地竜ラピス
「もう、遅いですわよ」
腰に手を当て頬を膨らませたセノーテに
「ああ、悪い。やたら知り合いと会うもんで」
つい寄り道した、とククル。
「それより、グラン殿下がラピスを貸してくれるって?」
イグニス砂漠への探索に、グラン殿下の配慮で双剣の一つである地竜ラピスを貸してもらえることになった。
「ええ、彼女の部屋はもう少し奥になりますわ」
(彼女って、メスの竜か……)
どんな竜だろう、と考えながらククルはセノーテの後に続く。
岩のように硬そうな鱗。
力強さとしなやかさを併せ持つ優美な竜体。
アズールの竜化もなかなかのものだったが
「……美しい」
ククルの口から、自然に言葉がこぼれた。
「ええ、私も美しさならラピスが一番だと思います」
二番手は叔父様のプルヴィアでしょうか、とセノーテ。
「ほほう、小僧。妾に惚れたか?」
ラピスが、茶化すように言う。
「む、性格は悪そう」
剥れたククルに
「照れるな。妾も久方ぶりに旅に出れるのが嬉しいのじゃ」
ラピスは長い首をを近づける。
「しかし、少年……何処かで、会ったかのう」
懐かしい匂いがする、と言う。
「うーむ、どうにも思いだせん」
「竜でも物忘れするんだな」
肩を竦めたククルに
「竜は長命ゆえ、長いこと記憶を留めておくのは体に毒なのじゃ」
だから忘れることもある、とラピスは言った。




