カロル草の花粉
「ひどい目にあった」
ゴミ箱の中から、近くの壁へと跳躍。
脱出した黒猫アズールは、病院前のベンチで休んでるククルを見つけた。
「あ、クソ猫……じゃなくて、アズール」
ゴミ箱に捨てられるのは貴重な経験したな、とククル。
「貴様、さっきはよくも」
言いたいことは山ほどあるが、アズールは適度に距離をとる。
「なんであんなこと言ったんだ。ウェルテクスが奪われて傷ついてるのは……」
「だからこそ、だよ」
ククルは背伸びをすると
「ウェルテクスの件もあるけど、二重楽器に選ばれなかったことも気にしてる。きっと、マティアさんは頑張りすぎて自滅するタイプ」
オレが言わなくてもアズールのお兄さんが止めた、と続ける。
「そこまで考えてるなら、直接言ってやればいいだろ」
俺はてっきり嫌味かと思った、とアズール。
「アズールは、鈍いな。こればっかりは、自分で気づかないと意味がない」
そう言って、ため息をついたククル。
「貴様、具合でも悪いのか?」
アズールが聞くと
「別に、ボーッとするだけ」
疲れたのかも、ククル。
「母さん、見て赤い草がある」
「これはカロル草よ。春が近いって合図よ。でも、触っちゃダメよ」
「はーい」
親子の会話を耳に
「カロル草の花粉に、負けたんじゃないか?」
アズールが言った。
竜都に春を告げる鮮やかな色の草だが、花粉に負けると風邪のような症状を引き起こす。
「なんだか、クラクラする……」
ククルは、意識を手放した。