第五十五話 わたし(俺)、守られる側になる
翌朝。
学園全体に、奇妙な緊張が走っていた。
理由は、すぐにわかる。
運営部からの通達。
《特別対応対象生徒 担当の再評価》
言葉は中立。
意味は、明確だった。
――成果を、個人の功績として認めない。
(予想通り)
教室へ向かう途中、
わざと聞こえるような声が混じる。
「結局、上に目をつけられたんだろ」
「善人ぶると、こうなる」
前世なら、
即座に切り返していた。
論理で潰し、立場で黙らせる。
今は、しない。
ただ、歩く。
演習前。
問題児班の生徒たちは、
落ち着かない様子だった。
「……あのさ」
一人が、口を開く。
「俺たちのせい、ですよね」
「違う」
即答だった。
全員を見る。
「判断したのは、わたし(俺)」
「責任は、こっちにある」
沈黙。
次に、歯噛みする音。
「納得できねえ」
それでも、
反発は向かってこなかった。
演習が始まる直前。
彼女が、前に出た。
初めてだ。
いつも一歩後ろにいたのに。
「言わせて」
その声は、強くはない。
でも、揺れなかった。
「この人は、命令しなかった」
「怖がらせなかった」
「逃げ道を残した」
生徒たちを見る。
「それって、簡単じゃない」
「力がある人ほど、できない」
一瞬、空気が止まる。
「監督? 制限?」
彼女は、はっきり言った。
「それで何が守れるの?」
――守られる。
その立場に立ったことが、
前世では、一度もなかった。
視界に表示。
《心理状態:動揺》
《防衛対象:主人公》
《孤独:一時解除》
胸の奥が、熱くなる。
(……これは)
演習は、
いつも通り、静かに進んだ。
指示は最小限。
判断は、生徒たち自身。
だが今日は、
空気が違う。
皆が、
“こちらを守ろう”としている。
放課後。
誰もいない渡り廊下。
「……ありがとう」
そう言うのに、
少し時間がかかった。
彼女は、肩をすくめる。
「言いたいことを言っただけ」
「あなたが、逃げなかったから」
夕日が差し込む。
「ねえ」
少し照れたように。
「次は、逃げないで呼んで」
「名前?」
「そう」
前世では、
名前を呼ぶと、
距離が縮まるのが怖かった。
今は――
「……わかった」
まだ、呼ばない。
でも、決めた。
視界に表示。
《関係:相互防衛》
《命名:確定間近》
《次段階:衝突》
守られる側になることも、
償いの一部なのだと、
初めて、理解した。




