第七十話 わたし(俺)、裁定の向こう側
最終裁定は、朝だった。
空は、妙に澄んでいる。
嵐の前触れのような、静けさ。
評議室。
昨日より、人が多い。
記録係。
監査役。
外部顧問。
――逃げ場は、もうない。
議長が、口を開く。
「本件について」
「結論を述べる」
一瞬、
心臓の音が、はっきり聞こえた。
「彼女への役割停止は」
「手続き上、不備があった」
小さなどよめき。
「よって」
「停止措置は、撤回する」
彼女が、
わずかに息を吸う。
でも、
終わりじゃない。
議長は、続けた。
「ただし」
「介入基準は、再定義される」
「個人の裁量ではなく」
「複数名による判断体制を採用する」
視界に表示。
《裁定:部分是認》
《制度:改訂決定》
《裁量:共同管理》
保守派の教員が、
立ち上がる。
「……それでは」
「現場が、回らない」
声に、
焦りが滲む。
「責任が、曖昧になる」
その瞬間、
監査役が言った。
「いいえ」
「責任が、共有されるだけです」
「それを」
「怖れていたのは、誰ですか?」
空気が、凍る。
教員は、
言葉を失う。
「あなたは」
議長が、静かに言う。
「判断を独占していた」
「それは」
「秩序ではなく、支配です」
崩れた。
完璧に取り繕っていた仮面が。
教員は、
何も言えず、座る。
裁定は、続く。
「彼女は」
「正式に、進行補助役として復帰」
「あなたは」
わたし(俺)を見る。
「監督・是正役として再配置」
「単独判断は、行わない」
「だが」
「声を上げる役割は、失わない」
視界に表示。
《役割:正式確定》
《関係:制度内公認》
《孤独:役割化》
評議が、終わる。
廊下。
彼女が、
ゆっくり笑った。
「……終わったね」
「うん」
「でも」
「始まった」
外に出る。
朝日が、眩しい。
「ねえ」
彼女が言う。
「前世のあなたが見たら」
少し考える。
「信じないと思う」
「でも」
彼女は言う。
「今のあなたは、ここにいる」
歩き出す。
無双じゃない。
完全勝利でもない。
でも――
誰も、切り捨てられなかった。
それが、
前世では、できなかった結末。
裁定の向こう側で、
わたし(俺)は、
初めて、肩の力を抜いた。




