神獣の王の目覚め
「そうだ、セノーテのヘルメス!」
ククルは手を叩くと
「ヘルメスは、元々校長先生のだ。つまり、ラピスのための楽器だろ」
セノーテに弾いてもらえば何か思い出すんじゃないか、と提案。
「ふむ……コアトリクエの目が奪われてから、ヘルメスの適合者は居なかったからのう」
妾も久しぶりにヘルメスの音を聞きたい、とラピス。
「だったら、ラルグスに戻ろうぜ」
イグニス砂漠と同じく日差しが強くなって気温が上がってきている、とセトが言った。
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あれからどれくらい経ったのだろうか。
イツトリと話したのがだいぶ前に感じられる。
暗闇の中で目を覚ましたアズール。
黒く染まった両腕見て
(これって……)
首を横に振る。
(考えるな……テスカトリポカの思うつぼだ)
グオオオオオオオン
竜の咆哮。
暗闇から伸びてきた竜の手に、アズールは掴まれた。
「ぐっ……」
禍々しい真紅の瞳が見下ろし。
「マダ、残ッテイタカ」
(まさか、こいつが……)
それは大口を開け、アズールを飲み込んだ。
鳥籠で目を覚ました黒い竜ーーテスカトリポカ。
「逃げられたな……イツトリめ。小癪な真似を」
そう言って、奪った人間アズールの姿をとる。
両腕の感覚を確かめ
「まだ、馴染まぬな」
もう少し時間が居る、と呟く。
「テスカトリポカ様、お目覚めになられましたか」
ケツァルコアトル族の神官たちが頭下げる。
「ヨアルリは?」
「二重楽器回収のため、レイクホルトに行っております」
「ウィツィ様に、ラケルタの檻を開けるように指示されています」
何やら大掛かりな仕事をするようで、と報告。
テスカトリポカは踵を返すと
「少し、膳立てしてやろう」
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「通信先がエラーって……」
どういう意味でしょうか、と男の声。
「この世界であって、ここではない……」
可能性があるとすればミクトランでしょう、と女の声。
「急いで、グラン殿下に報告を」
「了解」
(誰か、近くに居るのか?)
アズールは薄っすらと目を開いた。
やたらと視線が低くなった。
そして、身体が妙に軽い。
(確か、テスカトリポカに食われて……)
アズールは思考を巡らせる。
偶然、そばにあった池に自分の姿が映った。
そこに居たのは、マルタ先生の飼い猫ルナ。