第七十一話 わたし(俺)、同じ場所に立つ
数週間後。
学園は、驚くほど普通だった。
授業は続き、
演習も行われ、
誰かが特別に持ち上げられることもない。
でも――
違いは、確かにあった。
「それ、どう思う?」
演習場で、
誰かが誰かに、そう聞く。
以前なら、
答えは一つだった。
強い人の判断。
声の大きい人の意見。
今は違う。
迷う。
考える。
止まる。
その時間が、許されている。
彼女は、
進行補助として立っている。
前に出すぎない。
でも、目はよく行き届いている。
危うい瞬間、
一歩だけ踏み出して、
静かに言う。
「一回、止めよう」
誰も、
それを否定しない。
わたし(俺)は、
少し離れた場所から見ている。
監督役。
是正役。
名前の通り、
出番は少ない。
(……これでいい)
前世では、
動かしている実感がなければ、
不安だった。
今は、
動かさなくても、
回っている。
放課後。
中庭のベンチ。
「ねえ」
彼女が言う。
「最近、静かだね」
「うん」
「やること、減った」
「寂しい?」
少し考える。
「……正直」
「少しだけ」
彼女は笑う。
「それ」
「ちゃんと役割を、手放せてる証拠」
空を見上げる。
青い。
静かだ。
「前世のわたし(俺)は」
「この景色、知らなかった」
「怒鳴って」
「追い立てて」
「自分だけ、正しいって思ってた」
彼女は、
何も言わずに聞いている。
「今は」
「間違えても」
「止められる」
「止めても」
「終わらない」
小さく、息を吐く。
「……救われたよ」
彼女は、
少し驚いた顔をして、
それから、頷いた。
「それなら」
「ここまで来た意味、あったね」
視界に表示。
《状態:安定》
《裁量:分散》
《孤独:役割として消化》
《前世影響:解消傾向》
夕方の鐘。
一日が、終わる合図。
わたし(俺)は、
同じ場所に立っている。
でも――
同じ人間じゃない。
支配しない。
黙らない。
逃げない。
それだけで、
世界は、少しだけマシになる。
それを知った。
それが、
この転生で、
わたし(俺)が得た答えだった。




