日傘の少女
「こんにちは、ラピス」
あなたって綺麗な竜ね、と日傘をさした黒髪の少女。
「主がーーか。あまり母親には似ておらぬな」
長い首を動かして顔を近づけたラピスに
「わたしは、お父さん似だって」
会ったことないけど、と少女。
「今日は、イツトリ先生も留守なの。だから、遊んであげる」
光栄に思いなさい、と続ける。
「子守を押し付けられたのは、妾の方じゃが……」
「未来の竜奏医師と、親睦深めるのも守護竜の務めでしょ」
「仕方ないのう」
溜息をつきながらも、ラピスは少女の話に耳を傾けた。
「ラピス?」
ピアノの音が止まる。
「む、すまぬ……」
涙を流していたことに、ラピスは気づいた。
「嫌な夢でも見まして?」
「いや、少し思い出したのじゃ」
セノーテは大きく目を見開くと
「ひょっとして、ククルことで?」
「同じ匂いがする娘のことじゃ……だが、あの子は」
いつからか姿を見せなくなった、とラピスは寂しげに語った。
✳︎✳︎✳︎
「ステラに、テスカトリポカの手下が……」
人間の影にとりつき、人を操る能力。
マティアには、心辺りがあった。
(ククルを狙っていた男か……狙いは、二重楽器か)
「至急、叔父上に伝言を頼む。こちらの防衛は、コアトリクエ校長の指示のもとアカデミーの一、二学年生に協力を依頼した」
グランの要請に
「了解しました。レイクホルトに向かいます」
マティアは頷いた。
「王宮竜奏医師のジルです」
よろしくお願いしますと、頭を下げる真面目な青年。
「よろしく。ウェルテクス、頼むぞ」
「ああ」
二人はウェルテクスに乗り、レイクホルトに向かった。