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 鏡花の容姿が少女のままで時を止めてしまったわけを僕はよく知らない。それでもにわか知識と受け取った情報を統合し憶測に結びつけるのは難くなかった。

 吸血鬼は狂犬病説を唱えた者として、加えて説明し直すが、太陽アレルギーのようなポルフェリン症や、精神的に嗜血を好むヘマトフィリアも重大な吸血鬼の原形なのは変わりないだろう。しかし彼女はそれらと違い、予想外の病だったのだ。

 下垂体性のホルモン異常。

 月経が先天的に訪れず第二次成長が行われない原発性無月経。以前なにかの本で読んだことがあるが、鏡花は一種の小人症を患っていたのかもしれない。


 恒星が輝く寒空の下で、時代や出身地などはうやむやに、少女はそのノスフェラトゥとしての再誕を語ってくれた。

 僕の鼓膜は淡々と語られる言の葉に、引き込まれるようにして沈んでいった。


 彼女の育った土地は、元々農業地帯でブドウ畑と丘の上の修道院がシンボルののんびりとした田舎町だった。

 しかし国の大規模な改造計画により家を失った住民の移転先に多く選ばれたことがきっかけで、修道女が造るワインが名物の、飲み屋街として都市化を続けた。

 過去、豊かな自然を求め芸術家たちが集まったことから歴史地区に指定され、昼は多くの観光客が、夜は歓楽街のネオンが燦々と輝く、光と闇が同居する歪つな街になった。治安はあまりよくない。

 彼女は多くの画家が眠る墓地横の、洗濯女が集まる安アパートに、母と義理の父と三人、爪に火を灯す生活を送ってきた。

 鏡花は義理の父親を、盗みの常習犯で母の稼ぎと生活保護が頼りのろくでもない男と心の底から軽蔑していた。

 彼女は男性を『叔父』と呼ぶことを強要された。戸籍上の親子関係が役所にばれると、生活保護費が減額されるからだ。彼女自身、男のことを父親代わりに思ったことはない。

 鏡花は非嫡出子だった。婚姻関係にない両親から産まれた子どもで父親の認知を受けられていない庶子だった。

 母はぎこちない親子関係を認めつつ、「お前はほんとは領主様との子どもなんだ」とことあるごとに彼女に言ってきかせた。昔、郊外の領主邸で下女として働いたことがあるといい、その時に彼女を孕んだと言うのだ。

 そんな四方山話を真に受け、幼い頃はシンデレラのようにお城から使いがやってくると信じていたが、いつしか酩酊状態の母親が呟く絵空事だと気付き、普通の学生と同じよう漫然とした将来の不安を抱えながら高等中等に通い続けた。

 母は元売春婦だった。おそらく出自についても誰の子かもわからないから、嘯いているだけなのだ。

 彼女は年のわりに体の小さな子どもだった。病気がちで、つまらないことですぐに寝込み、その度に『叔父』に怒鳴られた。なかなか生理が来ず、クラスの中でいわゆる「遅れた子」になっていた。

 ある冬の寒い日だった。

 学校から帰宅すると、母は水差しから赤ワインをグラスに注ぎ、それを飲むように命令した。『叔父』は居なかった。どうせまたデカダンな歓楽街の空気でも吸っているのだろう。

「小さく醜いアンタはこれを飲まなくちゃならない。子どもが産めないのなら、お前は産まれた意味すらないからね」

 母親は恋愛主義だった。当時、階級制度の崩壊とともに自由恋愛が許され、女性のキャリアは結婚にあった。

 私のように失敗するな、と母親は彼女の金の髪を撫でた。

 つまりある程度の階級の男性とも親族になるチャンスを鏡花は握っていたのだ。血筋にはその権利がある、と母親は口を酸っぱくして彼女に言った。

 反抗期もなく純粋に温もりに飢えていた少女は言われるままにグラスに口をつけ、すぐに違和感に気がついた。それはワインではなく血液だったのだ。

 古代中国には身体の悪い箇所と同じ部位を食すことで健康になるという考え方がある。もちろん医学的根拠はないが、鏡花の母親は、無学な男に唆され、そんな民間療法をとった。

 飲み屋のツケでケツに火がついた『叔父』の、鏡花を奉公に出そう、という提案のために、それは必要な儀式だったのだ。

「あんなナリじゃ客もとれねぇだろ」

 前日、『叔父』と母の言い争いのなかに、そんな怒鳴り声があったことを思い出しながら、彼女は言われた通りに喉を潤した。

 鉄の味が口内に広がり、何度も戻しそうになりながら、この血はどこから手にいれたのだろう、と考えた。

 治療は数ヵ月続いたが、生理が来ることは無かった。原発性無月経は今でこそホルモン治療で治る先天性の病であるが当時ではどうすることも無かったのだろう。栄養をとって規則正しい生活をすれば、あるいは完治したかもしれないが、環境がそれを許さなかった。そもそも病気だったという可能性自体、あくまで僕が推察しているだけで、実際はどうだがわからない。高校生になったって生理が訪れていない人はごまんといる。

 ある朝、洗濯女の仕事に行く前に母親は倒れた。

 原因は、過労、そして現代風の言葉で言えば毎夜行われる、ドメスティクバイオレンス。

 やつれていく母をなんとかして救おうと看病を続けたが、「血は飲んだか」とうわ言のように呟くばかりで、献身さ煩わしそうに拒否するばかりだった。

 母は『叔父』に依存していた。見るに耐えない暴力を受けながら、ろくでもない男に惹かれていたのだ。

 少なくとも、彼女が暴力を受けたことは一度もなかった。母親が自ら進んで身代わりを名乗り出てくれているからだ。

 いつも、別れればいいのに、と進言するのだが「そうだね」と曖昧な相槌をうたれるだけで、同意が実行に移されることはなかった。当時離婚は神に背く行為に等しく、そしてなにより女性の立場はいまよりずっと、悪かったのだ。

 母が倒れても、男が飲み屋から戻ってくることはなかった。

 学校すら行かず看病を続けたが、母が冷たくなるのに時間はかからなかった。

 死体には幾つも切り傷があり、鏡花は治療に何の血が使われていたかを理解した。同時に、母を殺したのは養父だけでない、と絶望した。

 葬儀がすむと鏡花は社会に出ることを余儀なくされた。父親代わりの男は母がいなくなっても改心することなく、鏡花に働くことを強制したのだ。拒否すれば、頬に大きな青アザがつくのは明白だった。

 しかし幼い容姿の彼女を雇ってくれるところはなかなかなく、やっとこさ見つけた繊維工場の女工も、異質物を弾くコミュニティによって潰された。

 卒業より一年早く中退というカタチをとっていた鏡花に頼るべく友達もなく、孤独感に押し潰されながら、アパートで『叔父』と二人暮らし続けたが、ついに身売り要求された彼女は空き瓶で男の後頭部を殴り付け、逃げ出した。

 母がいなくなってからは、「キズモノの商品価値」という魔法の言葉で逃れてきたけど、それにも限界がきたのだ。

 母との思い出が残るアパートを捨てるのは名残惜しかったが、男に良いようにされるよりは、何倍も楽だった。

 路上で寝転がり、いかに自分が庇護された対象だったかを噛み締めながら、寒さに震え、このままではただ死ぬしかない、と漠然に考えていたときだった。

 黒い外套をはためかせたシルクハットの男性が、彼女をジッと見下ろしているのに気がついた。

「お腹が減ったの」

 ストリートチルドレンなど珍しくもない環境だ。こじきめいた活動は何度かしたことがあるし、この人も施しを与えてくれる人物だと彼女は考え、なるたけ子どもらしい声で口を開いた。

 皮肉にも物乞い行為の際、見た目の幼さはとても役立った。

「貴様は私が怖くないのか?」

 シルクハットの男性は背筋が寒くなるくらい不気味な声で呟いた。

 男の容姿はけして美しいものではなかった。青白い皮膚はところどころケロイド状になっていて、口からはみ出た歯はヤニに染まったように黄色くガタガタだった。爪は長く、瞳は白く濁っている。

 見るもおぞましいグロテスクな容姿だったが、自分のほうがよっぽど歪つな内面性と醜悪な容姿をしていると、割りきることができた。

「いいえ、ちっとも。怖いだなんてとんでもないわ。そんなことより、なにかちょうだい」

 彼はニタリと笑うだけで、一切動かず寝転がる彼女を見下ろすだけだった。

「……おじさん、誰」

 空きっ腹で軋む体を起き上がらせる。

「吸血鬼だ」

 またにたりと笑いそう答えた。

 はじめは冗談を言っているのだと思った。幻想奇譚は国を巻き込み、地方へと伝播していたが、産声をあげ始めた科学時代にそんな噂を信じる者などいるはずがない。

 シルクハットを目深にかぶり、怪しさは満点だったが、それよりも先に沸き立つのは胡散臭さだった。

「あら奇遇ね。私も吸血鬼よ」

 だからこそ、微笑みかけた。

 みせかけの容姿に、血を啜り生き長らえてきた身分、私は吸血鬼に相違ない。一生かけても償いきれない罪を背負ってしまっている。

 彼女は人間としての生き方を忘れ、贖罪にどぶねずみが如く暮らすことに抵抗など感じなかった。

「おんなじね。私たち」

 彼女の言葉をどう受け取ったのかわからないが、吸血鬼は黄色い歯をみせて笑うと外套を翻し、「ついてこい」と声をあげた。

 なにか、もらえるのだろうか。

 気だるさを飲み込んで、ふらつきながら後をついていくと、そのまま地下水道に入っていった。

 中は蒸し暑く最悪の環境で、パイプが複雑に入り組んでいた。

 何度も躓きながら汚泥まみれの下水道を進み、横穴横穴と迷路めいた環境を越えた先に、拓けた空間があった。

「吸血鬼のよしみだ」

 真新しい革のソファーに腰掛け、彼は言った。

「望みを一つ叶えてあげよう。誰か殺したいやつはいないか? 金がほしいか? それとも、腹を満たすか?」

 なぜか、彼は本物だと確信した。

 お腹は減っていたし、お金も欲しかった。殺したいほど憎む人はいないが、私はきっと殺したいほど憎まれていただろう。

 一考した後、口を開いた。

「あなたの仲間にしてちょうだい」

 予想してなかったのだろう。吸血鬼は一瞬だけ目を見開いた後、その能面のような顔に笑いジワを刻んで、「あっはははははは」と地下いっぱいに響く声で笑った。

 空気がビリビリと震えるくらいの大声だった。ネズミが驚き、遠くに逃げようとしているのが、視界の隅に写った。

「よかろう」

 ひとしきり笑い終えると、まるで孫の成長を見守る老婆のように瞳を線にして、カサカサな唇を開いた。

「眷族に加えてやってもかまわない。ただし」

 立ち上がりコツコツと足音をたて移動し、彼女の正面に立った。目算でも二メートルはある大男だ。威圧感が全身を包み込む。

 彼は枯れ枝のように細い指を一本たてて、それを彼女の額にあてた。

「貴様はその美しい容姿と魂を一度捨て去らなくてはならない。それでも構わないと言うならお前は今日からノスフェラトゥだ」

 ノスフェラトゥ、という響きがスッと胸に落ちてきた。

「棄てられるものならいくらでも棄ててあげる。私の罪が赦されることはないし、償いの代償に人間をやめなくちゃならないなら、喜んで差し出すわ」

「よろしい。私はこれから七日かけて貴様をノスフェラトゥに変えていく。貴様は運がいい。始祖たる私に出会えたのだから」

 その時から、彼女は文字通り、その人間性を捨て始めた。首筋に吸血鬼の野太い犬歯がズップリと刺さる度、気を失いかけた。ドクドクとあり得ぬ方向へ向かう血流が、彼女を黒い世界へと誘った。

 吸血が終わるとソファーへ力無く倒れ込んだ。けして良くない住み心地が、身体を火照らせ不健康の悪路へ連れていった。

 二日目は違和感だった。

 いつしか自分が生きているのかさえ、わからなくなっていた。ぼんやりと滲む景色と下水の臭気だけが、彼女を辛うじて現世に留まらせ、ただ吸血鬼に血を与えているときだけ現実を感じることができた。

 三日目から、多好感が押し寄せてきた。

 熱は引き、血が飲み込まれていく度、麻薬中毒者のように次を求めるようになった。

 快感だった。

 もっと、もっと、血を吸われたい、といつしかそう思うようになっていた。そう渇望しはじめたときから、彼女の髪からごっそりと色が落ち、銀色に染まった。言葉では言いあらわせられない幸福感が押し寄せ、汚水まみれの下水道が、ありとあらゆる幸せを詰め込んだおもちゃ箱のように感じられたほどだ。

 自分が自分でなくなっていく感覚は、抱えた罪が消えていく錯覚を彼女に与えた。

 このまま、私は吸血鬼になっていくんだ。

 はじめは浮浪者の世迷い言だと、冗談半分だったが、彼ならば、私のしみったれた世界をぶち壊してくれる。

 それは、自我の崩壊だったのかもしれないが、今でも鏡花は彼に感謝しているという。


 彼女が吸血鬼と出会い神秘性を我が身に受けてから、五日目のことだった。

 日暮れとともに出掛けていた男が地下水道の秘密部屋に戻ってきたとき、彼はその左手を失っていた。

 傷口から血が滴ることはなかったが、ぐずぐずになった断面は見ていて痛々しいものがあった。

「二つの道がある」

 どうしたの、という至極当然の質問を遮り、吸血鬼は続けた。

「貴様をおいて逃げる道、さもなくば貴様とともに逃げる道」

 意味がわからなかったが、噛み砕いて話を訊いてみると、彼がこの街を主軸に活動していることが、教会の連中にばれ、闇討ちされたのだという。勝ち目はなく、今ならまだ逃げられるかも知れない、という提案だった。

 つまり彼の二つの選択肢は、辛うじてまだ人間である鏡花を、教会が被害者として保護してくれる可能性にかけ、おいて逃げるか、もしくは二人であてどない逃避行を続けるか選べというものだった。

 答えは決まっていた。

「あなたについていくわ」

 まだノスフェラトゥになるまで、三回の吸血が残されている。吸血鬼は力強い彼女の青い瞳をいとおしそうに見つめてから、静かに頷き、首筋にその牙をあてた。

 連続して七日、吸血行為を行わなければ、吸血鬼として生まれ変わることはできない、一番はじめに教えられたことだ。

 明日の朝……。

 沸き上がる幸福感と朦朧とした意識のなかで袋小路に足を踏み入れたのにも関わらず、わずかばかりの希望を感じていた。

 明日の朝、私の旅が始まる。

 

 目を覚ましたとき、彼女は一人きりだった。

 安アパートでの暮らしがよみがえり孤独は現実として目の前で展開されていた。

「どこ!? どこにいるの!?」

 嘘をつかれた。一緒に逃げようと言ってたのに、私をおいて逃げた。

 それは二人で逃げることは叶わないと踏んだ吸血鬼の選択だったのかもしれないが、彼女にとっては裏切られたも同然だった。

 吸血鬼と過ごした五日間を思い出しながら、汚い床に泣き崩れていた時だった。

「……」

 吸血鬼は全身傷だらけで、ズタボロのコートを引きずり戻ってきた。

 おいていかれたわけでないという嬉しさ反面、彼が何故これだけ傷付いているかを悟り、彼女の胸は締め付けられた。

 二人で逃げることは敵わない、だからせめて追手の数を減らしておこうと。

 両眼から溢れ出る涙をそのままに鏡花は彼を抱きしめ、奮闘が無駄になってしまったことを悔いた。

「私の手を握れ」

 今際の吸血鬼はいつもの抑揚のない調子で、ボソボソと残った右手を彼女に掲げた。

「私の不死性とノスフェラトゥとしての力の使い方を伝える。……最期だ。貴様が人間として生きるか、吸血鬼として生きるか、選べ」

 少女の腹は決まっていた。

 もとよりこの感情が副作用だとしても、彼女は吸血鬼に対し感謝していたのだ。

 手を握った瞬間、吸血鬼は少しだけ哀惜に満ちた顔をすると、燃えかすになって世界から姿を消した。同時に吸血鬼としての生き方を身につけた。


 しばらく虚空を見つめていた。これから先の自分の生き方をぼんやりと。

 吸血鬼は闇の住人と言われるが、中途半端に受け継いだ彼女はなんと呼ばれるべきなのだろうか。

 地続きの経験則は途切れることなく相も変わらず自己をがんじがらめにする。どうせなら、彼が生前名乗っていた名前にしよう。

 ノスフェラータ。

 新しい名前、いや、名前なんて結局のところ、記号でしかないのだ。

 私は私、今を生きるわ。

 消し炭に視線をよせ、彼女は天国にも地獄にも行けず、さ迷い続ける魂に誓った。

 ふとパイプを通る水音に混じって、足音が聞こえてきていることに気がついた。

 顔をあげて、暗闇の向こうに目をこらす。

「悪鬼は滅せよ、っていいますけど」

 長い黒髪の女性がいつの間にか部屋の入り口に立っていた。顔を構成するパーツ一つ一つが均整に配置された美しい女だった。

「あなた様は?」

 夏の青葉闇のように涼しげな瞳の彼女は、物怖じもせず、ソファーの鏡花に近づいた。

「あの『人』をやったのはあなたね」

 ノスフェラトゥから大体の記憶を受け継いでいる、腕を引きちぎったのは、この女。

 吸血鬼は、異国の魂を味わおうと襲い、この女に返り討ちにあった。全ては彼を滅せんとす罠だったのだ。

「ふぅむ。なるほど、つまりそちら側の方というわけですね。そうとなると残念ですが、お別れです」

 彼女は懐から短刀をとりだし、正面に構えた。 

 光源もないのに、刃が白く光る。

「小娘が」

 自分の声ではなかったし、そんなことを言おうとも思ってなかった。ただの憎しみが、前世の記憶を甦らせているようだった。

 命をとしての殺し合いは一昼夜にわたって繰り広げられた。


 勝利を手にしたのは、鏡花だった。

 短刀と組み合わされた符術に追い詰められはしたが、原始の経験を受け継いだノスフェラトゥのほうが一枚上手だったようだ。

 打ち出されたお札を丁寧に引き裂きながら、床に横たわる女性にノスフェラトゥは静かに告げた。

「仲間を呼ばれる前に貴様には糧になってもらおう」

 どこから出している声なのかわからなかったが、それは自身の言葉ではなかった。

 別に血なんか欲しくなかったが、睡眠欲が人間を捉えて放さぬよう、彼女の犬歯は吸血鬼のそれに変貌していた。

 無理矢理女を起きあがらせ、女性の白くたおやかな首筋に牙をたてる。

 初めての食事に、えも言われ充足感に充たされる、はずだった。

「!?」

「あなたの魂は囚われてしまっているようですね」

 耳元で声がする。

「可哀想に。その身にやつすのにはあまりに強大すぎる力です。直接魂をむき出しにする、食事の好機を待ったのは間違いではないようです」

 女はどこまでもしたたかだった。

 混濁したノスフェラトゥの魂は、東洋の女性の手によって排除され、鏡花は気を失ってしまった。

 鏡花の初吸血はこうして失敗に終わり、女性、宮ノ下陽子に保護されることになったのだった。






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