アレス
「レイクホルトの方、ヤバイかもな」
ロスからの連絡を聞いて、セトは眉を寄せる。
「古城の湖に現れた神獣に、手こずってるようだ」
「叔父様プルヴィアでも、苦戦を……」
セノーテは、不安そうな表情。
「マティアさんとウェルテクスが、レイクホルトの方に?」
ククルが聞くと
「ああ、向かったはずだが……だが、連絡がとれない状況だ」
俺も急いで竜都へ戻るこになった、とセト。
神獣の動きが活発的で、ルブルム伯爵は部下を率いてイグニス砂漠へ向かった。
(マティアさん、何かあったか?)
連絡が取れないなんて心配だ。
ククルは頭を横にふると
(いや竜騎士は、強い。特にあの人は……)
「ふむ、バサルテス坊やだけでは荷が重いかもしれぬ」
竜都に戻った方がよい、とラピスが言った。
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蒼の都市・レイクホルト
湖に浮かぶ古城の天空に、雷鳴が轟いた。
勝負は、一瞬だった。
青い竜ーープルヴィアの巨体が、湖へと沈む。
「ラケルタの威力は、相変わらずですね」
テスカトリポカの前段階として作られた、神獣ラケルタ。
制御が利かず、失敗作として廃棄された。
外では、苦戦している竜騎士と竜奏医師た。
「神獣の行動に、統一性が出てきている……これは、テスカトリポカ様の力でしょうか」
おかげで、古城の最上階にたどり着いたステラの影に潜むヨアルリ。
中央の台座に置かれた二重楽器・アレス。
楽器形態はフルート、武器形態はバルバード。
「後は、これを……」
「止まれ」
ヨアルリ背後に、鋼のように鋭い声。
声の主はーー隻眼の中年男性カエルレウム公爵。
(音に導かれたか……)
すでに、槍の間合。これは部が悪い、とステラは両手を上げる。
「……学生?」
王立アカデミーの学生だと気付き、微かに警戒が緩む。
カチ、カチ、と窓ガラスに亀裂。
砕け散ると同時、風が吹き荒れる。
「ぐっ……」
崩れた瓦礫とガラスが、カエルレウム公爵の視界を奪う。
「ヨアルリ、脱出するなら早めに」
風竜ウェルテクスに乗ったウィツィ。
「タイミングが良かった」
アレスを持ち出し、ヨアルリはウェルテクスの背中へと飛び乗った。