第三十二話 わたし(俺)、制度の歪みを見る
肩書きがついて、
最初に変わったのは――
判断の重さじゃない。
距離だ。
以前は、
迷っている視線が
そのまま向けられていた。
今は、
一度、止まる。
(……壁ができたな)
演習前。
教師が、
形式的に確認する。
「補佐意見は、
ありますか」
“確認”だ。
相談じゃない。
わたし(俺)は、
首を振る。
「現時点では」
教師は、
それで満足したように
進行に戻る。
(形式、か)
演習は、
問題なく進む。
だが――
細かい違和感が、
積もる。
危険度が上がる兆し。
判断が遅れる場面。
以前なら、
誰かが声を出した。
今は、
待つ。
(……待たれてる)
終盤。
小さなミス。
止めるほどではない。
だが、放置もできない。
教師が、
こちらを見る。
「補佐意見は?」
(ここで言えば、
“正解”になる)
一瞬、
迷う。
「……軽微ですが」
言葉を選ぶ。
「このまま続けるなら、
次の手順を
一段階落とした方がいい」
教師は、
すぐに頷く。
「了解」
即座に修正。
成功。
拍手。
安堵。
でも――
胸に、残る。
(今の)
誰かが言えた。
誰でも、言えた。
でも、
言わなかった。
放課後。
彼女が、
気づいたように言う。
「みんな、
あなたを見る回数、
増えたね」
「うん」
「頼ってる、っていうより」
言葉を探している。
「委ねてる」
その言葉に、
小さく息を吐く。
「それ、危ない」
「だよね」
視界に表示。
《役割依存:兆候》
《自発判断:低下》
《制度疲労:初期》
(これが、歪み)
正しさを集めるための制度が、
判断を集めすぎる。
止めるための役割が、
止める人を減らす。
(……嫌な構図だ)
わたし(俺)は、
決める。
このままじゃ、
ダメだ。
制度は、
人を守る。
でも――
考えるのは、
人のままでいないと。




