第六十三話 わたし(俺)、間違える
異変は、小さかった。
演習の進行。
生徒たちの判断。
全体としては、問題ない。
――はずだった。
「……待って」
彼女の声が、わずかに強張る。
「今の配置」
「危なくない?」
わたし(俺)は、即答しなかった。
(大丈夫だ)
(この程度なら、経験値で――)
前世の感覚が、
無意識に、顔を出す。
「続けよう」
「問題は起きない」
一瞬、
彼女が何か言いかけて、
口を閉じた。
演習は、進む。
そして――
起きた。
魔力の干渉。
連鎖。
一人の生徒が、転倒する。
大事には至らない。
怪我も、軽い。
でも。
空気が、凍る。
(……やった)
視界に表示。
《判断:過信》
《結果:軽度事故》
《信頼:揺らぎ》
教員が駆け寄る。
生徒たちのざわめき。
「判断を誤りました」
自分でも、驚くほど、
すぐに言葉が出た。
「わたし(俺)の責任です」
「今後、同様の判断はしません」
前世なら、
原因分析を後回しにし、
まず立場を守っていた。
今は、違う。
演習は、中断。
夕方。
人のいない校庭。
彼女が、前に立つ。
「……怒っていい?」
「うん」
視線を、逸らさずに答える。
「あなた」
「自分が止め役だって、忘れかけてた」
胸に、刺さる。
「経験で、押し切ろうとした」
「それ、前世の癖だよ」
何も、言い返せない。
「でも」
彼女は、少し息を整える。
「隠さなかった」
「言い訳もしなかった」
「だから」
「致命的じゃない」
視界に表示。
《関係:是正機能》
《信頼:再構築中》
《孤独:相互監視へ》
風が、吹く。
「ねえ」
彼女が言う。
「次は、ちゃんと聞いて」
「約束する」
「それから」
少しだけ、声を和らげる。
「一人で、決めないで」
頷く。
間違えた。
それは、事実だ。
でも、
間違えたことを、
誰かが止めてくれた。
前世では、
あり得なかったこと。
裁量は、力じゃない。
関係の中で、
揺れ続けるものだ。
わたし(俺)は、
それを、身をもって学んだ。




