第六話 わたし(俺)、敵と味方を作る
結論から言う。
正論は、必ず敵を作る。
あの件は、思った以上に早く広まった。
教師に正面から意見した編入生。
しかも、制度と理屈で逃げ道を塞いだ美少女。
噂というのは、
事実よりも“感情”を運ぶ。
「すごいよね……」
「でも、やりすぎじゃない?」
「教師に楯突くなんて」
教室に入るだけで、空気が変わる。
(来たな)
前世で何度も経験した、
“評価が割れる瞬間”。
そんな中、わたし(俺)の席に
そっと声をかけてくる生徒がいた。
「……あの」
小柄な女子生徒。
あのとき、教師に言われていた子だ。
「ありがとう、ございます」
声は小さいが、はっきりしていた。
「助けたつもりはないよ」
わたし(俺)は、そう返す。
「ただ、間違ってると思ったから」
それだけでいい。
彼女は、深く頭を下げて席に戻った。
《好感度:微増》
(数字で出るのかよ)
内心で苦笑する。
一方で、
わたし(俺)を見る視線の中に、
明確な“敵意”も混ざり始めていた。
昼休み。
廊下を歩いていると、
進路を塞ぐように立つ影があった。
――上級生。
しかも、数人。
「君が、例の編入生か」
リーダー格らしい男子生徒が、
余裕の笑みを浮かべる。
「先生に恥をかかせたそうじゃないか」
(出た、代理正義)
前世でよく見た。
上司を批判されたときに、
なぜか部下が怒るやつ。
「恥をかかせたつもりはありません」
わたし(俺)は、落ち着いて答える。
「指導の内容について、
質問しただけです」
「それが問題なんだよ」
男子生徒は、肩をすくめる。
「空気、読めないんだね」
視界に表示。
《悪行検知:中度》
《分類:同調圧力・威圧》
(学園、フルコースだな)
わたし(俺)は、少しだけ首をかしげた。
「空気って、
規則より上でしたっけ?」
一瞬、沈黙。
「……は?」
「この学園は、
魔法と理論を学ぶ場所ですよね」
穏やかな口調で、続ける。
「誰かの機嫌を学ぶ場所ではない」
上級生の表情が、険しくなる。
「生意気だな」
「事実です」
被せる。
「それとも、
先輩方は“空気を読む訓練”を
受けてきたんですか?」
周囲の生徒が、足を止める。
――完全に、舞台ができた。
上級生は、舌打ちした。
「……もういい」
捨て台詞を残し、去っていく。
《悪行抑止:成功》
《敵対フラグ:ON》
(あ、フラグ立った)
だが、後悔はない。
前世では、
敵を作るのが怖くて黙っていた。
その結果、
自分が“敵”になっていた。
(今回は、違う)
わたし(俺)は、背筋を伸ばす。
味方ができて、
敵もできた。
それでいい。
正しいことをする以上、
全員に好かれる必要なんてない。




