体温
朝、目が覚めてベッドから降りた。昨日はあのまま散歩の約束なんてなかったかのようにだらだらと一緒に帰ってきてしまった。三人とわかれる際、芳佳と紺衣から羨ましそうな顔で見つめられてとても困ったけども。
顔を洗おうと階段を下りて洗面所に向かった。その途中、お母さんが朝ごはんを作ってくれているみたいでいい匂いがした。んー、今日は目玉焼きとかかなー。
洗面所について、顔を洗う。そのあと歯磨きをして頭を覚醒させて制服を着るために部屋に戻った。その途中でお兄ちゃんに会った。
「今日は生徒会があるから朝は送れない。その分帰り送ってやるから教室で待っていろ」
私の意見なんて丸無視で、お兄ちゃんはそれだけ言うと足早と玄関へと向かっていった。そういえばお兄ちゃん生徒副会長なんだっけ。入学式は友達ができるか不安で人の話なんてまるで聞いてなかったから知らなかった。
ていうか、朝から会議なのかな。大変だな。
そんなのんきなことを思いながら私は一人のんびりと準備をし、いつもどおりの時間に出た。
教室につくと待ち構えていたように芳佳と紺衣に囲まれた。たった二人なのにこの威圧感半端ない。
「で、昨日のことなんだけど!」
芳佳が大声で叫ぶ。さすがに興奮しすぎなので少しトーンを落とすよう頼む。
「あー、ごめんごめんっ。で、昨日のことなんだけど。ほんとにしーって倉森先輩の妹なんだ?」
そのことか。
「ほんとだって。なんで疑ってるのよ…」
半ば呆れたようにいった。似てる訳が無いのでそれは仕方ないけど、嘘を言ってもしょうがない。
「いや、なんか…」
芳佳が珍しくためらっている。それをみた紺衣が代弁して伝えてくれた。
「昨日の様子を見てね、兄妹っていうよりは他人行儀な感じがしたからへんだなって思ったの。なんていうか、不思議な距離感だったのね。まだ日出野先輩のほうが兄弟って言われたら納得する感じ」
なるほど。兄弟にしては会話の距離が遠すぎるってことなのか。でも仕方ないのだ、これは私と兄の性格の問題だと思っている。
「んー。いや、私も兄もそんな積極的に話すほうじゃないからね。そう見えても仕方ないかも。でもほんとに兄妹なんだ」
なんとなく、家庭の事情は省いた。まだ知り合って一ヶ月も経っていないのでいうのは憚られた。それが他人との壁を作っている一因だとしても、いまだ私はこの二人に根本的に慣れていないのだ。
「ふーん、まあそうなんだろうね。他人っていうよりは二人共気ぃ使いすぎだし!」
あんなに他人に気を使う人だとは思わなかったんだよー、と芳佳は笑う。あの短時間でそんなとこまで見てたのか。私にはできない芸当だった。
「んで、話変わるけど!」
芳佳のその一言でがらりと雰囲気が変わった。
「部活、どうするの?今日見に行く?」
割とすぐに行動したがる芳佳は私の予定を聞いてくれない。ここは言わなければまずいと思い思わず挙手した。その行動に芳佳は笑って、紺衣が真面目な顔をしてどうぞ、倉森さんと真面目ぶっていった。
さされた私は真面目な顔を取り繕って今日の放課後の予定を話した。真剣にふたりは話を聞いてきたが私が話終わったあと羨ましそうにため息をついた。
「いいなー、いいなー!イケメンなお兄ちゃんと放課後デートか!くっそー」
芳佳は半ば本気で地団駄を踏んでいた。紺衣はじとーっという感じでぼそっと、兄妹っていうか恋人同士みたいね、と爆弾を落とした。
「んん…私はあの人が恋人っていうのは嫌かな…」
思わず本音が出た。迷わず食らいついたのは紺衣だった。
「じゃあどんな人がいいの?」
目をキラキラさせながらそう詰め寄ってくる。どうやら恋バナというものが好きらしい紺衣はとても可愛らしかったけどなかなかの迫力があって怖かった。
どんな人。頭に浮かんだのは昨日のあの光景。触れられた体温をまざまざと思い出してしまって、顔が真っ赤になってしまった。そのことを芳佳に見咎られ、二人に迫られ窮地に追いやられているときちょうど担任が入ってきて九死に一生を得た気分になった。
しずほは内輪でならふざけられる子です。誰か一人でも仲良くない人がいると殻にこもる系女子です