第六十一話 わたし(俺)、声を上げる場へ
全校集会。
予定にはなかったはずの行事だ。
だが、掲示は簡素で、理由も書かれていない。
(隠す気はない、か)
体育館。
生徒も教員も、全員が集められている。
彼女は、最後列にいる。
演習参加制限は、まだ解除されていない。
目が合う。
小さく、頷き合う。
壇上に立ったのは、
運営部の代表。
「最近、学園内で」
「指導と介入の境界が、問題視されています」
言葉は、抽象的。
個人名は出さない。
だが、視線が、
こちらを一瞬、掠めた。
「秩序を守るため」
「一部の裁量を、見直す必要があります」
ざわめき。
(個人を切る準備だ)
前世なら、
ここで黙っていた。
空気を読み、
自分を守った。
でも、今は違う。
手を、挙げる。
体育館が、静まる。
「発言を許可してください」
一拍の沈黙。
運営部が、頷く。
壇上に上がる。
視線が、集中する。
「最近の問題は」
「秩序の話ではありません」
「声を上げた人間が」
「理由なく、場から外される」
「それが、正しい指導ですか?」
空気が、張りつめる。
「名前は出しません」
「でも、ここにいる全員が」
「何が起きたか、知っている」
彼女の方を見る。
一瞬だけ。
「ハラスメントは」
「怒鳴ることだけじゃない」
「排除」
「沈黙」
「曖昧な判断」
「それも、同じです」
視界に表示。
《公開発言:実行》
《制度抵抗:発生》
《支持:観測中》
《孤独:共有状態》
後方で、
小さく拍手が起きる。
一人。
また一人。
やがて、
止められない流れになる。
運営部の顔色が、変わる。
「……この件は」
「改めて、検証します」
完全な勝利ではない。
でも、流された沈黙は、
確かに、壊れた。
集会後。
彼女が、近づいてくる。
「……すごかったね」
「怖かったよ」
正直に言う。
「でも」
「一人じゃなかった」
彼女は、笑った。
少し、誇らしげに。
「これで」
「戻れないね」
「うん」
「でも、それでいい」
夕暮れの校庭。
視線は、まだある。
敵意も、警戒も。
それでも、
確実に変わったものがある。
声は、届いた。
前世では、
決してできなかったこと。
わたし(俺)は、
ここで、立っている。




