、鋼の凶器である両腕で一体ずつと、数秒おきに三体ずつが消えていくのを確認できた。
あれ、となると、もしかして十秒未満で終了か?
ああ、終了だわ。
「カルエ、現地以外にオークの残党が居ないか……」
「視てますよー。半径三キロにそれっぽい反応は無いです」
「ぼい? ポキポキ、ポンキうまうま、みくん」
『うふふふっ、主様、観てるか? 観ておられるか? 豚が生ゴミのようだぞ』
「あー、みてる。みてるぞー」
屠殺場張りの生臭い映像モニターは消して、スキル越しの光点のみでだが。
俺にゃ視界前方の木々は透かして見れんからな。しかも一キロ先とか、当然だ。
こうして、前準備をしたものの実際には速攻でグダグダな内容で仕事は終わった。
それでも、余った時間は余さず使った。
主に、カゴメに妙な知恵を与えたバカ二人への説教という行為で。
こんな情け無い俺達だが、世間、いやこの世界じゃあ結構知名度のある有名パルティで通っている。
揶揄や悪名じゃあ無く、強者という正当な意味でだ。
ハーレムパルティ『デミウルゴス』。
創造の悪魔に創られた魔女が集う場所。
鋼の腕を振りかざし、斬り、割き、潰し、敵の血煙り捲く中を駆ける魔女。『紅蓮頭巾』
木々密林の闇に潜み、姿無くも囁きと共に頭蓋を穿つ魔女。『黄玉弓姫』
巨躯巨鎧をもって不落の城塞となし、また鋼の牙をもって万物余さず平らげし魔女。『金剛娘壁』
そして、三人の無垢な少女を無惨に刻んで魔女へと変えた悪魔。『デミウルゴス』
かなり事実を履き違えた風聞に彩られてはいるが、その異名をもって俺達は、この業界のトップを走っている。
だが意外と知られていない事もある。
こんな俺達だが、実はパルティとしてデビューして、まだ三ヶ月にもならない新人パルティでもあるのだと。