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光と闇  作者: 蒼風
3/3

第二章「修行」

 体の中を光が通り過ぎて行く。

 『修行空間』の中は光で満ちていてとても幻想的だった。

 「そろそろだ……」

 ヴァンがそう呟いて俺も周りではなく前を見る。

 すると、段々と違った景色が見えてきた。

 それが『修行空間』の本当の景色である――




 「何つーか……すげぇな?」

 『光の空間』から抜けて『修行空間』へと降り立った俺、黄昏 聖はその場に立ち尽くしてしまう。そこはまるで教科書で見るような古代遺跡の前みたいだった。更に空から降り注いでいる光で(太陽とは違う光だ)昼間のように明るい。

 「感心してる暇はない。お前には一刻も早く『覚醒者』になってもらわねばならない。」

 ヴァンは後ろから呆れ顔で話しかける。

 「わぁーってる!それで?一体、どんな修行なんだ?」

 「うむ、こっちだ。」

 ヴァンはゆっくりと古代遺跡の中に入っていく。俺もその後を追う。

 と、その時――

 「何っ!?」

 上空から現実世界でもあった『魔物』が三体降って来た。

 「何でここに『魔物』が?ちょっ!ヴァン!?」

 俺が大声でヴァンを呼ぶが彼は既に遺跡の中へと姿を消してしまっている。

 「くそっ!どうすりゃいい?俺はまだ『覚醒者』じゃねぇんだぞ!」

 立ちふさがっている三体の『魔物』を倒す武器は無いか、辺りを見渡す。すると、いつの間にか傍らには一本の刀が鞘付きであった。

 「ヴァン……やれって事か?」

 俺はその刀を手にする。ズシッと重い。何とか鞘だけ抜くと魔物に突っ込んで行く。

 「おらぁ!」

 そして、その剣を力任せに振り下ろし……いや、叩きつけた。それをまともに食らった『魔物』はまるで地面に溶けるように消えた。

 「はぁ……はぁ……」

 行き着く間もなく残り二体の『魔物』が襲い来る。俺は正面から来た『魔物』を横薙ぎにしたが、後ろから来た『魔物』に気付かなかった。

 「しまっ……!」

 重い刀を両手で持った状態では動きも鈍くなり、『魔物』の爪が俺を襲う。その時――


 『灼熱の弾丸(マグマ・ボム)!!』


 横から『何か』が当たり、爆煙が辺りを包む。

 それが徐々に止んでいく。完全に止んだ時、そこには地面に沈んでいく『魔物』の残骸しか無かった。

 「前だけを見るな。死ぬぞ?」

 見ると遺跡に入って行った筈のヴァンがこちらへと近づいてきている。右手はジュージューと音を立て、真っ赤になっている。

 「ヴァン……」

 俺は重すぎる刀を地面に刺して呼吸を整える。本物の刀を持ったことのない俺としてはとても耐えられるものじゃない。

 (しかし、何で『魔物』は『修行空間』に入れたんだ?)

 俺がそうやって思考を巡らせている時だった。

 「簡単な事だ。あの『魔物』は『修行空間』によって作り出された言わば『人工魔物』という事だ。」

 俺の心が読まれた。いや、表情を見ればある程度は分かるのだろうけど、それでも凄い。

 「じゃあ……今のも修行の一つ?」

 何とか冷静さを取り戻してそれだけ聞く。

 「そうだ。この修行ではお前の武器はその刀だけだ。いや、万が一この修行でお前が覚醒出来なかったとしてもその刀で乗り切ってもらう事にする。いいな?」

 「あぁ、絶対ここで覚醒してみせるっての!」

 俺は刀を担いで数歩歩く。これだけでもかなりの修行だ。ヴァンが後ろを着いてきているのが分かる。そして、そのまま遺跡内へと入って行った。



◆               ◆


 遺跡内は外の温度が嘘のように寒い。今にも凍えそうな空間の中に三つの西洋騎士のような銅像が行く手を阻むように立ち塞がっている。

 「寒っ!何だよ、ここ!」

 コートを着ているにも関わらず震えてしまう俺。それに引き換えヴァンは俺より薄着なのに身震い一つしない。

 「ここは『修行遺跡』と呼ばれる場所だ。ここで修行をしてもらう。」

 パチン――ヴァンが指を鳴らす。すると、辺りが突然震動して眼前の銅像が動き出した。

 「おわっ!?」

 俺は無意識に飛び退く。銅像は右手に持った剣を掲げてゆっくりと近づいてくる。

 「なるほど……これが修行なのか?」

 俺が刃が剥き出しの刀を振り下ろす動作をしてから構える。

 「そうだ。私はここで待っている。頂上へ行って宝玉を取って戻ってきてくれ!」

 俺はその言葉に頷いて走り出す。まず、正面の銅像の斬撃を避ける。続いて右側の銅像目掛けて刀を振り下ろす。

 銅像は太い悲鳴を上げて崩れる。しかし、休む暇なく後ろに気配を感じ振り向きざまに刀で防御の構えを取る。

 ガキィィン!――耳をつんざくような音と思い衝撃に俺は顔をしかめる。

 更に後ろから三体目の銅像が襲ってくる。

 一旦、後退した俺はそのまま銅像が立っていた先へと走る。

 「全員は倒さずひたすら先を急ぐ、か……」

 後ろでヴァンがため息をつくのが聞こえる。

 「甘いな。そんな事ではこの修行は突破出来ん!」

 ヴァンの声に呼応するように二つの銅像が迫ってくる。

 「くっそ!」

 俺は空中で半回転して銅像と向き合うと間髪入れずに横薙ぎにした。

 ボガン!という破裂したような音と共に先頭の銅像が崩れ、その衝撃で後ろにいた銅像も巻き添えを食うように崩れた。

 「なるほど……連鎖攻撃か……」

 ヴァンが感心するように言う。俺はそれに頷くだけで答えるとさっさと先を急ぐ。

 まずは一番近くにある石段を登る。最初は勢いよく、しかし少しずつ速度が落ちてくる。

その道中、敵は現れなかったが数多の罠が仕掛けられていた。

 「いっ!?」

 又だ。石段も半分くらいの所で何処からか複数の矢が乱れ飛んでくる。

 「くっ!」

 慌てて伏せた俺の頭上スレスレのラインを矢がかすめていく。

 「くそっ!危ねぇ!つーか、この石段長すぎ!」

 実際その通りだった。半分登ってもまだ頂上が小さな点にしか見えない程度である。

 「へっ……まだ、まだ……」

 俺は刀を支えにして一段一段ゆっくりと登って行く。

 すると、ガコン!という何かが外れたような音がして、その直後に石段の幅ギリギリの大岩が転がって来た。

 「なっ!?あんな大岩トラップを……!」

 俺は必死に策を巡らす。そして、辿り着いた答えは――

 「おらぁっ!」

 刀で大岩をぶった斬る事だった。

 ガッ!という音と共に刀と岩の押し合いが始まった。俺は痺れる腕に力を込める。が、少しずつ押され始めてきた。

 「おぉぉぉ……!」

 俺は掛け声と共に全体重を刀に掛けるべく高々とジャンプしてみた。

 すると、食い込んでいた刃が外れて前に吹っ飛んでしまった。

 「うおっ!」

 俺は背中から落ちた。その時、潰された!と思った。が、いつまで経っても大岩は来ない。恐る恐る後ろを振り返ると大岩は既に下の方まで転がって行ってしまった。

 そう、俺が飛んでその下を大岩が通り過ぎて行ったのだ。



◆               ◆


 私、ヴァン=レクシィードはある泉の前に来ていた。場所は聖が修行している遺跡から2km離れた丘の頂上だ。

 この泉は特別で水面に『現実世界』の様子が映し出されるのである。私は聖の修行中にここで監視していると言う訳なのだ。

 スゥという静かな音と共に水面にゆっくりと波紋が広がる。この後に様子が映し出される。

 しかし、それを見た時、私は青ざめた。急いで回れ右をする。


 『炎の翼(ファイア・ウイング)!!』


 ヴァンの背中に炎で出来た立派な羽が生える。それをゆっくりと羽ばたかせて上昇する。

 「聖……少々頑張ってくれ!」

 そう呟きつつ修行の場となっている神殿へと飛び去った。最悪のシナリオを止めに――



◆               ◆


 「はぁはぁ……やっと着いた。」

 俺は石段を登り切った所で大の字に寝転がった。全身汗でびっしょりだ。

 「くそぉ……一体何段登ったんだ?」

 俺が両手をついて起き上がると手元にあった看板を覗きこむ。そこには――


 『只今の石段の数、1億段』


 太いマジックでそう走り書きされていた。

 ガン!――俺はその看板を一蹴すると拳を握り締めた。

 「ヴァン!修行から帰ったらぶっ飛ばすぞぉぉぉぉぉぉ!!」

 本人がいないとはいえ叫ばずにはいられなかった。いや、もしかしたらいないからこそ言えたのかもしれない。

 そこで俺は最初の目的を思い出し周囲を見渡す。そう、宝玉を取ってくるという目的だ。

 「あった、これか?」

 無造作に置かれた宝箱。それには苔が生えていてずっと放置されていた事を物語っていた。

 「こいつを持ち帰るんだっけか?」

 俺は宝箱の蓋に手を掛ける。すると――

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!――音を立てて神殿が崩れ始めた。

 「うあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 空中で必死に手を伸ばす俺。すると、奇跡的に木の枝に手が掛かった。

 しかし、安心したのもつかの間、頭上より大きめの瓦礫が降って来た。

 「――!」

 ぶつかる!――目を瞑ったその時だ。

 ふわっと体が宙を浮くのを感じる。俺は恐る恐る目を開けてみる。すると――

 「ヴァン!」

 それは炎で出来た翼を生やしたヴァンだった。俺の右手を掴んで瓦礫の合間を縫って飛んでいる。

 「聖、予定変更だ!『現実世界』に戻るぞ!」

 「はぁ?何言って……!もう時間なのかよ!?」

 俺は暴れようとするが、首を掴まれて無理矢理大人しくさせられた。

 「予定変更だと言っただろ?一番恐れていたことが起きた。」

 そして、間を置いてから言った。

 「『現実世界』に『魔物』が大量発生した。」



◆               ◆


 俺とヴァンは『修行空間』に来た時と同じ扉を通って『現実世界』へと戻ってきた。

 「椿?」

 が、そこに椿の姿は無かった。『修行空間』へ行く時は確かに「ここで待っている」と言った。

 「『魔物』に襲われた可能性がある。とにかく早く探そう!」

 ヴァンが先を急ぎ、洞窟のような壁をすり抜けていく。その後を俺が続き、駅のつきあたりへと出た。

 「なっ!?」

 その光景を見て俺とヴァンは唖然とした。駅の柱は半分からポッキリと折れ、壁も深くえぐれている。

 「くそっ!手遅れか……!」

 ヴァンが悔しそうに壁を殴った。その頭上から黒い影のようなものが降ってくるのが見えた。

 「ヴァン!危ない!」

 俺はとっさにヴァンを押し倒した。『魔物』の腕が俺の肩をかすめる。

 「聖、下がっていろ!」

 ヴァンは両手を前に出す。


 『十字の獄炎(クロス・フレア)!!』


 巨大な炎は十字を描いて『魔物』を焦がした。

 「椿の消息が心配だ。とりあえず外に出るぞ!」

 俺は頷いて駅の出入り口に向かって走った。しかし、床から這い出るようにして何体もの『魔物』が取り囲んでくる。

 「くそっ!又かよ……!」

 俺は姿勢を低くして腰に手を当てる。そう、そこには刃が剥き出しの刀があるはずだった。が――

 「え?刀は……?しまった!あの神殿が崩壊した時に落ちたのか!」

 『魔物』はジリジリと迫ってくる。それに合わせて俺も交代する。

 「聖!受け取れ!」

 その時、後ろからヴァンの声が聞こえた。振り向くと鞘付きの刀が飛んできた。俺はその刀を片手で受け取ると共に鞘を素早く抜いて一回転する。心なしか最初に持った時より重くない。

 「これは予備だ!重さと威力は最初に渡した奴よりも劣るが、十分だろう?」

 それを聞いて刀が軽くなった気がしたのも頷ける。

 「サンキュー、ヴァン!これで思う存分戦えるな……」

 俺は刀を両手で持って水平に構える。

 「ヴァン!一気に行くぞ!」

 「分かった!」

 俺とヴァンは手分けして『魔物』に突っ込んでいった。



◆               ◆


 私、護耶 椿は混乱する人混みに紛れて避難していた。

 (聖、無事でいて!)

 そう願いながら胸の前で腕を組む。

 『うわぁぁぁぁぁぁ!来たぞぉぉぉぉぉ!!』

 不意に人混みが騒ぎ出した。見ると、さっきと同じ『魔物』が数体行く手を阻んでいた。

 「くそっ!化け物め!」

 先頭にいた警察が拳銃を構えて発砲した。

 ガウン!ガウン!――次々と打ち込むが一向に効いている様子はない。

 『ギャァァァァァァァァ!!!』

 怒りともとれる奇声を発しながら『魔物』は警察を真っ二つに引き裂いた。

 警官は声を出す間もなく崩れ落ちる。それを『魔物』は音を立ててむさぼり始めた。

 その様子に椿を含め、一般人全員が目を伏せる。

 すると、「がぁぁ!」という悲鳴が聞こえた。最後尾にいた警官も引き裂かれたのだ。

 私のいる場所は行列の後ろの方、跳びながら移動してきた『魔物』が今にも自分を引き裂きそうな距離だ。

 「皆!逃げて!!」

 私は無意識にそう叫んでいた。それに瞬時に反応した一般人が無我夢中で走りだす。しかし、全員が思い思いに逃げるので一人ぼっちになっている人もいる。

 私は近くの橋に向かって走り出した。ある考えが私の脳裏に浮かんだから。

 『ギャァァァァァァァァァァ!!』

 『魔物』は私の後を追ってくる。私は橋のちょうど真ん中辺りで急停止すると橋の柵に足を掛けた。

 (聖が来るまで……絶対死ぬもんですか!)

 その思いが行動の引き金となって私は川に飛び込んだ。

 スカートだということも忘れて頭から突っ込む私。実は水泳経験があるから。でも、そんな物も流れが速い川では役に立たない。着衣しているなら尚更。

 「うっ!あぷっ……!」

 溺れかけている体を必死に動かせて掴めるような物を探す。しかし、生憎周囲には細い枝しか無かった。

 「椿!掴まれー!」

 すると、陸の方から声が聞こえ、前の方に何かが現われた。恐らくは刀の柄だと思う。

 私は夢中でそれに掴まった。それを渡してくれた主は精一杯の掛け声と共に私を引き上げてくれた。

 「はぁはぁ……こ、この声は……」

 私はむせ返りながら引き上げてくれた人の方を見る。その声は良く知っている人物の声だったから……

 「聖!」

 その歓声に応えるように赤髪の青年は微笑んだ。



◆               ◆


 「やっと……見つけた……」

 俺は右手の痛みに顔をしかめながら刀の柄を握る。椿を救う際、自分が刃を持った為、右手が血だらけになったのだ。

 「椿、大丈夫……か……?」

 俺は椿の方に向き直る。と、椿はいきなり俺の胸に飛び込んできたのだ。

 「椿……」

 彼女の目には涙が浮かんでいた。それを見て俺もゆっくりと抱き返した。

 「ごめんな。もう、一人にさせたりしないから……」

 その台詞を言い終わるか終わらないうちに後方でドサッ!という俺が聞こえた。振り向くとそこには無数の傷を負ったヴァンがいた。

 「ヴァン!」

 俺は椿を放してヴァンに駆け寄る。そのまま辺りを見渡すと既に無数の『魔物』で取り囲まれていた。

 「す、すまん……魔力、切れだ……」

 ヴァンは肩で息をしながら何とか立ち上がろうと四苦八苦していた。

 「椿、ヴァンを頼む。」

 俺は短くそう言って刀を構える。

 「え?頼むって……もしかして聖……!」

 「いや、『覚醒者』にはなっていない。」

 期待の声を上げる椿に俺は短くそれだけを言う。

 「でもな……」

 落ち込む椿を一瞥して刀を水平に構える。

 「これ以上、仲間を傷つけられるのは嫌なんだよ!」

 まずは正面にいる『魔物』に斬りかかる。すぐに体にへばり付いてくるそれらを力任せに振りほどくと横っ飛びで一旦退く。

 「聖、危ない!」

 椿が叫んだ直後、俺の後頭部を鈍器で殴ったような痛みが襲う。『魔物』に殴られたのだ。

 「がっ……!」

 地へ伏せる俺の体を再び『魔物』が覆い尽くす。

 「聖っ!」

 「行くな、椿!」

 二人の声がひどく遠い物のように聞こえる。


 『灼熱の弾丸(マグマ・ボム)!!』


 しかし、それらは一瞬で消え失せた。ヴァンの最後の魔力で助けてくれたのだ。

 「く、くそっ……俺が…『覚醒者』…に、なってた……ら……」

 口の端から一筋の血が流れる。頭痛もひどい。俺は肩で息をしながら二、三歩歩く。

 「っ!」

 しかし、すぐに膝をついてしまう。俺は歯切りする。自分に力がないのが悔しくて涙が出そうになる。

 『ギャァァァァァァァァァァ!!』

 すると、『魔物』は俺の頭上を飛び越して満身創痍のヴァンと無防備の椿へと襲いかかった。

 「ぐっ……やめろー!」

 俺は『魔物』を追うが足がもつれて速く走れない。そこに更に追い討ちが掛かる。

 「なっ!?」

 翼を生やした銀の鎧のような『魔物』が俺の頭上で停止していた。その口元には禍々しく光る紫の球体。

 俺が何か行動を起こすより早くそれは俺に直撃し、地面に叩きつけられてバウンドした。砂煙が辺りに充満する。

 「うっ……げほっ!げほっ!」

 全身血にまみれながら右手を見る。すると、そこにある筈の刀が柄だけ残されて後は無残に砕けて辺りに散乱していた。

 「あっ、ああ……!」

 俺は仰向けの状態から右手を掲げて刀の柄を見つめる。立ち上がろうにも力が入らない。

 「椿、逃げろ!」

 遠くからヴァンの声が聞こえる。俺は体を反転させてうつ伏せになる。すると、そこには椿を庇って奮闘しているヴァンの姿があった。

 (ヴァン……)

 俺は両の拳を握り締める。

 (何で?何でだよ……俺は修行を乗り越えたんだぜ!何で力を得られないんだよ!)

 心の中で叫んで立ち上がる俺。それを見て椿は「聖、逃げて!」と叫ぶ。

 「……逃げられるかよ。もう、誰も……誰も傷付けさせない!」

 カァァァァァァァ――その叫びに呼応するように俺を光が包む。一般人にはそれがただの光にしか見えないだろう。しかし、『覚醒者』には巨大な魔力の渦に見えるのだ。

 「こ、これは……」

 俺は訳が分からず自分の体を見つめる。

 「聖、イメージするのだ!今、お前は『覚醒者』の魔力を手に入れた。後は能力(ちから)をイメージすれば『覚醒者』となれる!」

 『魔物』と組み合っているヴァンが早口で叫ぶ。

 (イメージ?)

 俺は必死に思考を巡らす。

 (俺が欲しいのは……誰も傷つかないような剣)

 そして、無造作に右手を掲げる。

 「俺が欲しいのは……皆を守れる剣だぁー!」

 声を出してそう叫ぶ。それと同時に顔を伏せてしまった。万が一の事を思ったらやりきれなかったのだ。

 ズン――辺りに重々しい音が響く。次に顔を上げるとヴァンの周囲の『魔物』が全滅していた。

 「こ、れは……?」

 俺はヴァンの足もとに刺さっている大剣を見つめた。光のように輝くそれと同じ輝きを俺の右手も放っていた。

 この時の俺はまだ気付かなかった。俺の額に『光』の印が浮かんでいる事に――

 椿が息を飲み、ヴァンが歓喜の声を上げる。

 「黄昏 聖……お前は【光】の『覚醒者』だ!」


〜続く〜

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