ヘルメス
珍しく真面目に語ったククルに
「だが、目を取り戻すことが出来れば……」
アズールが言ったが
「それは無理だ。もう、これはオレのものだから」
首を横に振って否定された。
「まあ、この話はこの辺でな」
そろそろ終点だ、とロスが言う。
「……音が、近いですわ」
ピアノの音に導かれるように進むセノーテの後に、ククルとアズールが続く。
中央の台座の上に置かれているピアノ。
セノーテが触れると、槍の姿をとって彼女の手に納まった。
「これ、どうなってるの?」
「間違いなく、オリハルコン製だ。確か名前はヘルメス」
セノーテのことを気に入ってる、とククルが続ける。
「さて、そろそろ戻るか。お宝手に入れた後に、後ろからガブリってよくあるからな」
茶化すようなロスの言動に
「い、嫌なこと言わないでください」
アズールは苦笑い。
「……おい、今何か横切らなかったか?」
「もう、ククルまで」
セノーテの足に、ふわふわした何かが触れた。
「ナァー」
ランプに照らされたのは、黒猫のルナ。
「ぎゃああああああっ、クソ猫!!」
逃げ出したククルの後を
「こら、迷子になるぞ」
ロスが追う。
「可愛いですわね。迷いましたの?」
「ニャーン」
セノーテに甘えているルナ見て
(今なら触れるような気が……)
アズールは距離を詰める。
触れようと右手伸ばそうとした瞬間
「シャアアッ」
「いっ……」
威嚇したルナに、噛まれた。
そして、機嫌を損ねたのか去って行く。
「そう言えば、助けようとした雛鳥の親に逆襲されたことがありましたわね」
昔のことを思い出し、セノーテが笑った。
「やっぱり、ダメか……」
肩を落としているが、ちょっと嬉しそうなアズールに
「ここを出たら、医務室で手当してもらった方がいいですわよ」
念のために、とセノーテは言う。
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教職員の協力で捉えられた、ルプスの死骸。
「やはり、あの時……微かに感じたのは」
もう一度、あの子猫を探さなくては。
「どうされましたか? コアトリクエ校長」
何かを探している様子を見て、マルタが声を掛ける。
「あの子猫は、アナタのでしたね。今は一緒に居ないようですが」
「ああ、ルナのことですか。さっきのルプスに怯えて……どこかに」
「ニャー」
足元にすり寄って来た子猫のルナを見て
「噂をすれば何とやら。この子が何か?」
おかしい。何も感じない。
これ以上、エーテルを消費させると体に負担がかかる。
「……いえ、気のせいでしたね」
「コアトリクエ校長、お疲れなのではありませんか?」
神獣騒ぎもありましたし、休まれた方がいい、と気遣うマルタ。
「そうですね……後のことは、お願いします」
「はい」
踵を返したマルタの後ろ姿を見送り
「接触はうまくいった。次は、ネブラ雪山でしょうか」
マルタは呟いた。




