蠢く影
ミクトラン・鳥籠、水鏡の前。
「レイクフォルトだって?」
水面の揺らぎと共に発せられた声に、ウィツィは眉を寄せる。
「兄さんの方は、放っていいわけ?」
<ええ、先にこちらを抑えさせていただきます。それに、五個揃わないことにはアルメニアには行けませんからね>
再び、水面が揺らぐ。
「こっちは、司祭が準備やらで慌ただしいよ。父さんは、相変わらず寝てるし」
取り込んだ第二王子が馴染まないのか、とウィツィ。
「今使ってるのって、確か教員の女だっけ?」
<あれは、捨てました。私が影から抜けた時の記憶障害で、怪しまれています>
他の教員が目を光らせて動きにくい、と続ける。
<人質に出来そうな、いい子が居まして>
「……本当、ヨアルリって女の影に入るの好きだね」
眼鏡のブリッジを抑え、ウィツィは溜息をつく。
<可愛い女の子の方が、油断してくれるんです。ウィツイ様、お願いがあるんですがーー>
✳︎✳︎✳︎
「ステラ、家族に連絡か?」
水鏡の部屋から出てきたステラに、ロスが声を掛ける。
「はい、ちょっと話がしたくなっちゃってぇ」
ホームシックってやつでしょうか、とステラが笑う。
「それじゃあ、そろそろ集合時間ですので」
「おう、気をつけてな」
ロスは見送ると
(一応、確認しておくか)
生徒は疑いたくないが、と呟いた。