見学(3)
脱字訂正
「知り合いっていうか、同じクラスなんですよ」
クスクスと笑いながら紺衣が先輩の質問に答えた。へえ、とその答えに納得したのかわからない返事を返し、先輩は自分のコップに注がれたお茶を一気に飲んでいた。
「でもすごい偶然だね、別にどこに行こうとか一緒に相談したわけじゃないのに同じ部活に見学に来ちゃうなんて」
確かに、私たちもびっくりしたものだ。まさか同じクラスの人間に会うなんて思わなかったし…しかも今日初めて話しかけられた人だし…
「俺もびっくりしました!いや、あの、なんていうか、こういうところに興味ある二人だと思わなかったんで。てか先輩たちのほうこそ知り合いなんですか?なんか、その、親密そうだったし」
何かやましいことがあるわけではないのにちょっとどきっとした。隠すことなんて何もないけど口から出た言葉は要領を得ないもので、自分の不甲斐なさを垣間見た気がした。結局見かねたであろう先輩がちゃんと説明してくれた。
「そう、まー知り合いだね。俺の親友の妹なんだよ」
そう言いながら私の方を向いてくる先輩。それに釣られて先輩に向いていた伊野くんの視線もこちらにくる。あまり見られることになれているわけもなく、ただ二人の視線にどきまぎして、二人の方を見ないように顔を伏せた。
「倉森さん、お兄さんいたんだね」
へえ、といったふうな声が聞こえた。確認するような言葉はどう考えてもその言葉は私に向けられていたけど、ちょっと二人分の視線が痛いというか、返事を返す余裕もなくただ無言で頷いた。
「もう、二人共あんまりしーのこと見つめちゃダメですよ。ほら照れちゃってる」
さりげない紺衣の助けがとてもありがたかった。一対一でも慣れていない人だと目をあわせて話せないのに、あまり慣れていない、しかも男子二人に見つめられている状況というものは恥ずかしいとかそういう感覚を超えて居心地が悪かった。
「あー…ごめんね妹ちゃん。とりあえず、そろそろ休憩時間も終わりだから今日はこのまま見てってね」
そういうやいなや先輩は道場に置いてあった和太鼓をそばに置いてあった竹刀で思い切り叩き休憩時間の終了を告げた。あまりの大きさに驚いてしまって、小さな悲鳴のようなものが声から出てしまったのは仕方ないことだと思って欲しい。
「じゃあ今日は新入生もいることなので、剣道というものはどういったものなのか手っ取り早く知ってもらうために練習試合をしたいと思います」
俺あんまり説明うまくないし、実際見てもらったほうがわかると思うし。そう言葉を続けて先輩は部員の何人かに準備をするように指示した。ほかの部員たちは外されていた面などを新入生達がいる場所におき、そこに正座した。どうやら試合に参加しない人は新入生側に座って試合を見るらしい。
「今日は部長がいないから審判役は俺。最初は男子の試合、次に女子、最後に混合でやります。木之元、平良、前へ」
防具をつけて準備万端な人たちの中から名前を呼ばれた二人が出てきた。木之元と呼ばれた人は上が…多分道着というものなんだろうけど、白で、袴はほかの人たちと同じ黒だった。対して平良と呼ばれた人は道着は先輩と同じ青だったけど胸元から腰まである防具、伊野くんが小声で胴だよと私たちに教えてくれたものが赤かった。呼ばれなかった人達は無言で私たちと同じところに正座した。
伊野くんは中学の頃とかにやったことがあるのだろう、まったくもって予備知識のない私たちに今何をしているのかを説明してくれた。
「今しているのは蹲踞ってやつだよ。試合前にやるやつ」
2人が向かい合ってお辞儀をし、竹刀を抜く動作をしながら腰を落とした。そして立ち上がり2人とも少し後方に下がる。
「あれはねえ、お互いの間合いを調整してるんだ。近すぎると竹刀の真ん中で技が当たってしまうし、遠すぎると逆に当たらないんだよ。だからいやってお互いに調整しあう。竹刀の先っぽの白いところ、わかる?あそこにお互いの竹刀が当たるように調整するんだよ」
小声で私たちに解説してくれる伊野くん以外の声は聞こえてこない。誰もが静かで、こちらの方がどきどきしてきた。呼吸音さえ出してはいけないような、そんな緊張感のある空間が生み出されていた。
「じゃあいつも通り俺が太鼓を鳴らしたら試合開始、太鼓を二回鳴らしたら終了。あんまり長くもやれないからどちらか先に一本取った方が勝ちになる。混合試合では勝った方にでてもらうな」
そういって、先輩は手に持っていた竹刀で太鼓を思い切り鳴らした
昔やっていた記憶を掘り起こしながら書きました…