第七話 わたし(俺)、本物に目をつけられる
嫌な予感というのは、
だいたい当たる。
あの一件から三日後。
学園内の空気は、目に見えて変わっていた。
露骨な敵意は減った。
代わりに増えたのは――観察。
(様子見か)
これは前世で何度も見た流れだ。
騒ぐチンピラが消え、
本命が裏から動き始める前兆。
放課後。
図書棟へ向かう途中で、それは起きた。
「――少し、いいかしら」
声をかけてきたのは、
一人の上級生だった。
長い銀髪。
整った顔立ち。
学園指定とは思えないほど、
身体のラインを強調した制服の着こなし。
(目立つな)
だが、それ以上に――
(隙がない)
「何でしょう」
わたし(俺)は立ち止まる。
「あなたが、最近話題の編入生ね」
微笑みは柔らかい。
だが、その目は笑っていない。
「私は、セレス=アルディア」
聞いたことがある名前だった。
(上級生首席。
生徒会直属。
実力派エリート)
前世なら、
絶対に関わりたくないタイプ。
「少し、お話ししたいの」
「ここで?」
「ええ。
逃げないでしょう?」
試すような言い方。
(もう敵扱いか)
「構いません」
そう答えた瞬間。
視界に、初めて見る表示が走った。
《悪行検知:解析不能》
《警告:対象は検知を回避しています》
(……は?)
わたし(俺)は、内心で眉をひそめた。
初めてだ。
システムが“読めない”相手。
セレスは、こちらの反応を楽しむように言う。
「あなた、面白いわね」
「そうですか?」
「ええ。
多くの人は、
正義を振りかざすとき、
自分が正しいと信じたいだけ」
一歩、距離を詰めてくる。
「でもあなたは違う。
自分が嫌われる可能性を、
最初から織り込んで動いている」
(見抜かれてる)
「それで?」
「だから――危険」
セレスは、静かに告げた。
「学園はね、
秩序が最優先なの」
「間違った秩序でも、ですか?」
即座に返す。
一瞬、空気が張りつめた。
次の瞬間、
セレスは小さく笑った。
「……やっぱり、厄介」
敵意。
だが、排除ではない。
(利用する気か)
「忠告しておくわ」
「あなたは、
まだ“守られている”」
背を向ける直前、
彼女は振り返る。
「それが、
いつまで続くかは――
あなた次第」
去っていく背中。
《敵対フラグ:進行中》
《上位存在:接触》
(来たな……)
わたし(俺)は、深く息を吐いた。
前世でも、
一番厄介だったのはこういう相手だ。
正義でも悪でもない。
秩序を盾にするタイプ。
(でも)
口元が、わずかに緩む。
(やりがいはある)




