No.37 卜部羅鬼の刀
出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第三十七弾!
今回のお題は「神話」「賄賂」「見舞う」
5/4 お題出される
5/8 だいたいの方向性が決まる
5/9 いざ書き始めると知識不足に四苦八苦する
5/11 そしてやはり締切ブッチ……ちくせう
お勉強不足が見え見えですわ(苦笑)
それは妖刀と言われた刀を打った鬼だった。
名は卜部羅鬼。彼は数多くの凡庸な刀を打っていたが、今より300年前、まだ世界が幽世と現世が混ざる前、彼はとある神より依頼を受けて刀を打った。
それが、彼が作った第一の刀、銘を氷空啼き(そらなき)。刃渡りは現存するもので壱尺九寸参分。分類するならば長脇差。微かに青みのある箱乱れの乱れ刃。小糠肌と呼ばれるガラスのような反射を帯びた刀である。もちろん、打たれた当初、幽世で作られた当初は神の体の大きさに合わせた大きさと推測されており、大きさが現在とは違ったのではと論じられている。
氷空啼き(そらなき)は、金具の神である舞金日産火乃神が、彼が恋した女神に送るために卜部羅鬼に作らせたものだった。
卜部羅鬼は、それは醜い大鬼で、話しかける者も居らず、常に一人で淡々と祭儀用の刀を造っていたと言われている。そんな彼に話しかけ、人付き合いが苦手故に嫌がる卜部羅鬼の元を足しげく通い、一種の友人と化していたのがマイカナヒムスヒであった。そして1000の月が落ちて1001の日が上がった朝、卜部羅鬼はその依頼を受けることにした。そうして、氷空啼き(そらなき)は作られた。
最初こそ銘は無かったが、その贈り物を送った相手、銀細工の麗しき女神、碓氷銀華玉非女乃美神が「マイカナヒムスヒの外見が気にくわぬ」と突っぱね、そのことを嘆いたマイカナヒムスヒが氷空啼き(そらなき)で自害したことに由来する。神を斬れる数少ない刀として……
卜部羅鬼はこの事を嘆いた。そして、神々より責任を追及され、卜部羅鬼は責任を取らされ、今後一切、刀を打たないことを誓わされた。卜部羅鬼自身もこの事件を嘆いており、すんなりと処罰を受け入れたと言われている。
だが、今より200年前、幽世に動乱が起きる。
禍津血濁大悪被乃神が、鬼という鬼を率いて他の神々が堕落しきった幽世へ侵攻した。マガツチゴリオオアクヒは、10の山と11の谷を越えた先で隠居していた卜部羅鬼を見つけ出し、彼に刀を打たせた。力強さと穢れを司る神であるマガツチゴリオオアクヒは半ば脅す形で卜部羅鬼を働かせた。
100年近く休んでいたにもかかわらず、卜部羅鬼の技術は更に鋭利に熟され、そうして打たれた刀が、黒折星穿ち(くろおりほしうがち)である。刃渡りは現存するもので八尺八分弐厘の大太刀である。刃は皆焼き、ほぼ直刀であり、その長さと連戦の為の道具として作られた物であるためか、鞘が無い。また壱尺あまり先が折れているのではないか、と言われている。(なお、折れているであろう先を除いて八尺以上の長さをもっている)
卜部羅鬼は黒折星穿ち(くろおりほしうがち)を打ちながら悩んでいた。かつての友の親兄弟を殺す為に立ち上がった者に刀を与えることは果たして良いことなのだろうか? まして、マガツチゴリオオアクヒは自分を、神々に虐げられた者として担ぎ上げるために来たのは明らかだ。だが、悩もうと嘆こうと、マガツチゴリオオアクヒには力で勝つことはできない。卜部羅鬼は悩みながらも黒折星穿ち(くろおりほしうがち)を仕上げ奉じた。
マガツチゴリオオアクヒは黒折星穿ち(くろおりほしうがち)を使い、星の運行を固定する穴を空に空け、そこを中心に幽世は現世と繋がったとされている。
結果、この戦いはマガツチゴリオオアクヒの敗北に終わり、彼は幽世でも深い深い地の底へ繋がれたと言われている。そして今も、彼は地の底から憎しみを放出している。触れた物の正気を削ぎ落す瘴気として……。
卜部羅鬼は神々に助けられる形となったが、同時に誓いを破った罰として、神々の監視下に置かれることになった。
また、この時マガツチゴリオオアクヒの持っていた黒折星穿ち(くろおりほしうがち)は先が折られ、同時に神々の宝物庫に保管されることになったと言われている。
そして、100年前、盤石に見ていた神々の幽世に、彼らの最大の敵が現れた。人間である。それは、マガツチゴリオオアクヒが空けた穴……我々が言う北斗七星を通って表れた、と神々の記録には残っている。
彼らは神々が行使する“奇跡の御業”と似たような物を、鉄と炭とで作り、科学という物を行使して攻めてきた。それは、金具の神である舞金日産火乃神の流した血と魂より得た知識であり、その神々にも匹敵する力を持っていた。だが、一度に人間が幽世に来れる数は少なく、故に神々はなんとか優勢を保っていた。
しかし、ここで人間は卜部羅鬼の存在を知る。そして彼が作る刀を欲し、彼の監視にあたっていた神、金剛実結朔夜乃神に対して麗しの人間の乙女、多々良を“賄賂”として献上。卜部羅鬼に難なく接触を果たした。
そして、卜部羅鬼を監禁。酷使したうえで刀を打たせた。
こうして人間の将、多々良の父である、御式部が作らせたのが、卜部羅鬼の有名作である、遊戯版返し(ゆうぎばんがえし)である。残念ながら現存しておらず、如何な物かは分からない。おそらくは実用性を重視したものではなく、祭儀用の打ち刀であったのではないか、とされている。
さて、この遊戯版返し(ゆうぎばんがえし)、人の手により空間を切り裂き、幽世と現世の境界線を斬り混ぜ、世界を一つにしたと言われている。そこにどんな技術がなされているのか、なぜそんな力を持ったのか……おそらく、卜部羅鬼の造る刀は、卜部羅鬼自身が時を経れば経るほど、彼が刀鍛冶の神として神格化していっていることの表れではないかと思われる。
切り裂かれ混沌とし混在した世界は、争いを一時的に収束させ、緊張を保ちながらもその後の、お互いの領分を不可侵にすることで共存するという形に落ち着いた。この時、遊戯版返し(ゆうぎばんがえし)はその神にも匹敵する力を振るったことで神格化し、その姿を見隠した、と言われている。……だが、遊戯版返し(ゆうぎばんがえし)の欠片が後に見つかっていることから、世界を混濁させた際に砕け散ったのではないかと思われる。
それから100年、つまり、現在。
神と鬼とが生きる幽世と人間が暮らしていた現世は混ざり、草木や動物は唄い、雲は意志を持ち、星は瞬きながら世界を綴る。人間が知っていた世界は崩壊し、正気を失った鬼が、マガツチゴリオオアクヒの残した瘴気に触れた鬼が人を襲い、コンゴウミユイサクヤと多々良の末裔、金剛家だけがそれに対抗しうる力を持つ存在として、人の世の政を仕切っていた。神々は見隠ししたと言われ、その眷属と言われる知性ある動植物が世に散乱するばかりとなった。
コンゴウミユイサクヤ、その神の血筋に連なる者による安全と秩序、静寂たる平穏は人々を静かにさせ、金剛家の庇護の元、人の世は安定していると思われていた。
だがそれに異を唱えたのもまた、人間であった。
どこから手に入れたのか、黒折星穿ち(くろおりほしうがち)を持った武士、鉄野 与一を筆頭に、金剛家に不満を抱く有象無象をかき集め、鉄野一派は一種の革命勢力と化していた。その混沌がもたらすのは危険ながら真実の自由、無秩序と無法の元に力あるならば極楽を強奪できるという事実。金剛家が居なくても人間は生きていけると言う真実。
鉄野一派の襲撃は、時に関係のない一般市民を巻き込み、またその報復を行う金剛家もまた、無関係の人間を巻き込み、人々の安寧は消えうせてしまった。
多くの人がその流れに流されるだけになっていた。金剛家が引き抜いた反逆の牙は、人々には残っておらず、ただ一種の災害のごとく捉えていた。
そんな折、ある鉄野一派の少女と出会った少年が、卜部羅鬼の最新作を手に入れる。
少年は紅花農家の出であり、花を愛で、草木に好かれ、ひっそりと家族と暮らす一般的な少年であった。ただ人と違うとすれば、彼がその身に遊戯版返し(ゆうぎばんがえし)の欠片を宿していたことだろう。それは肉体的ではなく、運命的に、魂の髄に、精神の無意識に刺さっていた。それだけではなく、彼の両親の一方は鬼であり、またその魂は舞金日産火乃神の生まれ変わりであったと思われる。
つまり、肉体的には鬼の血を引き、魂は神の生まれ変わりであり、運命には超越した刃を宿した……まさに“物語の主人公”であった。彼の名は紅桜。
鉄野一派に居た少女、名を菊伊代という。彼女は金剛家の末席に居ながら、親兄弟親戚の行動、豪勢な豪遊、血を見ても止まぬ害意、そして泣く事すら止めてしまった民草を見て家を飛び出した、かりにも世を統べる一族の姫であった。
彼女は家の宝物庫より、黒折星穿ち(くろおりほしうがち)の折れた先を打ち直した短刀、皇乃一声を持ち、一度は偶然に、二度目は必然に、三度目は進んで、紅桜と出会う。
そして、彼女からその刀鍛冶、卜部羅鬼の存在を聞き、彼は魂の導くままにその刀鍛冶の元を、彼を100年拘束し続けてきた金剛家の離れを訪れた。
卜部羅鬼は訪問者である紅桜を最初は相手にしなかった。だが、紅桜は諦めなかった。かいがいしく様子を見舞っては他愛ない話をしようとし、その姿が卜部羅鬼は過去の友と重なり余計に悲しく……尚更、卜部羅鬼は紅桜を遠ざけた。
けれど、卜部羅鬼は、紅桜が菊伊代に諦めるように諭される会話を聞く。その時、彼がなぜ刀を欲するのかを菊伊代に話すのを聞き、卜部羅鬼は刀を今一度作ることを決める。神々への誓いもやぶり、恐怖に怯えて打つでもなく、無理やり打つこと強いられるでもなく……いつかのごとく、友のために……。
卜部羅鬼は、それは醜い大鬼で、忌まわしき過去も相まって話しかける者も居らず、常に一人で淡々と日々の経過を眺めていた。そんな彼に話しかけ、人付き合いが苦故に嫌がる卜部羅鬼の元を足しげく通い、新たな、されど懐かしき友人として紅桜は卜部羅鬼に迎え入れられた。そして1000の月が落ちて1001の日が上がった朝、卜部羅鬼は彼の為に刀を打つことにした。そうして、卜部羅鬼の最後の作にして最高の作、今昔舞陽・戦食み(いくさはみ)は作られた。
戦食みは革巻き太刀であり、弐尺六寸六分六厘。沸深き綾杉肌に透った砂流しの直刃。切っ先はかます、桜の花の咲き誇る彫刻が刻まれた見事な業物である。
だが、戦食みを造ったことが金剛家の人間に発覚し、卜部羅鬼はその命を絶たれてしまう。この怒りが紅桜の神たる魂を呼び起こし、他の追随を許さぬ武人へと押し上げたのは誰もの予想を超えていたといえる。目覚めた神の呼び声は、かつての自害刀である氷空啼きを呼び寄せ、ここに最強の戦の平定者が誕生した。
しかし、紅桜の神としての力など、この混濁した世界に見隠した神々とその秩序を斬った人間の力に比べればまだまだ青く幼い。人の世の戦の平定者として最強であろうと、その目覚めは、見隠しした神々を目覚めさせ、金剛家の人間を斬ったことで金剛家もまた、神殺しのその力を惜しげもなく紅桜に向け始めた。
時に鉄野一派の力を借り、やり方の違いから道を違え、目覚めた神々に苦戦し、金剛家に時に協力させられ、傍らに菊伊代を伴って、また別の仲間を引き連れて……
そうして、紅桜の物語は進んでいく。もっとも、それを語るのはまた別の話、ということで……
これまたいつか持ち込もうと考えてたゲームの設定です
よくあるRPG物をイメージして、古き良き「究極幻想」とかを和風にしたらコンな感じかなぁ~と考えてました
ちなみに出て来ませんでしたが、“遊戯版返し”の欠片がクリスタル化した物やそれを真似て瘴気で作った人工クリスタルとか
金剛家が本気になったらスチームパンクな感じの兵器を取り出して来たり、神々は山ほど大きい者も居たり、ビジュアルと世界観押しなのは最近の「究極幻想」っぽいですかね?w
それにしても刀に関してほとんど知らないことが露呈してしまいました……
でもこれを機にちょっと勉強したいなと思いました
なにこれ好奇心刺激される
でも追いつめられてる最中にやるべきじゃないですなw
ここまでお読みいただき、ありがとうございました