竜舎裏にて
王立アカデミー・医務室。
「マルタ先生、貧血で倒れた聞きましたが」
医務室を訪ねたロスに
「心配してくださって、ありがとうございます」
もう大丈夫ですので、とマルタはベッドから起き上がる。
「でも、なんだか不思議……もっと長い間眠っていたような」
「休み明けの授業ですからね」
私は毎日鍛錬してますが、とロスは豪快に笑う。
「とりあえず、寮に戻らないと」
廊下を走るククルを見て
「小僧、廊下は走るな」
危ないだろ、とロスが嗜める。
「あ、ムキムキ教官。こんばんは」
「ロス教官、な」
ロスの隣に居るマルタを見て
「駆け落ち?」
ククルが言った。
「ち、違うっての」
顔を赤くして否定するロスと
「私のこと心配してくれただけよ」
苦笑いするマルタ。
「……ふーん。あ、じゃあオレ急ぐから」
おやすみなさい、と寮の方へ向かうククルを見ながら
(アズール殿下の件もある、ここで大人しくしてるような奴じゃない)
注意して様子を見ておく必要にがある、とロスは頭を掻いた。
「今の子、編入生ですか?」
始めて見る顔ですね、とマルタ。
「……え」
動揺したロス見て
「私、何かおかしなことを?」
マルタは訝しげな表情。
「いえ、起きになさらずに……」
「そうですか? ルナったら、どこに行ったのかしら」
最近、かまってないから拗ねてるのかも、とマルタが言った。
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竜舎裏にて
「移動に必要にな、飛竜の手配は完了っと」
旅支度を済ませ、槍のヘルメスを持ったセノーテ。
(ピアノが武器として、持ち運べるのは便利ですわ)
ククル達がメルルカに行っている間、セノーテは水竜の騎士であり叔父のカエルレウム公爵に槍術の指南をしてもらっていた。
「アルドル、今日のキミも可憐だった」
特に神獣を炎のブレスで焼くあたりが、と上機嫌な男の声。
「若、そのような言葉は人間の女性にどうぞ」
(この声……)
セノーテは物陰から、様子を探る。
色味の強い外に跳ねた赤い髪と同色の瞳を持つ青年。
弓名手であり、最年少で騎士団に加入。
ルブルム伯爵家の御曹司。
火竜の騎士セト・ルブルム。
任務帰りの竜騎士と会うなんて運がありませんわ、とセノーテは額を押さえた。