第3話
家への道を空と二人で進みながら、俺は空の顔を何度も何度も、
気づかれないように見ていた。
それほどに可愛らしく、そしてそれに対応するかの如く、
男子制服を着ていることに違和感を感じるのだった。
(どうしてこの娘は女子の制服を着ないんだろう。
というかもし着ていたら完全に優そのものか・・・。本当にかわいい)
そんな邪なことを考えながら、歩いていると突然、
空の表情に焦りなようなものが見えた。
最初は見間違えかなとも思ったものの、
見るたび見るたびに切羽詰まった表情に変わっていき、
まだ暑くない時期なのにおでこ周辺から汗がどんどん滴り落ちている。
さらには歩幅もなぜか、狭まっていて、さっきから全然進んでいない。
「どうした?体調でも悪いのか??」
さすがに心配になった俺は空の顔を見ながら問いかけた。
すると空は少しの間ためらいのようなものを見せたものの、
観念して口を少しずつ開いた
「ト、トイレに行きたいの。
学校を出る前に行くはずだったのに忘れてて・・・。
も、漏れちゃいそう」
今にも泣きそうな表情で言葉にされた内容はまさかのトイレだったが、
このままでは本当に漏らしそうな空を見て、ある行動をすることにした。
そして俺は勢い良く、しゃがみ込むと背中を軽くたたきながら言った。
「乗れ!!俺の家までもうすぐだからお前を背負って走るから。急げ!!」」
その申し出に空は驚き、大丈夫と言いかけようとするのだったが、
やはりもう我慢も限界だったようで、
少し恥ずかしそうにしながらもおとなしく乗ってくれた。
「頑張ってしがみついといてくれよ。飛ばすから」
言葉の通り、俺は今までの記録を破るかのような速度で走った。
この時ほど漠然と陸上をして鍛えていた足によさを感じたことはなかった。
そのおかげか、家に着いたのはそこから5分後のことだった。
そしていつもなら靴を脱いでから玄関を上がるところだったが、
それでは間に合わないと判断し、土足のまま家に入り、
トイレの扉を開けて空を背中から降ろした。
よほど、切羽詰まっていたのかそのまま空はトイレに入ると、
ドアをバタンと勢いよく閉めた。
トイレに入らせた後、俺は真っ先に洗面所へと行った。
玄関に着いた靴の汚れを取るためのタオルを取りに
俺が玄関についた汚れを拭いていると、
トイレの中から水を流す声が聞こえてきた。
そして数秒もかからないうちに空はトイレから出てきたのだったが、
なぜか顔がどんよりしていた。
「あ、あのすごく恥ずかしいんだけどちょっとだけ漏れちゃってて、
ど、どうしよう。今日は体育がなかったから体操着とか持ってないのに、
やばい。うっうっ」
今にも泣きそうな表情と声でそんなことを言ってきた空に、
不謹慎なことに可愛さを覚えてしまった。
しかし、このまま放っておくのはかわいそうだなと思い、一つ提案をした。
「それなら俺の昔の服でも貸そうか?サイズ的に大丈夫だと思うし」