芝居
囁かれた方の耳が熱い。思わず耳を覆い隠した。どう見てもからかっているとしか思えないのにこういう接し方は初めてでどうしたら分からなかった。
「芝居って、何するんですか」
思わず睨んでしまった。効き目があったかどうかはわからないが先輩はごめんごめんと反省しているとは思えない態度で謝ってきた。
「んー…まあすっごいコテコテの芝居を打つつもりはないよ。これから事あるごとに妹ちゃんにけいへの用事を頼みに来るから邪険にしないでねってお話」
「それ別に芝居じゃないですよね」
別に頼まなくてもいいと思うんですが。
「もー、眉間に皺がよってるよ」
そう言いながら先輩は私の額を小突いた。こ、この人…私のこと馬鹿にしてるんじゃないだろうか。余計むっとして、先ほどより睨みが強くなった。
「そう怖い顔をしないでよー。ごめん、俺が悪かった」
ようやく睨みが効いたのか先輩は眉をハの字にして謝ってきた。悪いと思ってるならしないでほしい。
「まあ冗談なんだけど」
どこからどこまでが?その思いが通じたのかどうかわからないが先輩は説明する。
「芝居云々は正直気にしないでほしい。ただ彼女っていう噂はどっから出たのかわかんないけど結構広まっちゃってるみたいなんだよね。二人が兄妹だって言っても多分信じる人ってあんまりいないみたいだし。これからいわれのないやっかみとか来るかもしれないから俺とけいでできるだけサポートしていきたいと思います!」
腰に手を当て、堂々と宣言した先輩。しかし、意味がわからない。
「別に、そこまでしてもらうわけには…」
「いやさー、これは俺達の責任でもあるわけ」
これは本当に申し訳ないっていって先輩は頭を下げた。いくら一個上であっても年上の人の頭を下げさせている状況というのはいかがなものか。はっきりいって困る、対処に。
「ま、いつまでもこんなところにいてもしょうがないから帰ろっか」
帰りながらおいおい話すよ、と先輩はさりげなく私のカバンに広げていた教科書をいれ、持ってくれた。慌てて私は奪おうとすると昇降口まで持ってってあげると言われてしまった。忘れ物は?と問われあたりをざっと見渡してないと返答すると先輩はにっこり笑ってじゃあ帰ろうといって先にいってしまった。…あ、カバン取り返してない。
昇降口に向かうとすでに靴を履き替えていた先輩が出迎えた。なんとかカバンを取り返して靴を履きかえる。そして待たせていた非礼を詫びると先輩はにっこりと笑った。
「とにかく、どうして先輩方の責任になるんですか」
会話が見つからなかったから疑問をぶつけてみた。こういう会話でしか人とコミュニケーションがとれない自分の不器用さに呆れた。もうちょっと聞き方ってものもあるのに、と自分で自分を貶めていた。
「いやさあ、割と毎朝けいと妹ちゃんって一緒に登校してるじゃん。いままで誰を気になってるっていう噂すらなかったけいだったからみんな気にしちゃって。しかもあいつ妹だっていえばいいのに聞かれると大体俺のほう見てくるんだよ?んで、俺がちょっとした嫌がらせで『俺もわかんないけど彼女とかじゃない?』って言ったら…」
「広まったんですね」
先輩のあとを引き継ぐように言葉を紡いだ。ほんとに先輩たちの所為なんだね。
「あいつもその場で否定すればいいのにますます困ったような顔してなにも言わないから余計信憑性が…ね」
俺もすぐに妹だって妹だって言ったんだけど全然聞いてもらえなかったんだよねー。と先輩は独り言のようにいった。いや、あの、他人事なのはわかるけど勝手に当事者になっている私の気持ちも考えて欲しい。
高校生って根も葉もないようなやつまですぐ信じるんですよね。本人たちが特に気にしてなくても周りは興味津々っていう。