第五十四話 わたし(俺)、試される配置
数日後。
掲示板に、新しい編成表が貼り出された。
ざわめきが、遅れて広がる。
(……来た)
わたし(俺)の名前の下に、
赤字で注記がある。
《特別対応対象生徒 担当》
意図は、はっきりしていた。
学園は、問題を“解決させたい”のではない。
わたし(俺)が、どう壊れるかを見たい。
演習場に集まったのは、
規律違反を繰り返す生徒、
指示を拒む者、
過去に暴力沙汰を起こした者。
前世なら、
真っ先に切り捨てていたタイプだ。
(……逃げない)
彼らの視線は鋭い。
期待も、信頼も、最初からない。
「で?」
一人が、挑発的に言う。
「今日は何を命令されるんだ?」
わたし(俺)は、首を横に振る。
「命令はしない」
「選択肢を出すだけ」
一瞬、空気が止まる。
「ここにいる理由は、それぞれ違う」
「でも、共通点がある」
全員の目を見る。
「判断を奪われた経験がある」
沈黙。
否定は、来なかった。
「だから今日は」
わたし(俺)は、地面に簡単な陣を描く。
「“自分で決める演習”をする」
条件だけを伝える。
制限だけを示す。
成功も失敗も、評価しない。
最初は、混乱。
次に、苛立ち。
そして――
少しずつ、声が出始める。
「こうしたらどうだ?」
「それは危険じゃないか?」
わたし(俺)は、口を挟まない。
視線と、頷きだけで応じる。
視界に表示。
《裁量:誘導型》
《干渉率:最低》
《心理回復:兆候》
離れた場所で、
彼女が見ている。
誰よりも静かに。
誰よりも真剣に。
中盤。
一人が、失敗する。
魔力制御を誤り、陣が崩れる。
誰も、怒鳴らない。
嘲笑もない。
「……次、どうする?」
その問いが、
自然に、出てきた。
(これでいい)
演習後。
問題児、と呼ばれていた生徒たちは、
言葉少なに、頭を下げた。
「……悪くなかった」
それだけで、十分だ。
夕方。
「わざと、きつい配置にされたね」
彼女が言う。
「うん」
「でも、前より楽だ」
「どうして?」
少し考える。
「前世では、力で抑えてた」
「今は、手を離してる」
彼女は、納得したように頷く。
「ねえ」
一拍置いて。
「そろそろ、呼び方を決めない?」
わたし(俺)は、足を止める。
「ずっと“あの少女”のままなのは、不便でしょ」
夕焼けが、彼女の横顔を染める。
(……確かに)
名前を呼ぶということは、
責任を持つということ。
前世では、
名前を“役職”で呼んでいた。
今世では――
「……次の機会にしよう」
彼女は、少しだけ笑った。
「うん。逃げないなら、それでいい」
視界に表示。
《関係:深化》
《命名:保留》
《次段階:準備完了》
試されても、
壊れなかった。
それが、何よりの答えだった。




