作戦
多少頬を膨らましながら先輩を睨んだ。それぐらいは許されるだろう。
「でも、どうやってサポートするんですか?」
そう聞くと先輩は頭を掻きながらうつむいてしまった。なんだろう。
「まだ具体的には考えてませんっ!」
だめだこいつ、と咄嗟に言わなかっただけマシだった。自分たちで種を蒔いておきながらそのくせ対処法を考えていないなんて。いや、私もどうサポートするのか予想もつかなかったけども。
私の中の先輩が株をどんどん下げていく中、ふと思いついたように先輩はつぶやいた。
「一度出た噂はなかなか消えないから、いっその事違う噂でも立てて消してしまうしかないと思うんだよね」
「いいかもしれないですけど、インパクトのある噂ってあるんですか?」
そう疑問を投げかけると先輩は考えるように人差し指を唇に当てていた。
「あ、私の家こっちなのでここでさよならですね」
気がつくとそこは駅へと続く交差点だった。私は突然の発言に驚いている先輩からカバンを取り返した。私は電車通学ではなく徒歩なので電車に乗る先輩とはここでお別れなのである。
「え、いや家まで送って行くよ」
先輩は私のあとをついてこようとした、が。
「あー!和沙じゃんっ!こんなところで何してんの!」
数人の男女のグループがちょうど交差点の向かい側から先輩を呼んでいた。先輩のことを呼び捨てにするのは多分同級生かちょっと言い方が間抜けだけど先輩の先輩だと推測した。
たった数人でも男女の先輩、しかもあんな遠くから人を呼べる度胸がある人たちに私が関われる訳もなく、先輩がそちらに気を取られている隙に全力で逃げ出した。
流石に挨拶しないのはまずいかな、と思ったけどあの注目されている中で私が声をかけられるわけもなく、後ろを振り返らずに走っていった。
今度会った時にはこの非礼をまず詫びなければいけないなとそれだけを考えてただひたすらに走っていった。
家につき、自分の部屋にまっすぐ突き進む。おかあさんはまだ帰ってきていないし、お兄ちゃんは私より先に帰ってきている訳がなかった。自分の部屋に入るとベッドめがけてダイブする。
「…あー、もう疲れた」
走って帰った疲労感と、これから舞い込んでくるであろう苦労とがせめぎ合いながら私の体を駆け巡っていた。どうしてこんなことになっているのだろうか。意味がわからない。
「あの人があんなに有名人だなんて思わなかった」
たがか高校生にファン、しかも親衛隊だなんて。私の中学の頃の友達が聞いたら爆笑するだろう。なんとなく今日は誰かに聞いてもらいたい気分になった。こんな気分になるなんて初めてでびっくりしたけど、これも変化かなと思うと嫌な気分にはならなかった。
電話でもしようかと思ったけど、いきなり電話なんて困るだろう。先にメールで電話していいか聞いてからにしよう。そう思って私は久しぶりに電話帳を開いた。
メールを送ってから数分後、携帯の着信音が鳴り響いた。やけに早いと思ったらメールではなく電話だった。びっくりして慌てて電話に出る。
『どうしたのあんたから電話したいだなんて!!電話するほど困ってることあるの!?』
向こうの声はこちらからの連絡によほどのことを感じたのか、とても焦っていた。それに私は今までこうやって愚痴をいうことさえ他人に促されて言っていたのだなと気づかされた。
「いや、ちょっと愚痴を言いたくなって」
そう素直に言うと向こうは安心したようにあからさまに息をつき、そうして私が話し出すのを待ってくれた。
私に新しい家族ができたことなどから話し、今までの経緯、そして今日聞かされたことをかいつまんで話すと向こうはこっちの意図を簡単に感じ取ってくれた。
『んで?あんたはどうすればいいのかわからないって?』
「うん」
『相手が行動起こすまではほっとけばいいんじゃない?だってあんたたちの関係はあくまで兄妹であってそれ以外ではないじゃん。堂々としてればいいんだよ』
その言葉になんとなく安心を覚えた。別に解決したわけじゃないけど、良かったなと思えるくらいには心が軽くなった。
「じゃあ、今までどおり接することにする」
『それが一番だよ。やましいことなんて何もないんだから、堂々としてな』
なんだか私のおねえちゃんのように話すからちょっとおかしく感じてしまって笑ってしまった。