奪われた風竜
ククルたちがゲゼル神殿に向かったのと同刻、マティアたちはレイクホルト方面に向かっていた。
エルカナの森、上空。
「ぐっ……」
ぐらり、とウェルテクスが体制を崩す。
「どうした?」
マティアが聞くと
「すまない……降りたら、すぐに離れろ」
ウェルテクスは降下。
「……ウェルテクス?」
「マティア様、この音……」
後方のジルに言われ
「音?」
マティアは耳に神経を集中。
微かに聞こえる。まるで、ウェルテクスを誘うような音。
「コントラバス……」
「離れろ、マティア!」
ウェルテクスの大声と同時、マティアはジルを連れて離れる。
「ご主人様を、立派に地上に降ろしたね」
なかなか根性あるね、と眼鏡の青年。
「お前は、ウィツィと言ったか」
眉を寄せるマティアに
「そっちは兄さんと一緒に居た、女竜騎士だね。えーと、名前……」
まあ、どうでもいいか、とウィツィは肩を竦める。
「レイクホルトの二重楽器は、僕らがもらう。余計なことされても困るから、これはもらっておくよ」
「ウェルテクス、私だ!」
正気に戻るよう必死にマティアが訴える。
しかし、ウェルテクスはマティアの言葉に反応しない。
「音を、かき消すことが出来れば……」
フルートを奏でたジルに
「無駄だね。二重楽器でもない普通の楽器じゃ」
この音は消せない、とウィツィは語る。
「クカカカカ」
茂みの中から、不気味な笑い声。
「これは……」
「ジル、私の後ろに……ミームスに囲まている」
ボロ布の神獣が嗤う。
「こいつらはテアーより、知能は高い。竜がいないと手こずるかもね」
そう言って、ウィツィはウェルテクスの背に乗る。
「くそっ、どうして私は……」
襲い来ミームスの額に剣を突き立て
「こんなにも無力なんだ」
マティアは、唇を噛み締める。