竜王子
「ニャー」
可愛らしい子猫と
「あっちけ、この畜生め!」
それに怯える、白いバイオリンケースを持った少年。
その様子を見て
(またか……)
セノーテの双子の弟アズールは、仏頂面でため息。
思えば、編入して来た時からククルは変な奴だった。
竜奏医師学科と竜騎士学科の座学授業は合同。
その間、ほとんど寝ている。教師が試しに問題を解かせたことがあった。
授業を聞いていなかったはずなのだが、教科書通りの回答を黒板に書いた。
(……頭は、いいんだろうが)
それが気に入らない貴族の男子生徒たちが、何度かククルに絡んだようだが。
「これって、新人イジメってやつ? どんなことするんだ」
目を輝かせ、ククルは聞いた。
さすがに、「こいつ、イカれてる」と貴族の男子生徒たちは距離を置いているようだが。
(兄貴が紹介して来たから、どんな奴かと思えば……)
子猫に怯える、ヘタレ。
こっちに向かって来たアズールに、気付いた子猫は怯えるように逃げて行った。
「……」
小動物に嫌われるのは、いつものことだ。
気にせず通り過ぎようとすると
「お前、あの畜生を一発で撃退するとはスゲェ奴だな」
ククルが感心する。
そして、セノーテと同じ顔のアズールを見て
「セノーテ、実は男だったのか……今日は、天気もいいから背もオレより伸びたのか?」
「貴様は、バカなのか頭がいいのかよくわからん奴だな。セノーテは、僕の双子の姉だ」
「と、言うことは双子で……えーと」
「……アズールだ」
どうやら、ククルは相手が王族でも関係ないらしい。
他の貴族連中は、遠慮して声をかけたがらないのだが。
(一人の方が気楽だがな……)
アズールは、ため息をつく。
「よし、アズール。お前を今日から、オレの相棒にしてやろう」
腰に手を当てて言うククルに
「ふざけ……ゴホッ、ゴホッ」
言い返そうとしたが、アズールは膝をついて咳き込む。
「具合悪いのか」
触れようとしたククルの手を払い
「触るな」
問題ない、と言ってアズールは立ち上がる。
「お前……ひょっとして、混ざってる?」
見透かすようなククルの言葉に
「……」
アズールは、何も言わずに去って行った。