第八話 わたし(俺)、正しいのに通らない
正しいことが、
必ずしも通るとは限らない。
それは前世で、
骨身に染みるほど学んだはずだった。
それでも――
少しだけ油断していたのかもしれない。
事件は、模擬戦の授業で起きた。
二人一組で行う実戦形式。
わたし(俺)の相手は、
魔力量は高いが制御が甘い男子生徒だった。
開始直後、
彼は焦って大技を放つ。
(来るな)
わたし(俺)は即座に距離を取り、
最小限の防御で受け流した。
暴発した魔力が、
結界ギリギリまで拡散する。
「止めろ!」
反射的に叫ぶ。
しかし――遅い。
制御を失った魔法は、
観戦していた下級生の方へ向かった。
(間に合え)
体が先に動いた。
割り込んで、
衝撃を受け止める。
軽い痛み。
だが致命傷ではない。
結果だけ見れば、
事故は防がれた。
問題は――その後だった。
「今のは、危険な行為だ」
教師の声。
(……ん?)
注意を受けたのは、
相手ではなく――わたし(俺)。
「あなたが不用意に割り込まなければ、
結界が処理していた」
(は?)
周囲がざわつく。
「結果的に、
授業の進行を妨げましたね」
(この論法、久しぶりだな)
前世で何度も浴びた、
“結果論による責任転嫁”。
「質問があります」
わたし(俺)は、静かに手を挙げた。
「もし、結界が破られていた場合、
責任は誰が取るのですか?」
教師は一瞬、言葉に詰まる。
「……仮定の話は不要です」
「ですが、危険は現実でした」
食い下がった、その瞬間。
「そこまでにしなさい」
別の声が、空気を切った。
セレス=アルディア。
「彼女の行動は、
確かに独断でした」
一拍置いて、続ける。
「しかし、
教師の指示を待たずに動いた点は、
規則違反と見なされても仕方ありません」
(……来たか)
正面から否定しない。
だが、完全には味方もしない。
教師は、逃げ道を得たように頷いた。
「今回は、双方注意とします」
授業は、それで終わった。
誰も怪我はしていない。
それだけが、救いだった。
だが――
《評価:変動なし》
《好感度:微減》
(効いてるな)
放課後。
下駄箱で靴を替えていると、
少し離れた場所から声がした。
「……さっきの」
顔を上げると、
彼女が立っていた。
今まで何度か、
視線だけは感じていた相手。
「納得、いかないよね」
断定じゃない。
確認するような言い方。
「正直に言えば」
それだけ答える。
彼女は小さく頷いた。
「……だと思った」
それ以上は踏み込まず、
彼女は自分の靴箱へ向かう。
(理解はする。
でも、まだ隣には来ない)
それでいい。
前世では、
こういう一言すらなかった。
(今回は、違う)
わたし(俺)は、
静かに靴を履き替えた。




