ヒーローの資質
「君、ヒーローになってみないか?」
部活帰り、人気のない道でふいに声をかけられ、そちらに目をやると正義のヒーローがいた。
「あなたは正義のヒーロー、グレートハイパー仮面さん!?」
「いかにも、私は正義のヒーロー、グレートハイパー仮面だ」
突然目の前に現れた本物の正義のヒーローに、僕は興奮を押さえきれずにいた。だが、そんな自分を他所に、グレートハイパー仮面は続ける。
「君、ヒーローになってみる気はないかい?」
「僕がヒーローに!?」
「そう、ヒーローだ」
あまりにも唐突な展開に僕は半ば頭が混乱しかけたが、そこで誰しもが思い浮かべるであろう疑問を聞いてみた。
「そりゃあ、なれるものならなってみたいですけど、一体何で僕なんですか? 僕は運動神経が良いわけでも、頭が良いわけでもない、何の取り柄もない普通の学生ですよ…」
僕の疑問に、グレートハイパー仮面は満足そうに答えた。
「うむ、やはり私の目に狂いはなかった。その謙虚な性格が良い。ヒーローは誰でも務まるわけじゃない。君だから声をかけた、君にしか務まらない。君は選ばれた人間なんだ。どうだい? 二代目グレートハイパー仮面にならないか?」
熱意あるグレートハイパー仮面の言葉は僕の心を突き動かした。なにしろ相手は憧れの正義のヒーローであり、その本人から直接言われたら誰でも悪い気はしないはずだし、自分が二代目に選ばれたのだ。
僕の答えは決まっていた。
「やります!! 僕が二代目グレートハイパー仮面になって世界の平和を守ってみせます!!」
「君ならそう言ってくれると思った…。ではさっそく、君にこの変身ベルトを渡そう」
グレートハイパー仮面は自身の腰から装着していたベルトを外し、僕の腰にベルトを巻いた。
ベルトを外した事により、変身がとけ、本来の姿に戻ったグレートハイパー仮面だった男性が言う。
「これで、今から君がグレートハイパー仮面だ。変身する時は、ベルトに強く念じればグレートハイパー仮面になれる。変身解除も同じだ。それと…」
男性は神妙な面持ちで言い添えた。
「言うのが遅れてしまったが、これから私が言う事は必ず守ってくれ。まず、誰にも自分の正体を知られてはいけない。次に、グレートハイパー仮面となった者は、最低でも一年はヒーローとして活動しなければならない。もちろん力を悪用するなんて言語道断、これらの約束事を破ると、ベルトが爆発を起こす…。これは、無理にベルトを外そうとしても同様だ。厳しいとは思うが、これもヒーローの宿命、頑張ってくれ!!」
確かに厳しい条件ではあるが、僕は正義のヒーロー、グレートハイパー仮面になったのだ。そんな事は承知の上だ。
さっそくヒーローとして活動すべく、元グレートハイパー仮面の男性に聞いた。
「まず、僕は何をするべきなんでしょう?」
しかし、男性の答えは意外なものだった。
「何もしなくていい」
「え? 何もしなくていいだって!?」
「そうだ、特に何もしなくていい。実は一週間後のシナリオで、強制的にグレートハイパー仮面は悪の怪人に敗れて死ぬ事になっている。だから何もしなくていい…。おっと、ベルトを外そうとするなよ、爆発するぞ。誰かに譲ろうとしてももう遅い。望んだのは君なんだ。君のおかげで私は死なずに済んだ。心から礼を言う、ありがとう。やはり、君は皆のヒーロー、グレートハイパー仮面だ」