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見つめる先  作者: しゅか
1/17

家族

 拝啓、天国のお母さんへ。


 私に、新しい家族ができました。






 倉森静穂、16歳。今年で高校一年生。髪の色は茶髪。染めたわけではない。髪型はショートカット。顎のところで切られている。おとなしく、あまり自分の意思を通そうとしない。よく言えば協調性があり、悪く言えば他人に流されるタイプである、家族構成は父子家庭であったが、高校に入る前に両親が再婚。母親と兄が増え4人家族になる。成績は優秀であるが、運動神経はいまいち。ただ、持久力はあるのでマラソンなどは得意。


 なんとなく、自分のプロフィールを書いてみた。自己分析というものはあまり得意ではないのだけれど、新しい環境になってから自分を見つめ返してみようという気持ちになった。


「やっぱり、特徴がないな…」


 そう独り言をつぶやいて、ノートを閉じる。


 新しい家族が増えて、お父さんはマンションから中古の一戸建てを買った。そんなお金どこにあったのと聞くと、仁絵ひとえさんとお付き合いをし始めて、結婚を意識し始めた頃から二人で貯めていたんだ、と幸せそうな顔で私に答えた。家というものは高い。そんなものを買えるくらい二人の仲は長かったんだな、と私は他人事のような気持ちで思った。


 私にはお母さんの記憶があまりなかった。幼い頃に病気で死んでしまったと、お母さんの法事で集まった親戚の人たちはいっていた。お父さんにそのことを聞くと、少し笑って、寂しそうな顔でそうなんだよ、お母さんはね、一足先に遠くのところに行ってしまったんだといった。その問のお父さんの顔は印象的で、私はそれ以来お母さんのことを聞くのをやめてしまった。


 だから母親というものがどういう存在なのかわからなかったし、わからなくてもいいと思っていた。だってお父さんはよく私を構ってくれたし、愛してくれていた。そのことが十分すぎるほど伝わって、私の幼少期はとても幸せだった。


 お父さんから再婚をすると言われたとき、特に何も思わなかった。私にお母さんの記憶があれば、あるいはお父さんが苦労を一切見せずにいたらお父さんをとられるかもと思って嫌がったかもしれない。でも現実にはあっさりとしていて、私がその場でいいよと言ったときお父さんは呆気にとられた顔をしていた。その顔をみて、私は柄にもなく大声を出して笑ってしまった。


 新しい家族と対面するとき、とても緊張した。どんな人なのか、私に合う人なのか、すごく怖かった。私は人前で意見をいうのが苦手なタイプで、もじもじするから人をよくイライラさせることが多かった。お母さんになる人が、私のことを嫌ったらどうしようと思っていた。お父さんは大丈夫だよ、静穂を嫌いになるわけないよと会うまでずっと励ましていたが、正直信じられなかった。ただ、あったとき、そんな不安は消し飛んだ。優しい笑顔で、お父さんではなく私に真っ先に話しかけてくれた人。


「はじめまして、静穂ちゃん。仁絵です。あなたのお話は太助さんからよく聞いてます。私、あなたに会いたくて会いたくてたまらなかったの。話に聞くよりずーっと可愛らしい子なのね。どうか、これからは家族としてよろしくね」


 ゆっくりと私に言い聞かせるように話してくれた仁絵さん。なんだかそれが嬉しくて泣いてしまいそうになった。その後何を話したかすっかり忘れてしまった。


 ああいう人が『お母さん』なんだ。


 初めて、『お母さん』という存在に触れられた気がした。


 お母さんはすぐになれたけど、お兄ちゃんという存在は一緒に生活して一ヶ月経つけど未だに慣れなかった。


 お兄ちゃん。圭史という名前。初めて会ったとき、はじめまして、これから家族としてよろしくとしか言われなかった。両親が再婚して、一緒に生活してから挨拶しか言葉を交わしていない。お母さんともあまり話さないから口数が少ない人なんだろうなと思っている。


 正直、わからない人。



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