第六十二話 わたし(俺)、象徴になる重さ
翌日。
掲示板の前に、人だかりができていた。
《演習参加制限:解除》
《理由:再検証の結果》
短い文。
謝罪は、ない。
(そういう形か)
彼女は、静かに紙を見つめている。
嬉しそうでも、悔しそうでもない。
「戻れるね」
「うん」
「でも……」
言葉が、続かない。
戻れる。
でも、元には戻らない。
演習場。
視線が、明らかに違った。
尊敬。
期待。
そして、依存。
(……来た)
「どうすればいいですか?」
「次は、何を判断すれば?」
次々に向けられる問い。
前世で、何度も浴びた光景。
(このままだと――)
彼女が、横に立つ。
小さく、囁く。
「今、あなたが答えたら」
「全部、あなたの判断になる」
「……わかってる」
演習が始まる。
わたし(俺)は、
あえて、黙る。
問いかけには、
問いで返す。
「どう思う?」
「他に選択肢は?」
最初は、戸惑い。
次に、不満。
「教えてくれないんですか?」
「教えるよ」
「でも、決めるのは、君たちだ」
視界に表示。
《象徴化:進行》
《依存リスク:上昇》
《裁量:分散試行》
《孤独:再浮上》
放課後。
人が、減った演習場。
「……疲れた」
思わず、漏れる。
「そりゃそうだよ」
彼女は、苦笑する。
「象徴になるって、重いもん」
「なりたくなかった」
「うん」
「でも、なっちゃった」
夕焼け。
「ねえ」
彼女が言う。
「前世のあなたは、ここでどうした?」
少し考える。
「全部、抱えた」
「期待に応えて」
「限界まで、やった」
「……今は?」
「今は」
「抱えない」
彼女は、安心したように頷く。
「それなら」
「私は、引っ張るよ」
「引っ張る?」
「あなたが立ち止まったら」
「名前、呼ぶ」
思わず、笑う。
孤独は、戻ってきた。
でも、質が違う。
これは、
一人で戦う孤独じゃない。
役割と向き合うための、
距離だ。
象徴になった。
でも、神様にはならない。
それが、
前世を繰り返さないための、
わたし(俺)の選択だった。




