ククルとマティア
アウィス・ラーラの巣を構築しているのは藁と雑草ーーそして、ガラスの破片。
ズボンの裾が切れるのを見て
「これは、慎重におりなければ……」
攫われた人間は無事だろうか。
マティアは、慎重に降下していく。
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「痛っ……また切れた」
巣を登るたびに、ククルの手足にガラスの破片が刺さる。
脱出するなら、アウィス・ラーラが巣を離れている今しかチャンスはない。
(あいつ、次こそは必死に食べにきそう)
「大丈夫か!?」
聞き覚えのある力強い女性の声。
「手を伸ばせるか?」
「あの、バイオリン背負ってるから重いかも」
(この声……まさかな)
ここに、彼がいるはずはない。
マティアは、聞き覚えがあると思いながらも
「絶対に支える」
ぬるりと、伸ばされた手が鮮血で滑りそうになった。
「ぐっ……」
さすがに少し重かった。
「怪我をしているのか。引き上げたらすぐに手当を……」
「オレって、マティアさんに助けられてばっかりだな」
これって運命かも、と調子のいい言葉。
陽光で照らされた人物の顔を見て
「き、君は……なんでこんなところに?」
マティアは、目を丸くする。
そして、今まで溜まっていたモヤモヤを
「私について来るなと言ったり、だいたい君が勝手に……セノーテ殿下とアズール殿下が、心配してそれからそれから」
一気に吐き出した。
「言いたいことがあるのはごもっとも……」
ククルは青ざめた顔で
「とりあえず、ここを出てから聞くよ」
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ククルを救出後、ネヘミヤたちに事情を説明してマティアの父が経営している病院に運んだ。
病室から出てきた看護師の母リディアがため息をついたのを見て
「お母様、ククルの状態はよくないのですか」
マティアが不安気に聞いた。
「いいえ、ー外傷の手当ては終わりました」
後、必要なのは肉体的な休息。
しかし、強い薬湯を飲ませても眠ろうとしない。
「それは、ククルの体が特殊で」
薬が効きにくいのだろうか、とマティア。
「旦那様の話では、それもあるけど何かを怖がっているみたいですね」
このままでは療養できず体に悪い。
「怖がって……まさか」
コアトリクエ校長の事件が、マティアの脳裏を過った。
「お母様、ククルと話を「駄目だ」
マティアの声を厳格な声が遮った。