竜の医者
「お母様、アズールがまた熱を出したわ」
昔は、いつもそう言ってセノーテが母を呼びに行った。
「どうして、ぼくだけ……いつも、ゴホッ、ゴホッ」
泣いていたアズールに
「あなたは、お父様の力を濃く受け継いでいます。誇りに思いなさい」
母はいつも言っていた。
(懐かしい……なんで、こんな夢)
バイオリンの音。
(これは、白の曲だな)
そういえば、母もよく弾いてくれた。
医務室のベッドの上で横になっていたアズールは、上半身を起こす。
そして、音のする方へ向う。
「お、起きたか」
中庭でバイオリンを弾くククルを見て
「貴様……」
アズールは顔を顰める。
「オレの知り合い……いや、恩人」
うまい言葉が見つからないから、知り合いでいいや、とククルは言うと
「お前と同じ症状で、よく弾いてやった」
「僕の為に弾いてくれたのか?」
アズールに聞かれ
「お前、元気なさそうだからな」
だから、発作が起きた時は白を弾いてやる、とククルが答える。
「ありえないな。そんなことをして、何の得がある」
ククルはバイオリンを弾くのを止め
「得なんて、必要ないだぜ。オレたち竜奏医師は、竜の為の医者だ。竜の為に音楽を奏でられれば、本望なんだからさ」
あっさりとした返答。
アズールは目を丸くすると
「ぷ、ははは……」
口元をおさえながら笑い出した。