プロローグ
初めまして、この度「光と闇」を書かせて頂きます。
感想など貰えたら幸いです
又、アドバイスなどでも構いませんので宜しくお願いします。
だだっ広い部屋でいくつもの巨大コンピュータが同時に作動している。
その前にイスに腰掛けている男が一人。
すると、一つのコンピュータがピー!という電子音を発した。
そこに表示されたのは赤い髪をした高校生くらいの青年。名前は『黄昏 聖』――
男はそのコンピュータに目を止めると興味深そうに文字を読み始めた。
(遂に見つけた)
男は腰掛けていた椅子から立ち上がった。
時は戦国。しかし、『現実世界』ではない。
ここは言わば『もう一つの世界』つまり『異界』である。
『現実世界』とここの『異界』とは『世界の扉』という物で繋がっている。
こちらの世界では今、戦争の真っ最中だがこの戦争は『現実世界』にも危害を及ぼす恐れがあるのだ。
何故なら『闇の扉』と呼ばれる扉を通って魔物達が『現実世界』に現れようとしているからだ。
この戦争が終われば『闇の扉』も閉じ、『現実世界』も再び平和になる事だろう。
そして、この戦争を終わらせるには『現実世界』から全てを終わらせる『鍵』となる存在を連れて来なければならないのだ。
その『鍵』となる存在を男達は『切り札』と呼ぶ。
今、男がいるのは彼らの組織『カーネル』の小部隊の基地である。
男は自動扉を通って廊下へ出る。
さっきから何やら建物内が騒がしいからだ。
「ヴァンさん!敵襲です!」
ちょうどその時に一人の兵士らしき男が駆け寄ってきた。
「うむ、思ったより行動が早い連中だ。空いている者を迎撃に回せ!大丈夫だ。『覚醒術』の能力ならこちらの方が有利だ。」
(とにかく今は時間を稼がなくては……彼をこちらへ迎え入れなくては……。)
男が兵士の後姿を見送ったその時である。不意に悲鳴のような声とドサッ!という人が倒れる音が聞こえてきた。
音のする方から察するとそんなに遠くではないようだ。
男は音のする方へと走る。そこにいたのは――
「渚!?」
彼の仲間である。全身には恐らく足元に転がっている兵士を殺した時に付いたであろ う返り血がべっとりと付いていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
青年は狂ったような声を上げ、男に突進する。
(操られてるのか?出来れば仲間とは戦いたく無いが……この際、止むを得んな)
男の両腕に炎が纏う。
『十字の獄炎!!』
両腕の炎は十字を形作り通路いっぱいに広がる。
青年は向ってくるそれの間――つまり十字の左下の隙間――を通り抜けて回避する。
炎が通り過ぎ突き当たりにぶつかり、粉々に粉砕されたその奥から外の光景が見える。
それを見た時、男は唖然とした。
軍隊は壊滅状態にあり、見渡す限り死体、死体、死体である。
男は舌打ちする。
(やはり人数が少ない我々では耐えきれぬか)
しかし、そんな思考をする暇も青年は与えてはくれなかった。男の首根っこを掴んでさっきの炎で焦げた壁に叩きつけた。
「くっ!」
男の額に『炎』の文字が浮き出る。必死に力を搾り出すも青年の首を絞める力の方が強く、段々と意識が薄れて――。
『【予言】!!渚は気絶する!』
唐突にそんな声が聞こえたかと思うと青年の首を絞めていた腕がズルリと下がって床に仰向けで気絶した。
「ヴァン!今の内に行って!
粉々に吹き飛んだ壁の向こうに一人の少女の姿があった。
「ティアラ?お前、【予言】の能力を使ったのか!?」
男がその少女に駆け寄る。
少女は笑って「平気平気」と返す。
「時間が無いよ!ここは私が何とかするからヴァンは早く行って!」
しかし、男は躊躇った。もしもの事を考えるととてもじゃないがやりきれない。
「ヴァンの馬鹿ー!」
「っ!」
唐突に少女に怒鳴られる。男が躊躇っているのを悟ったのだろう。
「何戸惑ってるの!?このままじゃこの世界が危ないのよ!?この世界だけじゃない!あっちの世界だって危険に晒す事になるのよ?分かってる!?それとも何?ヴァンは私を信用してない訳?」
早口で言ったせいか言い終わると少女は激しく咳き込んだ。
男は少女の肩に手を置いて「その通りだ。」と言った。
「この地区を任された司令官ともあろう者がこんな事で悩んでいては駄目だな。うむ、私は引き続き任務を遂行する。ティアラ、頼めるな?」
「だから、最初から言ってるじゃない?準備は万全よ!」
少女は男とは反対に建物内に入っていく。
男が歩き出そうと一歩踏み出した時――。
「やぁ、何してるんだい?」
夜という闇から一人の『人物』が現れた。
「初めまして!君に名乗るのはもったいないから名乗らないよ!」
その『人物』は男を小馬鹿にしたような態度を取る。
「貴様が……渚を操っていたのか?」
男は落ち着き払った声でそう問う。
「ははは、バレてたか。その通り!僕があの青年を操っていた張本人さ!」
『人物』は細い右腕を口に当ててクククと笑う。
「貴様――!」
男は怒りを露わにし、両腕を頭上に掲げる。
『火竜!!』
炎が竜巻のように大きく長く渦を巻き、それは巨大な火の竜を形作る。
「無駄だよ?そんな事しても……」
ゾクリ!――『人物』の殺気が男の背中に悪寒を走らせる。その直後――
『……操作!!』
『人物』を狙う筈の火の竜は大きくそれて天へと消える。
「あっはは!結構飛んだねー!どの位飛んだかな?」
『人物』はわざとらしく火の竜が消えていった方角を右手をひさし代わりにして見上げる。
「貴様――!」
男は姿勢を低くして右腕を後ろに伸ばす。すると、二人の間に一つの影が割って入った。
「ヴァンはん!間に合うたな!?」
それは青年だった。しかも、両腕が【獣化】している。
「サイガ!」
男は構えを解いて青年の横に並ぶ。
「ってな訳でさっさと行き!ヴァンはんには『世界の扉』を通って『切り札』を連れてくるっちゅう重大な使命があるんやからな!」
青年の額にある『獣』と書かれた印が光る。すると、両腕に次いで両足も【獣化】する。
「いやぁ、面白い人間だね、君は!」。
『人物』は首をコキコキ鳴らして無防備に手を開いて見せる。
「ほら、僕はここにいる!殺したかったら殺せばいい!君も行きたかったら行けばいい!それは各々の自由だよ!」
「ほな、そうさせてもらうで!ヴァンはんも!早よ行きなはれ!」
男は力強く頷くと『人物』の横を通り過ぎて闇へとその姿を消した。
「さぁて……わいの能力、思いっきり味わわせたる!」
青年は【獣化】した足を使って弾丸の如く『人物』へ突進した。
◆ ◆
関所を抜けるとそこはさっきとは比べようにならないほど悲惨だった。
男はなるべく無駄な戦いを避けて行こうと試みる。
ただ一点を目指して走る。この世界にある複数の『世界の扉』の内、一番近場の扉、ただ一点を目指して――
すると、男の視界の端から矢が飛んで来た。男は一瞬反応が遅れて矢が脇腹を刺さ――
『一時停止!!』
――らなかった。
矢は男の眼前でまるで時が止まったかのように動かなくなった。
「舞姫!」
暗闇から少女が小走りでやってくる。
「えと……ヴァンさん!今の内に……『扉』に行って下さい!お願い……します!」
少女は男の袖を引いて矢が当たらない場所へ誘導する。それから少し経つと再び矢が何事もなかったかのように動き出し、誰もいない地面に刺さった。
「舞姫……サイガとティアラが基地周辺で戦っている。二人に加勢してくれないか?私はこれから『扉』を通って異界へと行ってくる――」
そこまで言って男は気付く。少女のすぐ真後ろで兵士が剣を振り下ろそうとしている事に――
「舞姫!伏せろ!!」
男は少女を自分の後ろへと庇って兵士の剣を受け止める。
「ぐっ……!」
受け止めた両手の平から血が滲み出る。しかし、男はお構いなしに兵士を殴り飛ばした。
「ヴァ、ヴァンさん……?」
少女は男の手から滴る血を見てオロオロし始めた。
「平気だ。私に構わず行け!頼んだぞ!」
男は少女に有無も言わさず走り出した。
◆ ◆
青年と『人物』との戦いは圧倒的な実力差で『人物』の方が有利だった。
青年は既に両腕両足だけでなく、顔も【獣化】していた。その髪は獣のそれと変わらない。
「おっとっと!さっきまでの威勢はどこ行っちゃったかな?」
『人物』はうーんと背伸びすると青年に歩み寄る。
「来るなや!噛み砕くで!?」
青年は本物の獣らしくグルルと喉を鳴らす。
「……まだ威勢は良いみたいだね。」
『人物』は地面に転がっている刀を手に取る。
「それじゃ……フィニッシュと行こうか?」
そして、目にも止まらぬ速さで青年を押し倒すと刀の切っ先を青年の首に当てる。
「じゃあね、猛獣君♪」
刀を振り下ろすその瞬間――
「サイガさん!」
背後から声が聞こえる。ゆっくりと『人物』が振り返るとその向こうにはさっきの少女が顔を強張らせて立っていた。
「チッ!邪魔が入ったね。」
『人物』は嘆息して刀を放り投げる。それはクルクルと回って少女の横に刺さる。
少女はビクッと体を震わせて後ずさる。
「今回は多めに見てあげるよ。君達なんかいつでも消せるんだから……」
『人物』は青年の肩をポンポンと叩くと少女の横を通って闇に溶けて行った。
「舞姫はん!ヴァンはんは?」
『人物』が消えたのを見届けてから【獣化】を解いて少女の元へ駆け寄る。
「あの……『扉』へ向かいました……」
「さよか!ならわいらも見送りに……!」
その時だ。建物で大きな衝撃と共に爆発があった。
「まさか……中に誰かいるんか!?」
「あ、そういえば……ティアラさんが……」
少女がオロオロしてるのとは対照的に青年は走り出した。
◆ ◆
建物の中で奮闘していたティアラは爆発に巻き込まれて右足を損傷していた。
「くっ……もう、駄目……!」
ティアラが鉄パイプを支えに立つのがやっとになっていると前後から兵士が刀を携えてゾロゾロと歩み寄る。
「来るな〜!」
ティアラが鉄パイプを振り回すが、反動で尻もちをつく。
「はっ!所詮はガキか!一気に仕留めるぞ!」
兵士の一人がそう合図すると一斉に少女目掛けて刀を振り下ろす兵士達。
「そうはさせるか!」
すると、少女の前に緑色の竜巻が現れ、その中から出てきた腕が兵士を殴り飛ばす。
竜巻が止んでそこにいたのは――
「渚!?」
さっき『人物』に操られていた青年である。
少女によって安全な部屋に寝かせていたのだがやっと眠りから目覚めたのである。
「ティアラ!俺の後ろにいろ!」
青年はパンチとキックを使い分けて兵士達を圧倒していく。
一通りなぎ倒した後、青年はふぅと息をついて壁に寄り掛かる。
「やっぱ病み上がりはキツイな……。まともに動けやしねぇ!」
確かに青年の息は短距離走を全力疾走した後のように乱れている。
そこで青年は「ん?」と首を傾げて少女の右足を見る。
「ティアラ!怪我、してんのか?」
「ん……でも、大丈夫!大した事ないよ!」
少女は鉄パイプで先を行こうとするが、足もとがフラついて青年に支えられる。
「無理するな、ティアラ!」
青年が鉄パイプを蹴り払って歩幅を合わせて歩き始める。
「ティアラはん!渚はん!」
一つ目の角を曲がった所で【獣化】出来る青年と合流した。(勿論、今は【獣化】していない。)
「よぉ、サイガ!無事だったか?ヴァンは?」
青年が【獣化】の青年に問いかけると【獣化】の青年は頷いて微笑んだ。
「『扉』に向かってるそうや!ところでさっき爆発があったみたいやけど大丈夫やったんか?」
「爆発?そうか。ティアラ、お前のその傷はその爆発の時の物か!」
青年が確信を持った目でティアラを見る。
「ううん。もう本当に大丈夫だから!さ、皆でヴァンを見送りに行ってあげよ!」
少女は元気一杯な風に振る舞って駆け出すが、途中である事に気付いて戻ってきた。
「あ、そうだ。渚、ちょっとかがんで!」
「ん?」
青年が膝を折ってかがむと少女はその頬に唇を近付ける。そして――
「ありがとう」
そっとキスをした。
「うおっ!?ティアラ?」
青年は反射的に身を引く。顔は見る見るうちに赤くなっていく。
「ほら、早く見送りに行こうよ。」
「あ〜、俺はいいや!」
少女の誘いに青年は頭を書いて遠慮がちに答える。顔はまだ赤い。
「え〜、何で?」
少女の問いに青年は背を向ける。
「操られていた時、少なからず意識はあったんだ。それでヴァンを襲っちまったってのは分かってる。俺はあいつに会わす顔がねぇからよ!俺抜きで行ってやってくれよ!」
「ティアラはん。本人が本人がそう言ってるなら無理に引き止める必要もあらへん!わいらだけで行くで!早よ行かな、ヴァンはんが行ってまう!」
【獣化】の青年に少女が頷くと再び勢い良く駆け出していく。が、角から出てきた人物に思いっきり衝突した。
「ひゃっ!」
「キャッ!」
そして、同時に尻もちをつく。
「舞姫はん?随分遅い到着でんな?」
そう、少女とぶつかったのは男を助けたあの少女だ。
「あ、えっと……その……助けに、来た…んです……けど……」
男を助けた少女がおずおずと答える。
「えと……大丈夫、だったんですか?」
「あぁ、心配あらへん!これからヴァンはんを見送りに行くんや!舞姫はんも来なはれ!」
今度は【獣化】の青年が二人の少女を従えてその場を後にした。
一人残された青年はようやく赤面がおさまり静かに天井を仰いだ。
◆ ◆
さっきまでの騒々しさとは違い、ここは静かな洞窟だ。
その一番奥には白い(どっちかと言ったら銀に近い)扉が行く手を阻むように閉まっている。
これが『世界の扉』である。
そこで男は懐から頭に三日月のような形をした物が付いている金の鍵を取り出した。
これが『世界の扉』を開ける為の鍵なのである。
これで……異界に――そう思った直後だ。
静まっていた洞窟内に大きな振動が生じた。無論、地震などではないのは男も十分分かっていた。
自分が来た道を無表情で睨み続ける。そこに現れたのは二人の兵士だった。
そして、その二人の兵士が道を開けるように左右に分かれるとそこから二人の兵士よりかなり背の高い兵士が現れた。
「貴様は……!」
男は反射的に構える。
「『覚醒者』よ、私の部下が随分世話になったようだな。そのお礼は……たっぷりさせてもらうぞ!」
一際背の高い兵士は腰から長剣を抜く。
男も右手を掲げる。素早く決着を付けたい所だ。
『レイプリル!!』
突如、出現した炎の塊は徐々に長槍へとその姿を変えていく。
「おぉぉぉぉ!!」
三日月の鍵を懐にしまって男は突進した。
槍が物凄い速さで背の高い兵士を襲う。
しかし、それを上回る速さで体を翻した兵士は反撃とばかりに長剣を振るう。
「チッ!」
長剣をレイプリルで受け止める男だが、あまりの衝撃に膝を折った。
「終わりだ。死ね!」
兵士が間髪入れずに長剣を振り下ろす。が――
『一閃!!』
鋭い爪が兵士の背中に深い傷を負わした。その爪の持ち主は……
「サイガ!」
【獣化】の青年がヒラリと男の前に降り立つ。その【獣化】した両腕を構える。
ゆっくりと崩れていく兵士を見ていた部下らしき兵士二人が悲鳴を上げて逃げ出して行った。
それと入れ違いに少女二人が走ってきた。
「サイガ!ティアラ!舞姫!どうしてここに?」
「見送りや!それ以外に何があんねん!わいらはヴァンはんの部隊なんやからヴァンはんを見送る義務がある。そうやろ?」
【獣化】の青年が笑う。それに続いて【予言】の能力を持つ少女がピースしてほほ笑む。男を助けた少女は無理に笑うが、笑顔が強張っている。
「……皆、恩に着る。」
男は再び懐から三日月の鍵を取り出して扉にある小さな鍵穴に差し込む。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!――扉が重々しい音を立てて手前に開く。
「それでは皆!必ずや『切り札』を手にして戻ってこよう!」
男がそう言って扉に足を踏み入れようとしたその時――
「あ……」
男を助けた少女が小さな声を上げる。
「どうしたの?舞姫?」
【予言】の少女が問う。
「いえ……異界に行くことはその鍵で出来ますけど……その、異界からはどうやって戻ってくるんですか?」
「それなら問題ない。我々の調べでは『切り札』も鍵を持っているらしいからな。」
男はそう言って扉へ行こうとするが、ふと足を止める。
「そういえば渚は無事か?」
「あぁ、無事や!『ヴァンを襲っちまったってのは分かってる。俺はあいつに会わす顔がねぇからよ!俺抜きで行ってやってくれよ!』って言うのが渚はんの伝言や!」
【獣化】の青年があの青年の声色を真似するが、いかんせん彼独特のなまりが残っており、あまり似ていない。
「そうか。良かった!」
男はホッと胸を撫で下ろす。そして、今度こそ扉へ歩み寄る。
「皆!私が……必ずや『切り札』を連れて帰って来ようぞ!」
その言葉を最後に男は扉の向こうへと消えた。
今、全てが始まる――!
〜続く〜