地下迷宮
常にピアノの音が聞こえる、セノーテは頭を抱えて
「これでは、眠れそうもないですわ」
神獣が侵入者した影響で、聖夜祭のダンスも中止。
「私たちで、探しに行きますわよ」
アズールは溜息をつくと
「探すって、場所知ってるのか?」
「とにかく、寮に戻って着替えたら中庭の前に集合」
先生と上級生にみつからないように、とセノーテ。
「お、俺も探すのか……?」
「お前の姉さんのやる気には、感心する」
まあ、二重楽器は回収しておいた方がいい、と続けたククルは
「……やっぱり、テスカポリトカは完全には壊れてないのかも」
静かに呟いた。
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「で、これからどうする?」
「楽器持って来たのか」
「クロノスは、オレの相棒だからな」
そんなの背負ってよくみつからなかったな、とアズール。
「お前こそ、剣持ってるだろ」
「万が一のためだ。ルプスと対面する可能性だってある」
「私のピアノは、流石に持ってこれませんわ」
上級生たちの監視を抜け、中庭の前に集まった三人。
ほとんどの生徒が故郷に戻っているため、監視ルートに穴があったのも大きい。
「そうですわね。何か知ってそうな都合のいい先生が通れば……」
「二人とも、頭を下げろ。誰か来る」
アズールの指示に従い、ククルとセノーテは屈む。
「よし、誰もいないな」
中庭の中央にある東屋に、人目を気にしながら向かうロスを見て。
「怪しいですわね」
「……まさか、本当に都合のいい人が来たな」
溜息をついて、肩を竦めるアズール。
何かを操作すると、東屋のテーブルの下に入っていく。
「地下への入り口だ。行こう」
ククルの言葉に、セノーテとアズールは同時に頷く。
そして、ロスの後を追った。
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薄暗く、湿っぽい空気。
おかしなことに、先に入ったロスの姿がみあたらない。
ククルが後ろを振り返ると
「アズールとセノーテも居ない……?」
「よう、小僧。生徒は寮に待機だって聞いていなかったのか」
ロスの大きな手に、ククルは頭を掴まれる。
「あ、あう……」
ロスは溜息をつくと
「それに、お二人まで……」
左右の壁際に隠れていたアズールとセノーテは姿を見せると
「気づかれてたか」
「バレバレでしたものね」
「お、お前らオレを生贄に……」
涙目のククルに
「気づかない、貴様が悪い」
アズールは溜息をつく。
「ピアノの音がきこえますわ。お願い、見逃していただけません?」
セノーテの言葉に
「別に、お前らを捕まえるつもりはねぇよ」
ロスは肩を竦める。
「音が聞こえる生徒が居たら、地下迷宮の最深部まで案内をお願いします」
コアトリクエ校長から言われている、とロスは伝える。
「だったら、手をはなせよ」
「あー、悪い。小さすぎて忘れてた」
「このムキムキ教官め」
「ロス教官、な」
いつものやりとりを聞きながら
「この先にある二重楽器は、コアトリクエ校長のものですか?」
アズールが聞く。
「ああ、昔に使ってたものだが……今は事情があって弾けない」
(……やっぱり)
眉を寄せたククルに
「何だ、珍しく気にしてるのか」
ロスは茶化すように言う。
「……それより、二重楽器の回収が先だろ」
「ああ、そうだな。お前ら、俺についてこい」
ランプを持ったロスの後に、三人は続いた。