騎士の苛立ち
カロル草の花粉による風邪が増えていま。
(カロル草? 聞いたことないな)
院内のあちこちに「手洗いうがいを心がけましょう」と注意書き。
「えーと、四階の個室」
先に情報を聞いたアズールの方は、ククルより先に向かった。
エレベーターを降り、マティアがいる病室に向かう。
「どうか、安静に」
「何もしないと、体が鈍る」
素振りをしようとしていたマティアを見て、看護婦が慌てて止める。
その様子を呆然と見ていたククルに気付き
「……来てくれたのか」
マティアがベッドに腰掛ける。
「思ってたより、元気そうで良かった」
看護婦さんの言うことは聞いた方がいいよ、とククル。
「風竜が持って行かれたんだ。焦る気持ちは、分かる」
黒猫が跳躍して、窓際へと移動。
「い、今、猫が……」
眉を寄せたマティアに
「これには事情が、あって」
ククルから状況を話す。
「まさか、アズール殿下とは……」
気づかずに申し訳ありません、と頭を下げるマティア。
「二重楽器が揃った以上、テスカポリトカ側はアルメニアまで来ることを要求してくると思う」
ククル言葉に
「……そうか」
マティアは、うつむいた。
「ククル、私も同行ーー「ステラと黒の楽譜のことはオレたちに任せて。マティアさんは、ここで怪我の治療に専念するように」
また来るよ、と言って踵を返した。
「ウェルテクスの居ない私には、用がないということか?」
肩を震わせたマティアを見て
(マティア殿が、気持ち前に出すのは珍しいな……)
竜騎士として、戦えないということは苛立たしい。
黒猫の中に居るアズールが、その無力さを一番痛感している。
「そういうこと」
病室を出たククルに
「おい、その言い方は」
アズールが苛立つ。
「看護師さん、ここクソ猫が紛れこんでます」
「へ?」
「まあ、一体どこから入り込んだのかしら」
ホウキで、看護師に追い回されるアズール。
(ククルのバカ……よくも)
「いつかの、仕返しだっての」
黒猫姿のアズールは、摘ままれて外へ出された。