第5歌
母さんと未亜は空の存在を認識し、俺のことを一瞬だけ睨みつけるが、
すぐに余所行きの表情に二人揃ってなっていた。
「あらあら。かわいらしいお嬢さんね。武瑠。
えーと、名前はなんていうのかしら?」
母さんはこれでもかというほどに満面の笑みで空に尋ねかけた。
「え、え~と、木内空って言います。
いきなり押しかけてしまってすいません。
あ、あとトイレの方も勝手に使わせていただいてしまって
・・・でもちょっと、濡れてしまって」
空はいきなりそんなことを尋ねられたためか、少し緊張気味に名前を名乗ると、
礼儀正しく頭を下げていた。さらにはトイレで少し漏らしてしまったことを
悪く思ったのか、お漏らしを軽くしてしまったことを正直に告白していた。
そのことについて、俺はあまり何も思っていなかったものの、
なぜか母さんと未亜は変な方向の勘違いをしているようで、
空が濡れたという言葉を発した直後からなぜか視線が定まっていない。
そしてこの勘違いが相まってなのか、母親はすっとんきょんな質問をしてきた。
「あ、あなたたち、そ、そういう関係なの!?ってよく見たら、
その服武瑠あんたの昔の服じゃ・・・。
そ、そうよね!!武瑠ももう大人なんだもんね///」
母さんは何やら一人で理解し、一人で納得したのだろう。
唖然として母さんの質問の意味をどうにか解釈しようとする俺を他所に、
母さんは買ってきたであろう食材や生活品を玄関に置き、
未亜の手を取ると、不思議なことにまたもや外へ出ていった。
去り際、「きっちりつけるのよ~」という意味の分からない言葉を残して。
俺と空は顔を見合わせた。
いったい、母さんはどこへ行ったのだろうか。
未亜を連れて。それもあんなにも慌てて・・・
というか、何か大きな勘違いをしていたような気もしなくはなかった。
まあ、でも考えてもしょうがなかったので、
二人が置いていった食材と生活品を所定の場所に入れることにした。
というかどうせなら、入れてから出かけてほしかったという想いに駆られた。
そして俺が二人の置いていった袋を持ち上げると、
空は僕も手伝うよとでも言いたげに、俺が持てなかった袋を持ち上げてくれた。
俺はその行動を断って、自分の部屋でのんびりしてもらおうかとも思ったが、
空のかわいらしくこちらの次の行動を伺っているさまを見ると、
断る気にもなれず、手伝ってもらうことにした。
20分後、俺と空は部屋でのんびりとジュースを飲んでいた。
予想以上に2人の買い物の量は多かったため、
俺たちはそれらを治すのに手間取っていた。
まあ、半分程度が空にどこに置くのかを教えるという時間に取られたのだが、
そんなことは別に疲れる要素ではなかった。
俺が一番疲れたことは、2人が買ってきたものが
あまり男が触れるのをためらうようなものばかりだったことだ。
特になんで今日このタイミングで買ってきたんだという疑問しか
起きなかった母親と妹の下着に加えて、
女性のみが触ることを許されているというか、
もしも買って来てと頼まれても絶対に断るであろう
絶対不可侵の物「生理用品」を直すことに精神をすり減らされた。
こういうのは同じ女性の空に直してほしかったのだが、
空にお願いするや否や「い、いやだよ///そ、それだけは手伝えないよ~///」
と嘆願されてしまった。
そこまで言われたら、仕方がない。
女性の空にとってはいつも使っているものだろうけど、
やはり自分や家族以外のものを見るのは照れてしまうのだろう。
まあ、それに空の体ってそんなにも膨らみがなかったから、
そういう劣等感もあるのかもしれない。
俺は渋々、二人の下着を袋から取り出すと、
綺麗に畳んでからそれぞれのタンスの中へと入れ、
生理用品もまたトイレのかごの中に入れておくのだった。
そして、そうこうしている間にも空は頼んでいた場所へ直し終えたらしく、
俺が軽く格闘を終えると、俺の側に近づいてきた。
そして俺と空は適当にお菓子と飲み物を部屋へと持って上がり、今に至る。