第六十五話 わたし(俺)、権限なしで立つ
圧力は、露骨だった。
放課後。
演習場の外。
彼女が、呼び止められている。
相手は、運営部に近い上級生たち。
「最近、目立つよね」
「勘違い、してない?」
声は穏やか。
でも、逃げ道を塞ぐ立ち位置。
わたし(俺)は、数メートル離れた場所にいる。
裁量は、ない。
介入権限も、ない。
(……それでも)
「進行補助ってさ」
「責任、重いんだよ?」
「失敗したら」
「誰が守ってくれると思う?」
彼女は、黙って聞いている。
以前なら、俯いていたかもしれない。
でも、今は違う。
「それは」
彼女が言う。
「最初から、わかってます」
「じゃあ」
「今すぐ、降りたら?」
空気が、張りつめる。
ここで、
“権限を持つ誰か”がいれば、
話は早い。
でも、いない。
だから――
権限のないわたし(俺)が、出る。
「その誘導」
「脅迫に近い」
全員が、振り向く。
「権限、戻ったの?」
「いいえ」
「だから、個人として話す」
一歩、前へ。
「役割を理由に」
「恐怖を与えるのは、正当化できない」
「それは」
「前の問題と、同じです」
上級生が、眉をひそめる。
「君」
「立場、わかってる?」
「わかってる」
即答。
「だから」
「ここで止める」
視線を、逸らさない。
沈黙。
誰かが、舌打ちする。
そして、離れる。
「……面倒なことになるよ」
「もう、なってる」
去っていく背中。
彼女が、息を吐く。
「……ありがとう」
「当たり前だ」
「権限がなくても」
「言えることは、ある」
視界に表示。
《介入:非公式》
《効果:抑止》
《リスク:上昇》
《関係:相互防衛》
帰り道。
「ねえ」
彼女が言う。
「怖くなかった?」
「怖かった」
正直に答える。
「でも」
「黙る方が、もっと怖い」
少し、笑う。
「それ」
「前世の反省、だよね」
「うん」
権限は、なかった。
でも、判断はあった。
力がなくても、
立つことはできる。
そして、それを――
ちゃんと、見ている人間がいる。
遠くで、
誰かが、動き始めていた。




