帰郷
「移動用の飛竜を使うのも久しぶりだな」
眼下に広がる農村地帯を眺めながら、マティアは呟いた。
飛竜は言葉を発することは出来ないが、穏やかで頭が良いので移動用として重宝している。
「猟竜の方は、気性が荒い……」
コアトリクエ校長を刺した容疑で、猟竜に追われているククル。
(ラピス様と共に、アズール殿下とセノーテ殿下も別に動いているとは聞いているが)
一体どこに向ったのか、とマティアは溜息をついた。
「グロロロ」
飛竜の鳴き声に
「ああ、そろそろだ。降下してくれ」
竜都の北部に位置する山岳都市ヘルモン。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
竜舎の前に居た老人が頭を下げる。
「爺、久しぶりだな。少し老けたか?」
マティアは飛竜を預けた。
「あれから、五年ですから。さあ、奥様と旦那様にお顔を見せてあげてください」
「そうだな」
家族だというのに会うのが緊張する、とマティアは深呼吸した。
「アウィス・ラーラか?」
「ええ、何人か目撃しているようです。不思議なことに、被害が出てないようですが」
父の部下が、慌ただしく動いている。
「騒がしいな。何かあったのか?」
マティアの姿を見て
「お戻りでしたか」
二人の男は頭を下げた。
神獣アウィス・ラーラは、子供を攫って雛の餌にする。
父の事情を聞いたマティアは
「東側の参道か……よし、私も行こう」
「いえ、ここは我々に」
無精髭の男は新人の肩を叩くと
「あきらめろ、お嬢様は一度言ったら聞かない」
深い溜息をついた。